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2章 帝国の呪い
2-39 夢の跡
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「セリっちもポシュリンも覚えているかしらねー?」
「セリムさんなら大丈夫でしょう。予知夢の一族なんでしょ」
紅茶をずずずっと飲む。
ついついいつもの癖で。他人がいる前ではやらないが。
紅茶ではマナー違反だが、貴族なセリムさんに向けて番茶を出すのはなんとなーく躊躇われてしまったのだ。
「最後くらいは好きな番茶を出しなさいよー。お上品ぶっても、今は誰も見てくれてないわよー」
「母さんもホントはイモ饅頭の方が大好きなクセして、ちょーっと気取ったものにしなかった?」
「だってーっっ、貴族の口に合わない、食べられないなんて言われたら、お母さん深海の底までへコんじゃうわーっ」
「言わないと思うけど」
「わかってるわよーっ。セリっちはいい子っ。クロウが大好きって言っておけば何だっておいしいって言ってくれる子だって信じてるわっ」
、、、微妙に騙してない?
まあ、母さんが作ったものすべてを父さんは好きだから嘘ではないのだけど。
父さんもセリムさんが作ってくれたものなら何でもおいしいと言ってしまう人だし。
たとえイモの蒸しケーキが少し生焼けなものに当たってしまっても、イモのパンケーキに卵の殻が入っていたとしても本気でおいしいと言う人なのだ。
ちなみに言っておくが、二人とも味音痴なわけではない、決して。
料理長が教えても、セリムさんは料理の初心者。お菓子なんて今まで作ったことのない人が挑戦したのだ。致し方なし。それくらいご愛敬。
自分のために何かしてくれる人を本当に大切に想うからね、父さんは。
愛情は百倍以上のおいしさを届けてくれる魔法の調味料だ、父さんにとっては。
父さんが幸せならなんだっていい。
「セリムさんはいつも粗野な態度をとっているけど、紅茶を飲むときとかお菓子を食べるときとか上品な所作だから、あーやっぱり貴族なんだなあと思うよねー」
「うんうん、マナーが美しい。貴族でもできない人はいっぱいいるし、平民の前だと横柄な態度取る人の方が多いわよねー。ポシュリンが元気良く頬張る姿、和むわよねー」
あー、接しているとポシュさんは完全に魔法頼みの人だったんだなーとわかる。
皇帝のそばにいる皇帝直属の精鋭部隊は実力主義であろうとも礼儀がなっていない人はさすがに落とされる。だから、叩き込まれる。皇帝の前だけはマナーを完璧にできるように。
魔法の実力がトップクラスであろうとも、スラム街出身の彼はどうしても苦手な分野だ。
生まれ育ちも上流階級の所作には遠く及ばない。
たとえ上流階級の者が通う学校に特待生で学んだとしても、どうしようもないことは多々ある。
ゆえに彼がどうしたかというと、魔法で何とかしたのだ。得意な分野での力技だ。
というわけで、魔法が使えなくなった今、素が出る。
そう、苦手なものはすべて魔法頼みだった彼は、皇帝の前での猫被りができなくなった。
皇帝の方が彼の変化に戸惑っているくらいには。
変化というよりは、今の状態が本当の彼なだけなんだが。
今の彼はスラム街でヤンチャしていた当時と基本的に変わらない。
仲間こそ大切だと、仲間を守るために国の偉い人間になると決意した頃の。
スラム街にいた仲間たちは失われて久しいが、ようやく手に入れた新しい仲間たちは。
「ポシュさんはメーデさんを守れるかなあ」
「セリっちはポシュリンを助けないから、黒ワンコちゃんたちが動いてくれるといいわねー」
セリムさんは優先順位がハッキリしている。
怖いくらいに。
我を張るところがあるのに、切り捨てると判断したものはアッサリと見捨てる。
それが貴族、というよりは彼自身の性格だろう。
父さんに語る言葉は熱いから恋に溺れているかと思いきや、どこまでも冷静である。
「あー、番茶がおいしい」
ずずずーっ。
「クロウも番茶が好きよー」
「母さんがいれたものは何だって好きだよ、父さんは」
「クロウが好きなものが増えていくといいわねー」
「そうだね」
母さんの言葉に素直に頷く。
セリムさんの御先祖には予知夢を見る者がいた。
そのご先祖は、子供のとき自分が見た夢をペラペラと他人に喋ってしまったのだ。
すべては後の祭り。
浅はかな子供の行動は、その将来、自分のそのときの行動を嘆くことしかできなかった。
そうなることも予知夢で見ていたのに。
予知は為政者にとって有用な能力。
そんな能力を持つ者を自由にしておくわけがない。
他人に知られたら、さらに厄介だからだ。
その事実はその子孫には伝わっていない。
有用な能力だからこそ王宮で幸せに重用されました、だから、もし予知夢を見る子供が生まれたらよろしくね、と親に差し出すよう要求している。
セリムさんには兄弟がいた。
両親や彼らの行動を観察した。
そして、周囲の大人たちの。
彼は予知夢を見て、それを表に出さないことを選択した。
聡い子供だったのだ。
自分の行動を信じて疑わない。
その結果がどこにつながるかがわかるから。
たとえそれが貴族としてはおかしいものであったとしても。
「うーん、セリっちの予知夢ってそこまで頻繁じゃないわよ?」
「そうだけどさ、それも別に国家の一大事を見るようなものでもない、父さんとお茶を飲んでいたり、どこかを一緒に歩いていたりするだけの夢だけどさー」
「クロウをクロウと認識してないのが、これまたセリっちの夢なのよねー。けれど、幼い頃から刷り込まれちゃっているのよねー、幸せと感じる夢だから」
夢でも幸福と感じられるのならば。
一緒にいたいと思ってしまったのならば、追い求めてしまうのだろう。
「予知の能力は神から与えられたものではないと言われているけど、」
「魔法だったら、クロウが使えるようになるはずなのよ。寝ているセリっちを見ていても解析できないのだから、あの能力は何なのかしらねー」
おそらく、予知の能力者は人が神に対抗するための手段。
神が決めた運命を蹴破るための。
けれど、神は対抗する術を人の手で封じさせたのだ。その能力を表に出したら利用されるだけだから。
「俺たちにもまだまだ分からないことはたくさんあるね。ここにいてけっこうな情報は知ることができたのに」
「無駄にならなくて良かったじゃないー。最後に託せたのだから」
「それもそっかー。皆、幸せに暮らせるといいね。ま、俺たちはこれでこの世界からは退場だ」
「寂しくなるわねー。せめて、帝国の呪いがどうなるか結論が出るまで見たかったのにーっ」
「こればかりは仕方ないよ。父さんが話に来てくれるのを待ってなよ」
母さんが笑う。
「そればかりは待てるかどうかもわからないわ。今後どうなるかは私にも展開がわからないのだから」
父さんの魔力でここにとどまっていた。
託せた者がいる今、幸せに旅立てる瞬間なのだろう。
帝国にある大教会の地下で審判の門が顕現し、開こうとした。
その事実は、帝国が神の処罰の対象になっているということ。
どこの国よりも罪深く、ひどく苦しませた上で、この世界をすべて消そうとした。
それは人の理を外れているから。
帝国の呪いは外道と判断されたから。
神が与えた人に対する能力を、邪法によってたった一人に集約させたから。
傲慢を最後の供物にしたのは、帝国が傲慢だから。
傲慢。
それが神がこの国に与えた評価。
すでに神に許されないレベルに達していることに気づくといい。
その意味を考えて反省して、踏み潰されて消えろと。
リンク王国で生まれ育った俺たちが、帝国の者に教えることはないが。
「セリムさんなら大丈夫でしょう。予知夢の一族なんでしょ」
紅茶をずずずっと飲む。
ついついいつもの癖で。他人がいる前ではやらないが。
紅茶ではマナー違反だが、貴族なセリムさんに向けて番茶を出すのはなんとなーく躊躇われてしまったのだ。
「最後くらいは好きな番茶を出しなさいよー。お上品ぶっても、今は誰も見てくれてないわよー」
「母さんもホントはイモ饅頭の方が大好きなクセして、ちょーっと気取ったものにしなかった?」
「だってーっっ、貴族の口に合わない、食べられないなんて言われたら、お母さん深海の底までへコんじゃうわーっ」
「言わないと思うけど」
「わかってるわよーっ。セリっちはいい子っ。クロウが大好きって言っておけば何だっておいしいって言ってくれる子だって信じてるわっ」
、、、微妙に騙してない?
まあ、母さんが作ったものすべてを父さんは好きだから嘘ではないのだけど。
父さんもセリムさんが作ってくれたものなら何でもおいしいと言ってしまう人だし。
たとえイモの蒸しケーキが少し生焼けなものに当たってしまっても、イモのパンケーキに卵の殻が入っていたとしても本気でおいしいと言う人なのだ。
ちなみに言っておくが、二人とも味音痴なわけではない、決して。
料理長が教えても、セリムさんは料理の初心者。お菓子なんて今まで作ったことのない人が挑戦したのだ。致し方なし。それくらいご愛敬。
自分のために何かしてくれる人を本当に大切に想うからね、父さんは。
愛情は百倍以上のおいしさを届けてくれる魔法の調味料だ、父さんにとっては。
父さんが幸せならなんだっていい。
「セリムさんはいつも粗野な態度をとっているけど、紅茶を飲むときとかお菓子を食べるときとか上品な所作だから、あーやっぱり貴族なんだなあと思うよねー」
「うんうん、マナーが美しい。貴族でもできない人はいっぱいいるし、平民の前だと横柄な態度取る人の方が多いわよねー。ポシュリンが元気良く頬張る姿、和むわよねー」
あー、接しているとポシュさんは完全に魔法頼みの人だったんだなーとわかる。
皇帝のそばにいる皇帝直属の精鋭部隊は実力主義であろうとも礼儀がなっていない人はさすがに落とされる。だから、叩き込まれる。皇帝の前だけはマナーを完璧にできるように。
魔法の実力がトップクラスであろうとも、スラム街出身の彼はどうしても苦手な分野だ。
生まれ育ちも上流階級の所作には遠く及ばない。
たとえ上流階級の者が通う学校に特待生で学んだとしても、どうしようもないことは多々ある。
ゆえに彼がどうしたかというと、魔法で何とかしたのだ。得意な分野での力技だ。
というわけで、魔法が使えなくなった今、素が出る。
そう、苦手なものはすべて魔法頼みだった彼は、皇帝の前での猫被りができなくなった。
皇帝の方が彼の変化に戸惑っているくらいには。
変化というよりは、今の状態が本当の彼なだけなんだが。
今の彼はスラム街でヤンチャしていた当時と基本的に変わらない。
仲間こそ大切だと、仲間を守るために国の偉い人間になると決意した頃の。
スラム街にいた仲間たちは失われて久しいが、ようやく手に入れた新しい仲間たちは。
「ポシュさんはメーデさんを守れるかなあ」
「セリっちはポシュリンを助けないから、黒ワンコちゃんたちが動いてくれるといいわねー」
セリムさんは優先順位がハッキリしている。
怖いくらいに。
我を張るところがあるのに、切り捨てると判断したものはアッサリと見捨てる。
それが貴族、というよりは彼自身の性格だろう。
父さんに語る言葉は熱いから恋に溺れているかと思いきや、どこまでも冷静である。
「あー、番茶がおいしい」
ずずずーっ。
「クロウも番茶が好きよー」
「母さんがいれたものは何だって好きだよ、父さんは」
「クロウが好きなものが増えていくといいわねー」
「そうだね」
母さんの言葉に素直に頷く。
セリムさんの御先祖には予知夢を見る者がいた。
そのご先祖は、子供のとき自分が見た夢をペラペラと他人に喋ってしまったのだ。
すべては後の祭り。
浅はかな子供の行動は、その将来、自分のそのときの行動を嘆くことしかできなかった。
そうなることも予知夢で見ていたのに。
予知は為政者にとって有用な能力。
そんな能力を持つ者を自由にしておくわけがない。
他人に知られたら、さらに厄介だからだ。
その事実はその子孫には伝わっていない。
有用な能力だからこそ王宮で幸せに重用されました、だから、もし予知夢を見る子供が生まれたらよろしくね、と親に差し出すよう要求している。
セリムさんには兄弟がいた。
両親や彼らの行動を観察した。
そして、周囲の大人たちの。
彼は予知夢を見て、それを表に出さないことを選択した。
聡い子供だったのだ。
自分の行動を信じて疑わない。
その結果がどこにつながるかがわかるから。
たとえそれが貴族としてはおかしいものであったとしても。
「うーん、セリっちの予知夢ってそこまで頻繁じゃないわよ?」
「そうだけどさ、それも別に国家の一大事を見るようなものでもない、父さんとお茶を飲んでいたり、どこかを一緒に歩いていたりするだけの夢だけどさー」
「クロウをクロウと認識してないのが、これまたセリっちの夢なのよねー。けれど、幼い頃から刷り込まれちゃっているのよねー、幸せと感じる夢だから」
夢でも幸福と感じられるのならば。
一緒にいたいと思ってしまったのならば、追い求めてしまうのだろう。
「予知の能力は神から与えられたものではないと言われているけど、」
「魔法だったら、クロウが使えるようになるはずなのよ。寝ているセリっちを見ていても解析できないのだから、あの能力は何なのかしらねー」
おそらく、予知の能力者は人が神に対抗するための手段。
神が決めた運命を蹴破るための。
けれど、神は対抗する術を人の手で封じさせたのだ。その能力を表に出したら利用されるだけだから。
「俺たちにもまだまだ分からないことはたくさんあるね。ここにいてけっこうな情報は知ることができたのに」
「無駄にならなくて良かったじゃないー。最後に託せたのだから」
「それもそっかー。皆、幸せに暮らせるといいね。ま、俺たちはこれでこの世界からは退場だ」
「寂しくなるわねー。せめて、帝国の呪いがどうなるか結論が出るまで見たかったのにーっ」
「こればかりは仕方ないよ。父さんが話に来てくれるのを待ってなよ」
母さんが笑う。
「そればかりは待てるかどうかもわからないわ。今後どうなるかは私にも展開がわからないのだから」
父さんの魔力でここにとどまっていた。
託せた者がいる今、幸せに旅立てる瞬間なのだろう。
帝国にある大教会の地下で審判の門が顕現し、開こうとした。
その事実は、帝国が神の処罰の対象になっているということ。
どこの国よりも罪深く、ひどく苦しませた上で、この世界をすべて消そうとした。
それは人の理を外れているから。
帝国の呪いは外道と判断されたから。
神が与えた人に対する能力を、邪法によってたった一人に集約させたから。
傲慢を最後の供物にしたのは、帝国が傲慢だから。
傲慢。
それが神がこの国に与えた評価。
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