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2章 帝国の呪い
2-38 明晰夢
夢から覚めると、可愛い寝顔のクロウが腕のなかにいた。
熱い肌もクロウのものだとずっと触っていたくなるから不思議だ。
まだまだ暗い時間、まどろみに引き戻されそうになる。
あの二人はクロウに会わないまま消えてしまうのだろうか。
今回の情報量は今までとは桁違い。
俺に伝わることを確信して、話したのだろう。
うちの家は生まれた子供全員に明晰夢を見る訓練をする。
ただ、毎朝見た夢を思い出し、紙に記すだけの作業だ。
銀髪、生まれながらにして白髪の子は王族に近しい者の証。
今となっては国外からの血も混じるのでそんなことはないのだが。
伯爵家でありながらこの家が王族に珍重されるわけは、昔、予知夢を見る者がいたからだ。
予知の能力はどこの国家も欲しがるもの。
たとえ眉唾ものであったとしても。
たった一人、強く色濃く予知夢を見る者がいたおかげで、この家は絶やすことなく生き続けていられる。
いつかまた、生まれる可能性があるからだ。
だから、王族は遠縁の者を使って血をつなげた。
絶対に他の者に取られないように。
ただし、力を過度に持たせないよう現状維持のままで。
誰かに取られたくないからといって、全員殺してしまうには惜しい能力が予知。
王族が監視するのにちょうどいい伯爵という爵位。遠からず、近からずの存在。
けれど、その先祖以降は予知夢を見る者は現れない。
というか、正夢レベルのものなら家族全員が見ている。
だが、区別がつかないのだ。
それが普通の夢なのか、予知夢なのか。
現実で起こってみて、ああ記録に書いてあったと判断する程度。
しかも日常的な出来事なので、特に国家を揺るがす危機をみるほどの予知夢でもない。
それではまったく意味をなさない。
そして、十も過ぎれば、予知夢の才能はないと判断される。
幼い頃から他の兄弟たちはささやかなことでも夢で見たことが現実に起こったならば、両親に嬉々として報告しに行った。
少しでもかまってほしくて。
だから、自分から夢の行動に寄せることもしばしばだった。
俺はその姿を浅ましいものだと思い見ていた。
現実で起こったことがあったとしても、その日の夢を書き換えた。
自分が出てくる夢だけを紙に書いた。
自分と関わらない他人や遠くの出来事、ましてや知らない人のことなど責任が持てないから。
両親はたまに子供たちの記した記録を読んでいたようだが、特に期待する者はいなかったようだ。
もう書かなくていい、と子供全員に言った。
今でも印象に残っている夢がある。
紙になど書かなかった。
記録に残さなかった。
大人になった俺がいた。目線がかなり高かった。
隣に誰かいた。
そこは草原だった。
一面の草むらだった。
「一年も経つと雑草だらけになるなあ」
俺が言った。
言ったにもかかわらず、意味は分からなかった。
一年?
「王都が更地になるなんて、誰が予想しただろうな」
「昔、こういう風景を夢で見た気がする」
夢なのに、夢で見たとは?
自分の発言なのに、変だからこそ覚えてしまっていた。
二人で草原に突っ立っていただけの夢なのに。
穏やかで、幸せな気持ちで、幼いながらもこの夢がずっと続けばいいのにと思った。
隣に誰が立っていたのかわからないのが残念だった。
ポシュは夢から覚めても、あの忠告を記憶しているだろうか。
メーデが大切だと思うなら、生きていてほしいと願うなら、動かなければならない。
迷っている暇はない。
ここはそういう国だから。
夢を覚えていないのなら、仕方ない。
それだけの存在だったということだろう。
ポシュに生きていてもらいたい黒ワンコたちが邪魔する可能性もあるが。
帝国の皇帝直属の精鋭部隊というのは、皇帝の命令実行部隊である。
帝国内で権力があるかというと、皇帝の命令の範囲内で最強と表現できるかもしれない。ただし、本人や家の権力で何かをするという点においてはそこまでではない。
帝国で権力を持っているのは、まず皇帝、次に皇族、その次に上流階級と続く。
上流階級であったとしても、軍で功績を上げ続けなければすぐに落ちぶれるのも帝国だ。
どんなに実力があったとしても、どんなに皇帝に可愛がられても、後ろ盾のないポシュは使い捨ての駒でしかない。
魔法が使えていた当時のポシュに対して、皇帝の態度もそのようなものだった。
皇帝に心酔していて、利用しやすく、容易く使える駒。身を粉にして尽くし、死ぬ限界ですら本人にはどうでもいい。
五百層での戦いでは、そのようにしか見えなかった。
あの皇帝がポシュを生かす選択をしたのは、なぜだろう。
クロウがいなければ成り立たなかったポシュの生存。
皇帝はクロウに対価を何一つ払っていない。
帝都も帝国全土も火の海にされなかった対価も。
審判の門がすべてを喰らいつくすのを止めた対価も。
皇帝はすべてを踏み潰す気なのか?
ポシュをまた容易く切り捨てる予定だったのか?
メーデを生贄の代理にしたのはどういうつもりなのだろう?
俺の頭では答えが出ない。
「おはよう、セリム」
ほんのり寝ぼけた目が俺を見て微笑む。
クロウの額に軽く口づけをする。
「おはよう、クロウ。いい夢、見れた?」
「ううっ、お前は会えたのか」
俺の両頬をクロウが両手でムニムニ押している。
全力で可愛い。
「全力で寝てしまった。何一つ夢の欠片さえ見なかった」
「愛し合って身体が疲れたんだろ。本当は朝まで愛し合いたいけど、この行為に慣れてくれば体力もつくんじゃないか」
「くぅっ、騎士の体力と若さに勝てるわけがないだろっ」
ムニー。頬が潰れる。
「じゃあ、シャワーを浴びながらイチャイチャして、それから朝食でも取りに行こうか」
「、、、うん」
頬をブニブニと軽くつねられた。
なんて破壊力だ。
まだまだ知ることがこんなにもあるなんて。可愛さは無限かっ。
俺はクロウをギュッと抱き締めてから抱き上げた。
「身体強化の魔法も使ってないのに、こんなに軽々と」
「あ、そうか、俺の筋肉はクロウを抱くためにあったのかもしれない」
「いや、それだけならそこまでの筋肉は要らんだろ」
お互いに笑う。
クロウを部屋の風呂場に連れて行きながら。
「うちの妻と息子はセリムに何を話してくれた?」
「今日の話は少し長かったな。シャワーを浴びながら話すよ」
クロウの肉体を隅々まで洗いながら、喘がせながら、夢の話をする。
黒髪のひ孫の話だけは除いて。
それは今、言うべき話ではないから。どんなに知っていたことを恨まれようと。
あの二人もそれがわかっているから俺に伝えたのだ。
黒髪の平民でも親がいるのなら、勝手に連れ去ったら誘拐だ。
その上、そのひ孫がまだ助けを乞うていないのなら、ただのありがた迷惑に過ぎない。事情も何も知らない者が、子供で何も知らないのだから問答無用で救い出せ、と言うだけなら簡単だ。
おそらく、あの二人も俺たちに家族ごっこをしろと言うのではない。
必要最小限の助けをしてほしいだけ。生きるための。
その子も過剰な手助けは必要ないだろう。
リンク王国では黒髪は生き辛い。
それを本当に自覚したときでしか、救いの手を取ることはないだろう。
他国ではそんなこと関係ない国が多いのだから。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
訂正のお知らせ。
皆さま、ご覧いただきありがとうございます。
登場人物コーダの年齢設定の変更をしました。
捕虜の一人でリンク王国に帰ったコーダですが、年齢設定を十九歳前後あたりに変更いたします。貴族高等学校卒業後、騎士団入団してから一、二年という感じにしました。
騎士団入団から一、二年というのは変更ありません。
訂正箇所。
【訂正前】
1-25
十代後半とはいえ成人したてなら、まだまだ大人になり切れてない子供の延長線上に立っている途上だろうが、若い若いで許されるのは内輪の間だけ。
【訂正後】
十代後半とはいえ社会に出て一、二年程度なら、まだまだ大人になり切れてない子供の延長線上に立っている途上だろうが、若い若いで許されるのは内輪の間だけ。
【訂正前】
1-オマケ 登場人物紹介
●コーダ・セイティ●
騎士団の中では、身長小さめ、可愛らしい部類に入る。
美肌を追求する筋肉、男爵家三男で、十代後半、成人したて。
捕虜だったが、リンク王国へ帰国。
【訂正後】
→成人したてを消す。
今後も年齢設定を動かす可能性もありますので、正確な表記はしないままで行きたいと思います。
他にも訂正が必要な箇所があるかもしれませんが、このくらいの年齢なのだなーとご了承ください。
よろしくお願いします。
熱い肌もクロウのものだとずっと触っていたくなるから不思議だ。
まだまだ暗い時間、まどろみに引き戻されそうになる。
あの二人はクロウに会わないまま消えてしまうのだろうか。
今回の情報量は今までとは桁違い。
俺に伝わることを確信して、話したのだろう。
うちの家は生まれた子供全員に明晰夢を見る訓練をする。
ただ、毎朝見た夢を思い出し、紙に記すだけの作業だ。
銀髪、生まれながらにして白髪の子は王族に近しい者の証。
今となっては国外からの血も混じるのでそんなことはないのだが。
伯爵家でありながらこの家が王族に珍重されるわけは、昔、予知夢を見る者がいたからだ。
予知の能力はどこの国家も欲しがるもの。
たとえ眉唾ものであったとしても。
たった一人、強く色濃く予知夢を見る者がいたおかげで、この家は絶やすことなく生き続けていられる。
いつかまた、生まれる可能性があるからだ。
だから、王族は遠縁の者を使って血をつなげた。
絶対に他の者に取られないように。
ただし、力を過度に持たせないよう現状維持のままで。
誰かに取られたくないからといって、全員殺してしまうには惜しい能力が予知。
王族が監視するのにちょうどいい伯爵という爵位。遠からず、近からずの存在。
けれど、その先祖以降は予知夢を見る者は現れない。
というか、正夢レベルのものなら家族全員が見ている。
だが、区別がつかないのだ。
それが普通の夢なのか、予知夢なのか。
現実で起こってみて、ああ記録に書いてあったと判断する程度。
しかも日常的な出来事なので、特に国家を揺るがす危機をみるほどの予知夢でもない。
それではまったく意味をなさない。
そして、十も過ぎれば、予知夢の才能はないと判断される。
幼い頃から他の兄弟たちはささやかなことでも夢で見たことが現実に起こったならば、両親に嬉々として報告しに行った。
少しでもかまってほしくて。
だから、自分から夢の行動に寄せることもしばしばだった。
俺はその姿を浅ましいものだと思い見ていた。
現実で起こったことがあったとしても、その日の夢を書き換えた。
自分が出てくる夢だけを紙に書いた。
自分と関わらない他人や遠くの出来事、ましてや知らない人のことなど責任が持てないから。
両親はたまに子供たちの記した記録を読んでいたようだが、特に期待する者はいなかったようだ。
もう書かなくていい、と子供全員に言った。
今でも印象に残っている夢がある。
紙になど書かなかった。
記録に残さなかった。
大人になった俺がいた。目線がかなり高かった。
隣に誰かいた。
そこは草原だった。
一面の草むらだった。
「一年も経つと雑草だらけになるなあ」
俺が言った。
言ったにもかかわらず、意味は分からなかった。
一年?
「王都が更地になるなんて、誰が予想しただろうな」
「昔、こういう風景を夢で見た気がする」
夢なのに、夢で見たとは?
自分の発言なのに、変だからこそ覚えてしまっていた。
二人で草原に突っ立っていただけの夢なのに。
穏やかで、幸せな気持ちで、幼いながらもこの夢がずっと続けばいいのにと思った。
隣に誰が立っていたのかわからないのが残念だった。
ポシュは夢から覚めても、あの忠告を記憶しているだろうか。
メーデが大切だと思うなら、生きていてほしいと願うなら、動かなければならない。
迷っている暇はない。
ここはそういう国だから。
夢を覚えていないのなら、仕方ない。
それだけの存在だったということだろう。
ポシュに生きていてもらいたい黒ワンコたちが邪魔する可能性もあるが。
帝国の皇帝直属の精鋭部隊というのは、皇帝の命令実行部隊である。
帝国内で権力があるかというと、皇帝の命令の範囲内で最強と表現できるかもしれない。ただし、本人や家の権力で何かをするという点においてはそこまでではない。
帝国で権力を持っているのは、まず皇帝、次に皇族、その次に上流階級と続く。
上流階級であったとしても、軍で功績を上げ続けなければすぐに落ちぶれるのも帝国だ。
どんなに実力があったとしても、どんなに皇帝に可愛がられても、後ろ盾のないポシュは使い捨ての駒でしかない。
魔法が使えていた当時のポシュに対して、皇帝の態度もそのようなものだった。
皇帝に心酔していて、利用しやすく、容易く使える駒。身を粉にして尽くし、死ぬ限界ですら本人にはどうでもいい。
五百層での戦いでは、そのようにしか見えなかった。
あの皇帝がポシュを生かす選択をしたのは、なぜだろう。
クロウがいなければ成り立たなかったポシュの生存。
皇帝はクロウに対価を何一つ払っていない。
帝都も帝国全土も火の海にされなかった対価も。
審判の門がすべてを喰らいつくすのを止めた対価も。
皇帝はすべてを踏み潰す気なのか?
ポシュをまた容易く切り捨てる予定だったのか?
メーデを生贄の代理にしたのはどういうつもりなのだろう?
俺の頭では答えが出ない。
「おはよう、セリム」
ほんのり寝ぼけた目が俺を見て微笑む。
クロウの額に軽く口づけをする。
「おはよう、クロウ。いい夢、見れた?」
「ううっ、お前は会えたのか」
俺の両頬をクロウが両手でムニムニ押している。
全力で可愛い。
「全力で寝てしまった。何一つ夢の欠片さえ見なかった」
「愛し合って身体が疲れたんだろ。本当は朝まで愛し合いたいけど、この行為に慣れてくれば体力もつくんじゃないか」
「くぅっ、騎士の体力と若さに勝てるわけがないだろっ」
ムニー。頬が潰れる。
「じゃあ、シャワーを浴びながらイチャイチャして、それから朝食でも取りに行こうか」
「、、、うん」
頬をブニブニと軽くつねられた。
なんて破壊力だ。
まだまだ知ることがこんなにもあるなんて。可愛さは無限かっ。
俺はクロウをギュッと抱き締めてから抱き上げた。
「身体強化の魔法も使ってないのに、こんなに軽々と」
「あ、そうか、俺の筋肉はクロウを抱くためにあったのかもしれない」
「いや、それだけならそこまでの筋肉は要らんだろ」
お互いに笑う。
クロウを部屋の風呂場に連れて行きながら。
「うちの妻と息子はセリムに何を話してくれた?」
「今日の話は少し長かったな。シャワーを浴びながら話すよ」
クロウの肉体を隅々まで洗いながら、喘がせながら、夢の話をする。
黒髪のひ孫の話だけは除いて。
それは今、言うべき話ではないから。どんなに知っていたことを恨まれようと。
あの二人もそれがわかっているから俺に伝えたのだ。
黒髪の平民でも親がいるのなら、勝手に連れ去ったら誘拐だ。
その上、そのひ孫がまだ助けを乞うていないのなら、ただのありがた迷惑に過ぎない。事情も何も知らない者が、子供で何も知らないのだから問答無用で救い出せ、と言うだけなら簡単だ。
おそらく、あの二人も俺たちに家族ごっこをしろと言うのではない。
必要最小限の助けをしてほしいだけ。生きるための。
その子も過剰な手助けは必要ないだろう。
リンク王国では黒髪は生き辛い。
それを本当に自覚したときでしか、救いの手を取ることはないだろう。
他国ではそんなこと関係ない国が多いのだから。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
訂正のお知らせ。
皆さま、ご覧いただきありがとうございます。
登場人物コーダの年齢設定の変更をしました。
捕虜の一人でリンク王国に帰ったコーダですが、年齢設定を十九歳前後あたりに変更いたします。貴族高等学校卒業後、騎士団入団してから一、二年という感じにしました。
騎士団入団から一、二年というのは変更ありません。
訂正箇所。
【訂正前】
1-25
十代後半とはいえ成人したてなら、まだまだ大人になり切れてない子供の延長線上に立っている途上だろうが、若い若いで許されるのは内輪の間だけ。
【訂正後】
十代後半とはいえ社会に出て一、二年程度なら、まだまだ大人になり切れてない子供の延長線上に立っている途上だろうが、若い若いで許されるのは内輪の間だけ。
【訂正前】
1-オマケ 登場人物紹介
●コーダ・セイティ●
騎士団の中では、身長小さめ、可愛らしい部類に入る。
美肌を追求する筋肉、男爵家三男で、十代後半、成人したて。
捕虜だったが、リンク王国へ帰国。
【訂正後】
→成人したてを消す。
今後も年齢設定を動かす可能性もありますので、正確な表記はしないままで行きたいと思います。
他にも訂正が必要な箇所があるかもしれませんが、このくらいの年齢なのだなーとご了承ください。
よろしくお願いします。
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