9 / 11
第9話 新たな恋
しおりを挟む
聡と衝撃的な別れをした遥の絶望は続いていた。
この一週間、遥はワンルームのマンションから一歩も外へは出られなかった。
生きている実感がなかった。
部屋はあの時のままだった。
ケーキもそして聡の好物の鰹の刺身も鶏の唐揚げも腐敗し、悪臭を放っていた。
ビールもホットカーペットに零れ、シミを残して蒸発していた。
聡に渡された手切れ金も部屋に散乱したままだった。
遥はそれを拾おうともせず、そのお金を呆然と眺めていた。
(私の聡への愛はたった100万円だったの?)
毎日毎晩、私は泣いた。
聡の言葉が頭から離れなかった。目を腫らし髪もボサボサ、風呂にも入らず女であることも忘れていた。
それほど聡との別れは辛く悲しいものだった。
親友の里美も両親も、そんな私を心配して何度もLINEや携帯を掛けて来たが、「大丈夫だよ」としか返信をせず、携帯にも出なかった。
週末、里美と両親がマンションにやって来た。
里美も両親もドアを開けて愕然とした。
「何これ!」
「どうしたの遙・・・」
部屋は様々な腐敗臭が充満し、蠅やゴキブリが残飯に集っていた。
点けっぱなしのテレビでは関西のお笑い芸人が何が面白いのか体をくねらせ大声で笑っていた。
私はまるで死人のようにぽつんと座ったままだった。
里美と両親は泣きながら締め切ったカーテンを開け、窓を開け放った。
土曜日の朝の陽射しが遥の部屋を一週間ぶりに照らした。
ボーっとした私をそのままにして、3人はまるで災害救助のように部屋を片付け始めた。
お昼過ぎになり、ようやく部屋は元の状態まで復旧した。
里美はバスに湯を入れ、
「遥、お風呂に入って来なよ。お湯、入れといたから」
「ありがとう・・・。でも入りたくない」
母が言った。
「お風呂に入ってさっぱりしていらっしゃい。折角里美ちゃんがお風呂の準備をしてくれたんだから」
それでも私が動こうとしないと里美が叫んだ。
「何よ! たかが男にフラれたくらいでそんな死にそうな顔して! あんたバカじゃないの!
遥、あんたもう忘れたの? 私が賢二に浮気されて別れた時、私に何て言ったか?
「あんな男、付き合ったってしょうがないよ、次行こう次」って言ったの遥じゃない!
それなのに自分はどうなのよ! そんなにやつれて! そんな遥なんか見たくない!」
里美は私を抱き締めて号泣した。
父も母も泣いていた。
「ごめんね里美、でもホントに好きだったの、聡のことが・・・」
ふたりは抱き合ったまま思い切り泣いた。
母が私の背中を摩ってくれた。
私はゆっくりと立ち上がった。
「お風呂、入って来る」
遥の父親はタバコに火を点けると、
「よし、じゃあ今日はみんなで焼肉でも食いに行くか?
ビールでも飲んで」
「おじさんそれ賛成! 行こうよ焼肉!」
里美は泣きながら必死に笑顔を作ろうとした。
1か月が過ぎた。
私は少しずつ日常を取り戻してはいたが傷心はまだ癒えなかった。
久しぶりに大学の軽音楽サークルの練習に顔を出した。
西日の入る放課後の教室で、同級生の君島光一郎がコルネットを磨いていた。
私に気付くと光一郎が声を掛けてきた。
「遥、来週の金曜日、ブルーノート東京にマンハッタン・ジャズ・オーケストラが来るんだけど一緒に行かないか?」
「それってデートのお誘いってこと?」
「そうとも言う」
「・・・いいよ、どうせヒマだし」
私は軽い気持ちで光一郎の誘いに乗った。
光一郎は身近な存在だったせいか、男を意識したことがなかった。
やさしくてインテリ、イケメンの光一郎は女子たちから人気があった。
神様は傷付いた私のために、新しい恋を用意してくれたらしい。
この一週間、遥はワンルームのマンションから一歩も外へは出られなかった。
生きている実感がなかった。
部屋はあの時のままだった。
ケーキもそして聡の好物の鰹の刺身も鶏の唐揚げも腐敗し、悪臭を放っていた。
ビールもホットカーペットに零れ、シミを残して蒸発していた。
聡に渡された手切れ金も部屋に散乱したままだった。
遥はそれを拾おうともせず、そのお金を呆然と眺めていた。
(私の聡への愛はたった100万円だったの?)
毎日毎晩、私は泣いた。
聡の言葉が頭から離れなかった。目を腫らし髪もボサボサ、風呂にも入らず女であることも忘れていた。
それほど聡との別れは辛く悲しいものだった。
親友の里美も両親も、そんな私を心配して何度もLINEや携帯を掛けて来たが、「大丈夫だよ」としか返信をせず、携帯にも出なかった。
週末、里美と両親がマンションにやって来た。
里美も両親もドアを開けて愕然とした。
「何これ!」
「どうしたの遙・・・」
部屋は様々な腐敗臭が充満し、蠅やゴキブリが残飯に集っていた。
点けっぱなしのテレビでは関西のお笑い芸人が何が面白いのか体をくねらせ大声で笑っていた。
私はまるで死人のようにぽつんと座ったままだった。
里美と両親は泣きながら締め切ったカーテンを開け、窓を開け放った。
土曜日の朝の陽射しが遥の部屋を一週間ぶりに照らした。
ボーっとした私をそのままにして、3人はまるで災害救助のように部屋を片付け始めた。
お昼過ぎになり、ようやく部屋は元の状態まで復旧した。
里美はバスに湯を入れ、
「遥、お風呂に入って来なよ。お湯、入れといたから」
「ありがとう・・・。でも入りたくない」
母が言った。
「お風呂に入ってさっぱりしていらっしゃい。折角里美ちゃんがお風呂の準備をしてくれたんだから」
それでも私が動こうとしないと里美が叫んだ。
「何よ! たかが男にフラれたくらいでそんな死にそうな顔して! あんたバカじゃないの!
遥、あんたもう忘れたの? 私が賢二に浮気されて別れた時、私に何て言ったか?
「あんな男、付き合ったってしょうがないよ、次行こう次」って言ったの遥じゃない!
それなのに自分はどうなのよ! そんなにやつれて! そんな遥なんか見たくない!」
里美は私を抱き締めて号泣した。
父も母も泣いていた。
「ごめんね里美、でもホントに好きだったの、聡のことが・・・」
ふたりは抱き合ったまま思い切り泣いた。
母が私の背中を摩ってくれた。
私はゆっくりと立ち上がった。
「お風呂、入って来る」
遥の父親はタバコに火を点けると、
「よし、じゃあ今日はみんなで焼肉でも食いに行くか?
ビールでも飲んで」
「おじさんそれ賛成! 行こうよ焼肉!」
里美は泣きながら必死に笑顔を作ろうとした。
1か月が過ぎた。
私は少しずつ日常を取り戻してはいたが傷心はまだ癒えなかった。
久しぶりに大学の軽音楽サークルの練習に顔を出した。
西日の入る放課後の教室で、同級生の君島光一郎がコルネットを磨いていた。
私に気付くと光一郎が声を掛けてきた。
「遥、来週の金曜日、ブルーノート東京にマンハッタン・ジャズ・オーケストラが来るんだけど一緒に行かないか?」
「それってデートのお誘いってこと?」
「そうとも言う」
「・・・いいよ、どうせヒマだし」
私は軽い気持ちで光一郎の誘いに乗った。
光一郎は身近な存在だったせいか、男を意識したことがなかった。
やさしくてインテリ、イケメンの光一郎は女子たちから人気があった。
神様は傷付いた私のために、新しい恋を用意してくれたらしい。
10
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる