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2章 帝国の呪い
2-31 追い詰め追い詰め
「皇帝陛下ー、落ち着きましたー?」
「なんかムカつくから語尾を伸ばすなっ」
ここは俺に宛がわれた牢の中。
鉄格子を壊しかけたので、わざわざ鉄格子の扉を開けてご案内した。
この国の最高権力者が牢の中にいる不思議。
皇帝陛下はベッドの横に腰かけ、お茶を啜っている。
他に座るところもないからな。
熱いお茶は俺が出したものだが。どこかの空間から。
「まったくもー、わがままなんだからー」
「お前、わざとか?」
「ああ、バレましたか」
わざとじゃないわけないじゃありませんかー。
他の牢や通路にいる帝国軍人さんたちが本当にかわいそう。
とりあえず服を着ようとしている者や右往左往している者も多い。
サザさんの格好で来ることはあっても、正装な軍服でここに来ることはなかった皇帝である。
そもそも、この時間には牢獄に来ない。
看守でさえ対応がまったく判断できなくても仕方ないことである。
「お前が俺に方法を直接言いにくれば良かったじゃないか」
「いやー、さすがに居たたまれず、ポシュとメーデをご自分の執務室に放置してここまで逃げてくるとは、俺も思いつきもしませんでしたよー」
「くそっ」
皇帝がやさぐれている。
黒ワンコちゃんたち情報をありがとう。まだ動転しているのか、自分が説明してないのに俺がわかっていることに対しても疑問を抱かない。
「はっはっはー、で?」
黒い笑顔を浮かべてやる。
「うっ、」
「自ら方法を聞いてきたのに、わざわざ教えたら疑うってどういう了見なんですかね?想像通り、俺たちを捨て駒にする予定なんですかね?最悪ですね?」
「そうじゃなくって、考える時間が欲しいってことだ。重大なことを即決できるほど情報が集まっていないっ」
「はっはっはー、言い訳がヘタクソですねえ。そうですよねー、思いついたら即断即決の皇帝陛下様様が言い訳なんてしたことない、、、いや、皇后殿下にはしているのか、ほとんどしたことがないから上達しないですよねー」
「皇帝陛下、」
コツコツ、と形ばかりのノックを鉄格子にしている。
鉄格子の向こうに、コックコートのナナキ氏が現れている。
無精ヒゲも生えているオッサンスタイルだ。
この姿で牢獄内を普通に歩けるのだから、今の時間は平和だ。酔ったヤツらはナナキ氏にも容赦ないんじゃないか?あ、手を出したら危険なのは相手だと?それもそうか、皇族は実力者揃いだ。
さすがは皇弟殿下。
会話をとめるタイミングも素晴らしい。
「牢ではお話がすべて筒抜けになります。せめて食堂までご移動ください」
会話を周囲に垂れ流さないための魔法は使わないということか。
ま、牢屋内にいる皇帝の姿を見せ続けるわけにはいかないか。
「ナナキー、コイツが策略るー。俺をハメるー。臣下にあんな目で見られたことないのにー」
おおっと。
帝国で幸せに暮らしている皇帝には辛い状況か?
帝国の民は軍人でなくとも皇帝陛下に心酔している。
まさに信仰。まさに教祖様、、、いや、神か。
臣下なら尊敬の眼差しを向けることはあっても、本気で非難の目を向けることはない。
どんなに無茶苦茶なことを仕出かす皇帝であったとしても、最終的には優しい眼差しやら期待の眼差しやらを向けられる、皇帝陛下にとって甘く優しい世界なのである。
スラム街出身者ですら刷り込まれる皇帝絶対の教えである。
「本当に、貴方が俺の気持ちを理解できることなんて、皇帝の地位から離れてもないのでしょうね」
死んでもわからないだろう。
ごく一部を除いて、生きているだけで非難の目で見られ、蔑みの視線に晒され、存在を無視されるような者のことなど。
だから、俺はそのごく一部を大切にする。
親にも大切にされなかった者が、彼らに執着するのは当たり前のことだ。
与えられた温もりがすでに消え去っていても、その伸ばされた手があまりにも温かかったから。
俺はその伸ばされた手を失うことがものすごく辛いことをもう知っているから。
「クロウも読書を中断して、こちらに来てもらえないか」
おおっとー、俺、片手に本を開いたまま皇帝陛下のお相手をしてたんですかー。
知ってたけどー。
片手で熱々のお茶をいれる妙技。というより、魔法だから難なくできる。
ナナキ氏に言われたら仕方ない。パタンと本を閉じて立ち上がる。
侵攻する土地で、侵略した土地でどんな目で見られようと、皇帝にとってはそれらはどうでもいい存在。
そもそも、帝国軍がそんな目を皇帝が気づく前に粛清している。
だから、本当にどうでもいい。
それらの視線を向ける者たちに真摯に、誠実に、一筋の間違いなく対応することを求められることすらない。
そうしなければ殺される危険性が高い者たちのことなんて知る由もない。
帝国の皇帝は自分が国を守っていると勘違いしている。
一人でできることなどたかが知れているというのに。
どれだけ狂信的な国民によって自分が守られているのか、知ろうともしないで。
場所を食堂に移して。
夕食はすでに終了。厨房も後片付けと明日の準備をしている。
「はい、お茶どうぞ」
「ありがとうございます、ナナキさん」
おおー、俺の前にはお茶菓子も出たぞー。
もう歯も磨いてしまったのにー、喜んで食べるけどー、甘いものは別腹ー。
ちょっとお高いお菓子じゃありませんかー、これ。うみゃーうみゃー。
ナナキ氏はこういう心遣いをさり気なくできる男だ。モテないわけがない。
「俺には?」
「迷惑を顧みず、そんな格好で飛び込んできたのだから、ここで出されると思いますか」
ナナキ氏も飛び切りの笑顔だ。
「はい、部屋に戻ってから食べます」
食べることは食べるんだね。
見ちゃったら食べたくなるのは仕方ない。
「それと皇帝陛下の執務室でポシュを拘束し続けているメーデがこの後どうしましょうかと困惑しているそうですが?」
「どうしようか。ポシュもクロウに唆されているだけだからな。ただ、何も処罰しないのもどうかと」
何で親切にも報告してくれた者を処罰するんですかね?
自分の意に反した解呪方法だったからですかね?
優しい解呪方法なんてあるわけないじゃないか。解呪方法なんて一番嫌がることを嫌がらせのように指定するのが常識だ。
追い詰めるか。
「やっだなー、ポシュは自分の意志で行動しているだけですよー?俺の影響力なんてまだまだ微々たるものですからねー。それにポシュは報告しただけなのに、何を処罰するんですかねー。皇帝陛下に尊敬する部分なんか欠片もないと気づいちゃっただけじゃないですかー」
「ぐふっ」
「それに、ナナキさんに判断を丸投げするのも間違ってますよ。皇帝陛下はいつも傍若無人なんですから、自分がし難い判断だけ他人に頼るのはいかがなものかと」
「皇帝陛下にここまで言える者って今までいなかったからなあ。新鮮」
「感心するなっ、ナナキっ」
「親でも苦言を呈するのは皇太子時代まで、というのは本当だったようですね。私は皇帝陛下が皇太子時代には産まれてなかったので事実かどうかわかりませんでしたが、皇帝になってしまったら、帝国ではすべての行為が肯定されますから」
誰も皇帝陛下に間違っているとは言えない、言わない。
皇帝陛下は常に正しいのだ、帝国では。
妻だって対等に話し合える存在ではない。
それは皇后殿下と呼ばれる国であることが証明している。
妻もまた皇帝の臣下だ。
孤高の支配者と言えば格好良いが、我がままやりたい放題が現実。
帝国の皇帝は結果がすべて。結果が良ければすべて良しの世界であり、近隣諸国を圧倒する強い皇帝であったからこそすべての民がついてきていた。
「それで、どうされるんですか?」
「ポシュはとりあえず」
「ポシュのことじゃないですよ。貴方は息子さんたちが可愛くて可愛くて仕方ないのでしょう?帝国の民を裏切っても」
「裏切っているわけでは」
「長男の皇太子殿下が皇帝になったとき大変ですね。帝国では強い皇帝でなければ皇帝と認められないのに、父親が独断で鎖を切ろうとしているんですからね」
「アイツだって鍛錬してきて強いのだから、」
「皇帝陛下、貴方は二、三十歳の人生三人分を喰らっておきながら、その言葉が吐けるのですか?たった一人の努力で今の貴方が形成されたと本気で思っているのなら、貴方は本当に皇帝陛下様様なのでしょうね」
誰も正面から言うことないから、この皇帝は自覚したことすらないのだろう。
自分が兄弟を殺していることにも。
解呪して苦労するのは自分ではなく長男であることも。
解呪したいのなら、すべてを熟慮した後にすべて自分で後始末しやがれ。
「なんかムカつくから語尾を伸ばすなっ」
ここは俺に宛がわれた牢の中。
鉄格子を壊しかけたので、わざわざ鉄格子の扉を開けてご案内した。
この国の最高権力者が牢の中にいる不思議。
皇帝陛下はベッドの横に腰かけ、お茶を啜っている。
他に座るところもないからな。
熱いお茶は俺が出したものだが。どこかの空間から。
「まったくもー、わがままなんだからー」
「お前、わざとか?」
「ああ、バレましたか」
わざとじゃないわけないじゃありませんかー。
他の牢や通路にいる帝国軍人さんたちが本当にかわいそう。
とりあえず服を着ようとしている者や右往左往している者も多い。
サザさんの格好で来ることはあっても、正装な軍服でここに来ることはなかった皇帝である。
そもそも、この時間には牢獄に来ない。
看守でさえ対応がまったく判断できなくても仕方ないことである。
「お前が俺に方法を直接言いにくれば良かったじゃないか」
「いやー、さすがに居たたまれず、ポシュとメーデをご自分の執務室に放置してここまで逃げてくるとは、俺も思いつきもしませんでしたよー」
「くそっ」
皇帝がやさぐれている。
黒ワンコちゃんたち情報をありがとう。まだ動転しているのか、自分が説明してないのに俺がわかっていることに対しても疑問を抱かない。
「はっはっはー、で?」
黒い笑顔を浮かべてやる。
「うっ、」
「自ら方法を聞いてきたのに、わざわざ教えたら疑うってどういう了見なんですかね?想像通り、俺たちを捨て駒にする予定なんですかね?最悪ですね?」
「そうじゃなくって、考える時間が欲しいってことだ。重大なことを即決できるほど情報が集まっていないっ」
「はっはっはー、言い訳がヘタクソですねえ。そうですよねー、思いついたら即断即決の皇帝陛下様様が言い訳なんてしたことない、、、いや、皇后殿下にはしているのか、ほとんどしたことがないから上達しないですよねー」
「皇帝陛下、」
コツコツ、と形ばかりのノックを鉄格子にしている。
鉄格子の向こうに、コックコートのナナキ氏が現れている。
無精ヒゲも生えているオッサンスタイルだ。
この姿で牢獄内を普通に歩けるのだから、今の時間は平和だ。酔ったヤツらはナナキ氏にも容赦ないんじゃないか?あ、手を出したら危険なのは相手だと?それもそうか、皇族は実力者揃いだ。
さすがは皇弟殿下。
会話をとめるタイミングも素晴らしい。
「牢ではお話がすべて筒抜けになります。せめて食堂までご移動ください」
会話を周囲に垂れ流さないための魔法は使わないということか。
ま、牢屋内にいる皇帝の姿を見せ続けるわけにはいかないか。
「ナナキー、コイツが策略るー。俺をハメるー。臣下にあんな目で見られたことないのにー」
おおっと。
帝国で幸せに暮らしている皇帝には辛い状況か?
帝国の民は軍人でなくとも皇帝陛下に心酔している。
まさに信仰。まさに教祖様、、、いや、神か。
臣下なら尊敬の眼差しを向けることはあっても、本気で非難の目を向けることはない。
どんなに無茶苦茶なことを仕出かす皇帝であったとしても、最終的には優しい眼差しやら期待の眼差しやらを向けられる、皇帝陛下にとって甘く優しい世界なのである。
スラム街出身者ですら刷り込まれる皇帝絶対の教えである。
「本当に、貴方が俺の気持ちを理解できることなんて、皇帝の地位から離れてもないのでしょうね」
死んでもわからないだろう。
ごく一部を除いて、生きているだけで非難の目で見られ、蔑みの視線に晒され、存在を無視されるような者のことなど。
だから、俺はそのごく一部を大切にする。
親にも大切にされなかった者が、彼らに執着するのは当たり前のことだ。
与えられた温もりがすでに消え去っていても、その伸ばされた手があまりにも温かかったから。
俺はその伸ばされた手を失うことがものすごく辛いことをもう知っているから。
「クロウも読書を中断して、こちらに来てもらえないか」
おおっとー、俺、片手に本を開いたまま皇帝陛下のお相手をしてたんですかー。
知ってたけどー。
片手で熱々のお茶をいれる妙技。というより、魔法だから難なくできる。
ナナキ氏に言われたら仕方ない。パタンと本を閉じて立ち上がる。
侵攻する土地で、侵略した土地でどんな目で見られようと、皇帝にとってはそれらはどうでもいい存在。
そもそも、帝国軍がそんな目を皇帝が気づく前に粛清している。
だから、本当にどうでもいい。
それらの視線を向ける者たちに真摯に、誠実に、一筋の間違いなく対応することを求められることすらない。
そうしなければ殺される危険性が高い者たちのことなんて知る由もない。
帝国の皇帝は自分が国を守っていると勘違いしている。
一人でできることなどたかが知れているというのに。
どれだけ狂信的な国民によって自分が守られているのか、知ろうともしないで。
場所を食堂に移して。
夕食はすでに終了。厨房も後片付けと明日の準備をしている。
「はい、お茶どうぞ」
「ありがとうございます、ナナキさん」
おおー、俺の前にはお茶菓子も出たぞー。
もう歯も磨いてしまったのにー、喜んで食べるけどー、甘いものは別腹ー。
ちょっとお高いお菓子じゃありませんかー、これ。うみゃーうみゃー。
ナナキ氏はこういう心遣いをさり気なくできる男だ。モテないわけがない。
「俺には?」
「迷惑を顧みず、そんな格好で飛び込んできたのだから、ここで出されると思いますか」
ナナキ氏も飛び切りの笑顔だ。
「はい、部屋に戻ってから食べます」
食べることは食べるんだね。
見ちゃったら食べたくなるのは仕方ない。
「それと皇帝陛下の執務室でポシュを拘束し続けているメーデがこの後どうしましょうかと困惑しているそうですが?」
「どうしようか。ポシュもクロウに唆されているだけだからな。ただ、何も処罰しないのもどうかと」
何で親切にも報告してくれた者を処罰するんですかね?
自分の意に反した解呪方法だったからですかね?
優しい解呪方法なんてあるわけないじゃないか。解呪方法なんて一番嫌がることを嫌がらせのように指定するのが常識だ。
追い詰めるか。
「やっだなー、ポシュは自分の意志で行動しているだけですよー?俺の影響力なんてまだまだ微々たるものですからねー。それにポシュは報告しただけなのに、何を処罰するんですかねー。皇帝陛下に尊敬する部分なんか欠片もないと気づいちゃっただけじゃないですかー」
「ぐふっ」
「それに、ナナキさんに判断を丸投げするのも間違ってますよ。皇帝陛下はいつも傍若無人なんですから、自分がし難い判断だけ他人に頼るのはいかがなものかと」
「皇帝陛下にここまで言える者って今までいなかったからなあ。新鮮」
「感心するなっ、ナナキっ」
「親でも苦言を呈するのは皇太子時代まで、というのは本当だったようですね。私は皇帝陛下が皇太子時代には産まれてなかったので事実かどうかわかりませんでしたが、皇帝になってしまったら、帝国ではすべての行為が肯定されますから」
誰も皇帝陛下に間違っているとは言えない、言わない。
皇帝陛下は常に正しいのだ、帝国では。
妻だって対等に話し合える存在ではない。
それは皇后殿下と呼ばれる国であることが証明している。
妻もまた皇帝の臣下だ。
孤高の支配者と言えば格好良いが、我がままやりたい放題が現実。
帝国の皇帝は結果がすべて。結果が良ければすべて良しの世界であり、近隣諸国を圧倒する強い皇帝であったからこそすべての民がついてきていた。
「それで、どうされるんですか?」
「ポシュはとりあえず」
「ポシュのことじゃないですよ。貴方は息子さんたちが可愛くて可愛くて仕方ないのでしょう?帝国の民を裏切っても」
「裏切っているわけでは」
「長男の皇太子殿下が皇帝になったとき大変ですね。帝国では強い皇帝でなければ皇帝と認められないのに、父親が独断で鎖を切ろうとしているんですからね」
「アイツだって鍛錬してきて強いのだから、」
「皇帝陛下、貴方は二、三十歳の人生三人分を喰らっておきながら、その言葉が吐けるのですか?たった一人の努力で今の貴方が形成されたと本気で思っているのなら、貴方は本当に皇帝陛下様様なのでしょうね」
誰も正面から言うことないから、この皇帝は自覚したことすらないのだろう。
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