「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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「エルローディア様……エルローディア様……どうして、俺はあんな出来損ないの妖精姫を……くそっ」

 静かな廊下。
 誰も通っていない、ホプリエル侯爵家の廊下で。

 ふわり、と柔らかな金糸の髪の毛が靡く。
 ほっそりとしたしなやかな手は、その声が聞こえて来た部屋の扉に伸ばされたまま、まるで石のように硬直したまま、動かない。

「どうして俺はあんな出来損ないに、誓ってしまったんだ……っ、愚かな過去の自分を呪いたい……っ」

 男の悲痛な叫び声が聞こえ、次いで何かが壊れるような音が聞こえた。

「──っ」

 大きな音が響き、扉の前に立っていた小柄な少女はびくり、と震えた。
 そんな時、ふとその小柄な少女の名前を呼ぶ声が背後から聞こえた。

「──ウェンディ? どうしたんだ、こんなところで突っ立って……」

 ウェンディ、と呼ばれた少女はばっと振り向く。
 自分を呼んだ男性は、小さなウェンディを頭上から見下ろしていたが、そこに威圧感も全くなく、不思議そうに首を傾げていた。

「ヴァン……? ヴァンこそ、どうしてここに? 今日は、訓練の日じゃないでしょう……?」
「いや、俺はウェンディの専属護衛に用があって……」

 ヴァン、と呼ばれた男性はウェンディの表情を見て、顔を顰める。
 悲しそうに瞳が揺れている。
 ヴァンがウェンディにそっと手を伸ばそうとしたところで──。

 先程、声が聞こえた部屋の扉が勢いよく大きな音を立てて開いた。

「聞き耳を立てているとは、随分ですね。ウェンディ様。とても行儀の良い妖精姫様だ」

 ハッ、と嘲るような態度に、吐き捨てるように発された言葉。
 その男のあまりの態度に、ヴァンが一歩前に出たが、ウェンディはそっと彼の服の裾を掴んで押し留める。

「ごめんなさい、フォスター。お父様が呼んでたから、呼びに来たの……」
「……ふん」

 ウェンディの言葉に、フォスター、と呼ばれた男はウェンディをひと睨みした後、そのまま足を進めた。
 どんっ、とわざとウェンディの肩にぶつかり歩いて行くフォスター。
 ウェンディは突然の事にバランスを崩し、よろけてしまった。

「──フォスター隊長……っ!」
「ヴァン、いいのよ。私は大丈夫だから」
「だが、ウェンディ……っ、隊長のあの態度はあんまりじゃないか! 彼は君の専属護衛だってのに……!」

 ウェンディはゆるゆる、と首を横に振って口を閉ざす。

 フォスターが部屋から出て来た時、扉が開きっぱなしになっている。
 ウェンディは部屋の扉を閉めようとして、ドアの隙間から室内が見えてしまった。

 さきほど大きな音がなった原因──。
 それが分かり、ウェンディの顔色は真っ青になる。
 フォスターのいた部屋には、硝子で作られた薔薇の花が粉々に割れて床に落ちている。

 専属護衛騎士が、自分が仕える主人に贈る、忠誠の証の硝子の薔薇の花。
 それに、専属護衛騎士は自分の魔力を込め、いつでも主人を傍で護る。そう言った誓いを込めた証。
 その薔薇を贈られる事が、そしてその薔薇を受け取る事が専属護衛と主人の確かな絆となる。

 四年に一度行われる祭典で、それをウェンディは自分の専属護衛騎士であるフォスターから受け取る予定だったのだ。

 だが、それなのに。
 ウェンディが贈られるはずだった硝子の薔薇は、見るも無惨な形で床で粉々になってしまっていた。
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