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一章
2話
しおりを挟む「ウェンディ……? 顔が真っ青だ。大丈夫か?」
侯爵に医者を呼んでもらおうか? と声をかけてくれるヴァンに、ウェンディは首を横に振って「大丈夫」と声をかけようとした。
だが、その声は廊下の先から聞こえてきたフォスターの嬉しそうな声と、艶やかな女性の声が聞こえてきた事で、発される事はなかった。
「エルローディア様!? こんなところに、どうしました?」
「フォスター、お義父様が呼んでいるわ。何をしていたの?」
「遅れて申し訳ございません。報せを受けたのが遅く……侯爵をお待たせしてしまいましたね……」
「あら……お義姉様が伝えに行ったと思ったのだけど……」
エルローディアはそこで言葉を切り、ちらりとウェンディ達がいる遠くの廊下に視線を向ける。
「ああ……。彼女、小さいものねぇ、何もかもが。愚鈍だからあなたへの報告一つまともに出来なくて……。はぁ、嫌になっちゃう」
「エルローディア様、ウェンディ様は放っておいて行きましょう。侯爵様をお待たせしてしまっていますから」
「ええ、そうね。──ああ、お義姉様! ヴァンに背負ってもらって早くおいでなさいな。またお義父様に怒られるわよ!」
クスクス、とまるで馬鹿にするようなエルローディア。
自分の主人を馬鹿にされていると言うのに、一つも言い返そうとせず、それどころかその言葉に同調するように笑っているフォスター。
フォスターはウェンディなど最初からいなかったかのようにエルローディアに手を差し出し、エスコートをしている。
そのまま二人は後ろを振り返る事なく、ウェンディを廊下に置き去りにして去って行ってしまった。
「ウェンディ、どうして君は怒らないんだ。フォスター隊長は君の専属護衛騎士で、エルローディア様は君の義妹だろう!? あんな侮辱を許しては──」
「でも、どうしたらいいの? 私は出来損ないなのよ……。お父様にも、お母様にもそう言われ……、周りの皆だって、そう言ってる……。私が出来損ないなのは、事実だもの。どう、反論しろって言うの……?」
「ウェンディ……っ」
苦痛に満ちたヴァンの声に、ウェンディははっとしてすぐに顔を上げた。
「ごめんなさい、ヴァン。あなたは私を心配してくれているのに。こんな酷い事を言ってごめんね。フォスターは暫く時間が空かないと思うから、ヴァンも仕事に戻って?」
「フォスター隊長や、エルローディア様に酷い事を言われたら俺を呼んで。すぐに来るから」
「ありがとう、ヴァン。そうするわ」
悲しげに笑うウェンディ。
その表情を見て、呼んではくれないと分かっていても、ヴァンは後ろ髪を引かれるように何度も何度も後ろを振り返りつつ、戻って行った。
ウェンディ・ホプリエル。
ホプリエル侯爵家の長女で、今年十八歳になる。
まるで金糸のような輝く金髪で、ふわふわと風に揺れて靡く髪の毛はとても柔らかそうで、かつては見るもの全てを魅了した。
パッチリとしたアーモンド型の大きな瞳は、青空を写し取ったかのように澄んでいて、かつてはその瞳に自分を映して欲しい、と世の男達は熱望した。
可愛らしい、妖精のような見た目に、魔力も高く、魔法の素質もあったウェンディは、かつては国中の貴族達から「妖精姫」と呼ばれ、憧れや焦がれの対象になっていた。
それなのに──。
十二歳ほどの頃から見た目は変わらず幼いまま。体も子供のような、凹凸のない真っ平らな幼児体型。
身長も伸びず、止まったまま。
そして、かつては魔法に関しては天才的だ、と言われていたウェンディの魔力も、魔法も、かつての十分の一にも満たないほど、落ちてしまっていた。
今では精々周囲を明るく照らす簡単な魔法や、小さな火を起こすくらいしか魔法が発動しない。
膨大な魔力を必要とする攻撃魔法なんて以ての外で、そんなものを発動しようとすれば、ウェンディの体は悲鳴を上げて死に至るだろう。
魔力の総量と、魔法の素質。
時間をかけて研鑽すれば、とても偉大な魔法士になれるのでは、と期待されていた「妖精姫」は皆の期待を裏切り、今では影で「出来損ないの妖精姫」と侮辱され、嘲笑の対象になっていたのだった。
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