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2章 帝国の呪い
2-26 そのズレ
「メーデ、ポシュはもう戻ってるか」
「時間的には戻っていると思いますが、呼んできましょうか」
帝城の通路で会った皇帝陛下からの問いに答える。
ポシュは定時での仕事終了が基本だから宿舎に戻ってきていると思うが、姿を確認したわけではない。
クロウは何が何でも定時に仕事を終わらせるらしい。
大教会の修繕の方で呼ばれてしまっても。
日がある内は修繕工事を進めることもあるようだが、時間は時間なのでクロウは帰る。
「いや、俺が向かう」
んんっ?
皇帝陛下自らあの宿舎にっ?
通路にゴミは落ちてなかったよな。時間的にもう服装ヤバイヤツらが多くないか?数多くある部屋の一部は皇帝陛下に見せられたものじゃない。扉が閉まっていることを祈る。
慌てて俺もついていく。
というか、皇帝陛下の護衛はどこに行った?
帝城内でも撒かれるのはいつものことだが。
「そんなに急ぎの御用が?」
「急ぎと言えば急ぎだが、ポシュはそう思わなかったらしい」
「報告義務違反にあたりますか」
「他の者の話によるとそこまでの日数は経ってないようだから、その責を問うまでしない。が、あのポシュなら何を差し置いても真っ先に報告に来たのではないかと思えるような案件だ」
「、、、魔剣のことではなく?」
「魔剣より優先順位は高いな」
それほどまでに。
クロウ関連であることは察しがつくが、魔剣より優先順位が高い案件とは何だろう。
宿舎がざわめく。
皇帝陛下がこんなところを歩いていればどよめきもする。
皇帝陛下が正装な姿で正当な順路でここに現れたことなんてないからな。
それに抜け道、隠し扉、何でもござれの皇帝陛下が表立って行動するのは何かしらの理由があるに違いない。
「陛下、そこがポシュの部屋です」
「ここか。ポシュ、いるかっ」
もちろんノックなどしない。相手の都合なんてお構いなし。
けれど、さすがはポシュ。さっと立ち上がってから、片膝をつく。
すでにTシャツ、短パン姿だが。
「はい、皇帝陛下」
俺は気づかれないように部屋の扉をそっと閉める。
あ、ちょうど近くに、ポシュがフロレンスからもらった消音の魔道具があった。
ポチッとな。
アイツはこうなることを見越していたのか?
魔剣より優先順位が高い案件を話すのに、皇帝陛下は気にもしなさそうだ。宿舎の壁はそこまで厚くない。
「お前は帝国の呪いをクロウが解呪できることを知っていたな」
帝国の呪い。
その解呪はサザーラン皇帝陛下の悲願。
ただし、公には秘密の願い。
「はい」
すんなりと認めたが、ポシュは意味が分かっていないような目をしている。
知ってますが、何か?はて、こんなことを問うために皇帝陛下がわざわざここまで来たのか、と。
はっ、としてポシュが口を開く。
「俺っ、誰にも口外してませんよっ。他人に話してませんよっ。皇帝陛下が帝国の呪いを解呪したいということはっ。シエルドが推測してましたけどっ」
あ。
なるほど。
皇帝陛下が俺を見た。
「メーデ、解説を」
「ポシュは魔法で情報も収集してました。魔法がないポシュに察するという機能を期待する方が間違ってます」
「、、、なるほど、魔法がないポシュに期待する方が間違っているのか」
半目になってポシュを見た。どうやら納得したようだ。
皇帝陛下がポシュに近寄る。
「クロウとシエルドが解呪の話をしていたのだろう。聞いたときに報告が欲しかったのだが」
「、、、クロウは皇帝陛下から本を借りていると言っていたのですが?」
ポシュのお顔が疑問符でいっぱいだ。
「そうだが、」
「返すときに何も?」
「、、、ああ、あのクロウが何か言ってくれると思うか」
ほんの少しポシュが考える。
「けれど、クロウが皇帝陛下に伝えないのならば、それは何か意味のあることなのでしょう。俺が勝手に伝えるわけにはいきません」
おおっと、そう来たか。
とうとう親離れしたんだな、ポシュ。
皇帝陛下に我こそは右腕だとつきまとっていたのに。
、、、いや、親代わりがクロウに代わっただけなのか?
「んん?クロウはおそらく面倒だからと伝えなかっただけだと思うが」
「俺は二度と他人の栄光を横取りしたくはありません。クロウが受けるべき称賛は、クロウが手に入れるべきです」
成長したことは成長した。
以前のポシュは自分が一番であり、他人の功績も自分のものだった。
人としては確実に成長しているのだが。
「その志は大切なものだが、お前が帝国の軍人だということを忘れてはならない」
「はい、忘れてません」
ポシュが迷いなくキッパリ。
皇帝陛下が強く目を瞑ってしまった。
この会話が嚙み合っていないことに気づかないのは、ポシュのみ。
「魔法って偉大なものだったんだな」
俺はポツリと呟いてしまった。
皇帝陛下にこき使われていた頃、ポシュは目の下にクマを作って休みもなく走り回っていた。
今は定時に帰って来れるホワイトな環境でのお仕事で、お肌艶々、健康そのもの。睡眠時間も充分確保できている。
どちらが人間として幸せかと言うと考えるまでもない。
ポシュはもう戻らない方が幸せだ。
魔法が偉大というのは、俺の素直な感想だったが。
「ポシュの仕事能力は魔法によるものが大きかったということか?」
「精鋭部隊では魔法に頼る部分が大きかったと言えますが、クロウが追い出さないところを見ると人並みには仕事ができているんじゃないですか」
「ポシュの報酬は、クロウもシエルドも支払ってない」
アッシェン大商会ではなく帝国持ちである。英雄のまま、精鋭部隊名誉隊員のままの仕事である。
「面倒を見てもらっている立場ですからね、帝国は」
高い報酬を払ってまで雇いたい人物かどうかというと疑問は残る。魔法が使えない状態では。
どこも雇うところがなければ、家でも買って、俺がポシュを養おうと思ってはいるが。
今も昔もポシュが大量に買うのは食料品くらいだ。
贅沢品はそうそう買わないし、買いに行く暇もなかった。
ポシュはとりあえず携帯している武器すらも国が支給している量産品を使っていたくらいだ。
「うーん、ポシュ、重要なことは逐一報告しろ。いや、重要という曖昧な表現は良くないな。魔法が使えなくなった今、情報の選別能力も落ちているようだからな。どうせメーデに日々あったことを話しているんだろ。お前は帝国に雇われている。今まで課してなかったが日報を書いて隊長に提出しろ」
俺がポシュから聞いた話で重要そうなのは、きちんと俺から報告しろと。だから、魔剣の件も報告に行きましたよね。仕事してますよね、俺。
「日報?」
ポシュが首を傾げる。
あ、コレ、言っておかないと日記まがいの日報を提出されるヤツだ。日記を出されても、隊長が困惑するのみである。
今日も一日頑張ったー、今日は天気が良かったー、今日はクロウが上機嫌だったー、とか。
「日々の報告書のことだ。俺たちも案件ごとに報告書を提出していただろ。それを日々の仕事内容、進捗状況、薬部屋に来た来訪者や会話の内容等を書いておくといい」
コレで良いですか?
皇帝陛下がうんうん頷いている。とりあえずクロウと来訪者の会話が重要そうだからな。
情報が選別できないのなら、すべてを報告させればいい。それをチェックするのは隊長か副隊長。選別された重要な情報だけが上に行く。
おそらく、ほぼすべてが要らない情報だろう。微かに存在する必要な情報を得るためには仕方ないことだ。
精鋭部隊の隊長が頭を抱えている。
「どうかしました?」
「、、、メーデ、ポシュの日報なのだが」
深刻そうな顔。
まさかあれだけ言ったのに、日記をつけてきたのか?
「怖いっ、何なの、この薬部屋っ。クロウって完全に全属性持ちじゃん。かなりの実力者じゃんっ。ポシュが勝てなかったわけだよ」
特に来訪者もいない普通の日の日報でさえ、ポシュによって事細かに書かれていたクロウの薬作りの作業内容に精鋭部隊の隊長、副隊長、魔導士たちがどん底に落とされていた。
戦闘場面でもないのに。平和なはずの薬作りのはずなのに。
平和?
、、、重要な情報も埋もれるわな、感覚が麻痺するわ、こんな環境にいたら。
「時間的には戻っていると思いますが、呼んできましょうか」
帝城の通路で会った皇帝陛下からの問いに答える。
ポシュは定時での仕事終了が基本だから宿舎に戻ってきていると思うが、姿を確認したわけではない。
クロウは何が何でも定時に仕事を終わらせるらしい。
大教会の修繕の方で呼ばれてしまっても。
日がある内は修繕工事を進めることもあるようだが、時間は時間なのでクロウは帰る。
「いや、俺が向かう」
んんっ?
皇帝陛下自らあの宿舎にっ?
通路にゴミは落ちてなかったよな。時間的にもう服装ヤバイヤツらが多くないか?数多くある部屋の一部は皇帝陛下に見せられたものじゃない。扉が閉まっていることを祈る。
慌てて俺もついていく。
というか、皇帝陛下の護衛はどこに行った?
帝城内でも撒かれるのはいつものことだが。
「そんなに急ぎの御用が?」
「急ぎと言えば急ぎだが、ポシュはそう思わなかったらしい」
「報告義務違反にあたりますか」
「他の者の話によるとそこまでの日数は経ってないようだから、その責を問うまでしない。が、あのポシュなら何を差し置いても真っ先に報告に来たのではないかと思えるような案件だ」
「、、、魔剣のことではなく?」
「魔剣より優先順位は高いな」
それほどまでに。
クロウ関連であることは察しがつくが、魔剣より優先順位が高い案件とは何だろう。
宿舎がざわめく。
皇帝陛下がこんなところを歩いていればどよめきもする。
皇帝陛下が正装な姿で正当な順路でここに現れたことなんてないからな。
それに抜け道、隠し扉、何でもござれの皇帝陛下が表立って行動するのは何かしらの理由があるに違いない。
「陛下、そこがポシュの部屋です」
「ここか。ポシュ、いるかっ」
もちろんノックなどしない。相手の都合なんてお構いなし。
けれど、さすがはポシュ。さっと立ち上がってから、片膝をつく。
すでにTシャツ、短パン姿だが。
「はい、皇帝陛下」
俺は気づかれないように部屋の扉をそっと閉める。
あ、ちょうど近くに、ポシュがフロレンスからもらった消音の魔道具があった。
ポチッとな。
アイツはこうなることを見越していたのか?
魔剣より優先順位が高い案件を話すのに、皇帝陛下は気にもしなさそうだ。宿舎の壁はそこまで厚くない。
「お前は帝国の呪いをクロウが解呪できることを知っていたな」
帝国の呪い。
その解呪はサザーラン皇帝陛下の悲願。
ただし、公には秘密の願い。
「はい」
すんなりと認めたが、ポシュは意味が分かっていないような目をしている。
知ってますが、何か?はて、こんなことを問うために皇帝陛下がわざわざここまで来たのか、と。
はっ、としてポシュが口を開く。
「俺っ、誰にも口外してませんよっ。他人に話してませんよっ。皇帝陛下が帝国の呪いを解呪したいということはっ。シエルドが推測してましたけどっ」
あ。
なるほど。
皇帝陛下が俺を見た。
「メーデ、解説を」
「ポシュは魔法で情報も収集してました。魔法がないポシュに察するという機能を期待する方が間違ってます」
「、、、なるほど、魔法がないポシュに期待する方が間違っているのか」
半目になってポシュを見た。どうやら納得したようだ。
皇帝陛下がポシュに近寄る。
「クロウとシエルドが解呪の話をしていたのだろう。聞いたときに報告が欲しかったのだが」
「、、、クロウは皇帝陛下から本を借りていると言っていたのですが?」
ポシュのお顔が疑問符でいっぱいだ。
「そうだが、」
「返すときに何も?」
「、、、ああ、あのクロウが何か言ってくれると思うか」
ほんの少しポシュが考える。
「けれど、クロウが皇帝陛下に伝えないのならば、それは何か意味のあることなのでしょう。俺が勝手に伝えるわけにはいきません」
おおっと、そう来たか。
とうとう親離れしたんだな、ポシュ。
皇帝陛下に我こそは右腕だとつきまとっていたのに。
、、、いや、親代わりがクロウに代わっただけなのか?
「んん?クロウはおそらく面倒だからと伝えなかっただけだと思うが」
「俺は二度と他人の栄光を横取りしたくはありません。クロウが受けるべき称賛は、クロウが手に入れるべきです」
成長したことは成長した。
以前のポシュは自分が一番であり、他人の功績も自分のものだった。
人としては確実に成長しているのだが。
「その志は大切なものだが、お前が帝国の軍人だということを忘れてはならない」
「はい、忘れてません」
ポシュが迷いなくキッパリ。
皇帝陛下が強く目を瞑ってしまった。
この会話が嚙み合っていないことに気づかないのは、ポシュのみ。
「魔法って偉大なものだったんだな」
俺はポツリと呟いてしまった。
皇帝陛下にこき使われていた頃、ポシュは目の下にクマを作って休みもなく走り回っていた。
今は定時に帰って来れるホワイトな環境でのお仕事で、お肌艶々、健康そのもの。睡眠時間も充分確保できている。
どちらが人間として幸せかと言うと考えるまでもない。
ポシュはもう戻らない方が幸せだ。
魔法が偉大というのは、俺の素直な感想だったが。
「ポシュの仕事能力は魔法によるものが大きかったということか?」
「精鋭部隊では魔法に頼る部分が大きかったと言えますが、クロウが追い出さないところを見ると人並みには仕事ができているんじゃないですか」
「ポシュの報酬は、クロウもシエルドも支払ってない」
アッシェン大商会ではなく帝国持ちである。英雄のまま、精鋭部隊名誉隊員のままの仕事である。
「面倒を見てもらっている立場ですからね、帝国は」
高い報酬を払ってまで雇いたい人物かどうかというと疑問は残る。魔法が使えない状態では。
どこも雇うところがなければ、家でも買って、俺がポシュを養おうと思ってはいるが。
今も昔もポシュが大量に買うのは食料品くらいだ。
贅沢品はそうそう買わないし、買いに行く暇もなかった。
ポシュはとりあえず携帯している武器すらも国が支給している量産品を使っていたくらいだ。
「うーん、ポシュ、重要なことは逐一報告しろ。いや、重要という曖昧な表現は良くないな。魔法が使えなくなった今、情報の選別能力も落ちているようだからな。どうせメーデに日々あったことを話しているんだろ。お前は帝国に雇われている。今まで課してなかったが日報を書いて隊長に提出しろ」
俺がポシュから聞いた話で重要そうなのは、きちんと俺から報告しろと。だから、魔剣の件も報告に行きましたよね。仕事してますよね、俺。
「日報?」
ポシュが首を傾げる。
あ、コレ、言っておかないと日記まがいの日報を提出されるヤツだ。日記を出されても、隊長が困惑するのみである。
今日も一日頑張ったー、今日は天気が良かったー、今日はクロウが上機嫌だったー、とか。
「日々の報告書のことだ。俺たちも案件ごとに報告書を提出していただろ。それを日々の仕事内容、進捗状況、薬部屋に来た来訪者や会話の内容等を書いておくといい」
コレで良いですか?
皇帝陛下がうんうん頷いている。とりあえずクロウと来訪者の会話が重要そうだからな。
情報が選別できないのなら、すべてを報告させればいい。それをチェックするのは隊長か副隊長。選別された重要な情報だけが上に行く。
おそらく、ほぼすべてが要らない情報だろう。微かに存在する必要な情報を得るためには仕方ないことだ。
精鋭部隊の隊長が頭を抱えている。
「どうかしました?」
「、、、メーデ、ポシュの日報なのだが」
深刻そうな顔。
まさかあれだけ言ったのに、日記をつけてきたのか?
「怖いっ、何なの、この薬部屋っ。クロウって完全に全属性持ちじゃん。かなりの実力者じゃんっ。ポシュが勝てなかったわけだよ」
特に来訪者もいない普通の日の日報でさえ、ポシュによって事細かに書かれていたクロウの薬作りの作業内容に精鋭部隊の隊長、副隊長、魔導士たちがどん底に落とされていた。
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