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一緒なら心がやわらぐ
しおりを挟む翌日、ミュラーの元へとレオンから一輪の花が贈られてくるようになった。
ぽわぽわとした細い花弁が丸いその輪郭を縁どり、ピンクの色合いがとても可愛らしい。
可愛らしいリボンでラッピングされたその花の名前はスイートサルタン。
リボンはレオンの瞳の色と同じ翡翠色。
その花を贈られたミュラーは朝から頬を染めてベッドに逆戻りして、枕に突っ伏して呻く。
(私の存在が、レオン様を笑顔にさせてるって言うの?)
昨日の恐ろしく感じた感情が嘘のように今では自分の感情がレオンへの気持ちでほわほわとしている。
まるで、タイミングを測ったかのように贈られてきたその花にミュラーはレオン様、近くで見ていないわよね?と自室の窓からそっと外を覗いた。
いるわけがないのに、いて欲しいとも思ってしまう。
その揺れ動く感情にミュラーはどうしていいか分からなくなってしまった。
昨日の、フレッチャー伯爵家の嫡男ニックの突然の訪問に関しては帰宅した父親にすぐさま報告した。
事の次第をミュラーと、家令のトマーから聞いた父親は眉間に皺を寄せると相手の伯爵家に向けて抗議する、と言ってくれた。
フレッチャー伯爵家に関しては父親に任せて大丈夫だろう、とミュラーは判断してこの事は早く忘れようと気持ちを切り替えた。
そう、忘れたかったのに。
今日もそのニックは我が家に突然訪問してきた。
昨日の内に父親が手配していたのだろうハドソン家独自に騎士団を手配し、邸前の城門前に騎士を配置していたようだ。
その騎士達にすげなく追い返されてニックはまたも何か喚いていたようだが、屈強な騎士達に叶うはずもなく短時間で追い返されていた。
その報告を聞いたミュラーは、ほっと息を付く。
今後街へ行く際は必ず護衛を2人程連れていくように、と父親に言われた時は大袈裟だわ、と思ったが昨日のニックの態度と、今日も変わらず突然訪問してきた状態を見てしまうと護衛を連れて歩く必要がある、と考え直した。
もし、自分が1人の時に出くわしてしまったら?
誰も止めてくれる人がいない状態でニックと相対してしまった時の事を考えるとぞっとした。
何をしでかすかわからない。
彼のその尋常ではない態度にそう思ってしまうのも仕方がない事だ。
あれから数日、父親が抗議した内容の手紙が無事先方のフレッチャー伯爵家に届いたのだろう。
あの日から一度もニックはハドソン家へと訪問して来なくなった。
ニック以外の家族は、きちんと常識を持ち合わせているようで安心した。
そして、レオンからもあれから毎朝一輪の花が贈られ続けている。
スイートサルタンに、イベリス、ペチュニア、と贈られてくる花々にミュラーはその度に頬を赤く染めた。
レオンは、花言葉を分かっていて贈っているのだろうか?それとも、単に可愛らしい花達を成人の祝いのつもりで贈ってくれているのだろうか。
レオンの気持ちがまったくわからない。
ミュラーは、悶々とした気持ちのまま友人の舞踏会当日を迎えたのであった。
友人、エリンの邸で慎ましく開かれた舞踏会。
あのお茶会から数日、お茶会ぶりに会ったエリンにミュラーは招待へのお礼を告げる。
「エリンさん、今日はお招き頂きありがとうございます、素敵な夜になるといいですね」
「ミュラーさん!こちらこそ、来て下さり嬉しいですわ。大したおもてなしも出来ませんが、楽しんで行って下さいませね」
ほわほわと笑顔で挨拶をし合い、ミュラーは仕事で来れなかった父親の代わりに付き合ってくれた従兄弟のホーエンスがエスコートをしてくれている。
馬車付近には最近護衛に付いてくれた騎士が1人と、ミュラーとホーエンスから少し離れて付いてくる騎士が付き従ってくれている。
騎士を連れてやってきたミュラーに、最初は驚きの表情を見せたエリンも、理由を聞いて納得してくれた。
そして、逆に心配するようにミュラーの身を案じてくれ、今日の舞踏会に招待してしまってすまない、と謝罪された。
本当は舞踏会を断ろうか、とも考えた。
けれど、あのフレッチャー伯爵家のニックを気にするあまり何故大事な友人の招待を断らねばいけないのか。
断り、家に引きこもってしまってはニックに恐怖し負けてしまうような気持ちがあって、ミュラーは敢えていつも通りの態度で外出した。
「まさか…、あの時のフレッチャー子息がそんな事をなさるなんて…」
「ええ、そうなの…あの時はまだ、その、自信家でぐいぐい来る方ではあったけれど、最低限のマナーも守れないような方ではなかったし、まだ話が通じたのだけれど…」
困ったわ、とミュラーは嘆息する。
エリンは、そんな友人であるミュラーをどうにか元気付けたいのだろう、務めて明るく話題を変えた。
「そう言えば!あの日ルビアナさんがお話してました観劇なのですが、ルビアナさん何とかチケットが取れたみたいで見に行けたそうですわ!」
「まあ!本当に?どうだったのかしら、噂通り素敵な内容だったのかしら?」
「ええ、噂以上に大変良かったみたいです、お話の内容も、演じていらっしゃる方も大変素敵だったみたいですわ!」
感想を聞いたのだろう、エリンはうっとりと瞳を潤ませながら「私もあのお話のようにお花を贈られてみたいわ」と呟いている。
「……っ」
そのエリンの言葉に、ミュラーはここ数日毎朝レオンから贈られてくる花の事を思い出し、頬を真っ赤に染めた。
そのミュラーの様子に、エリンはぱちくりと瞬きをするとどうしたのか、と尋ねる。
言ってもいいものだろうか、でも、どういう意図があるか、自分1人で考えてもぐるぐると堂々巡りの思考に疲れていたミュラーは、エリンにその事をつい話してしまった。
「まあまあまあまあ!」
キラキラと瞳を輝かせ、興奮に頬を紅潮させながらエリンが歓声を上げる。
「凄いですわね、レオン様…!あれ程お仕事が出来る方ですもの、お贈りするお花の花言葉は知っておられるのではなくて?」
「そ、そうなのかしら…」
きっとそうですわ!
ときゃっきゃとはしゃぐ友人の姿に、ミュラーはまたちょっぴり嬉しくなって、はにかむようにエリンに笑った。
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