「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

文字の大きさ
2 / 84
一章

2話

しおりを挟む


「ウェンディ……? 顔が真っ青だ。大丈夫か?」

 侯爵に医者を呼んでもらおうか? と声をかけてくれるヴァンに、ウェンディは首を横に振って「大丈夫」と声をかけようとした。
 だが、その声は廊下の先から聞こえてきたフォスターの嬉しそうな声と、艶やかな女性の声が聞こえてきた事で、発される事はなかった。

「エルローディア様!? こんなところに、どうしました?」
「フォスター、お義父様が呼んでいるわ。何をしていたの?」
「遅れて申し訳ございません。報せを受けたのが遅く……侯爵をお待たせしてしまいましたね……」
「あら……お義姉様が伝えに行ったと思ったのだけど……」

 エルローディアはそこで言葉を切り、ちらりとウェンディ達がいる遠くの廊下に視線を向ける。

「ああ……。彼女、小さいものねぇ、何もかもが。愚鈍だからあなたへの報告一つまともに出来なくて……。はぁ、嫌になっちゃう」
「エルローディア様、ウェンディ様は放っておいて行きましょう。侯爵様をお待たせしてしまっていますから」
「ええ、そうね。──ああ、お義姉様! ヴァンに背負ってもらって早くおいでなさいな。またお義父様に怒られるわよ!」

 クスクス、とまるで馬鹿にするようなエルローディア。
 自分の主人を馬鹿にされていると言うのに、一つも言い返そうとせず、それどころかその言葉に同調するように笑っているフォスター。

 フォスターはウェンディなど最初からいなかったかのようにエルローディアに手を差し出し、エスコートをしている。
 そのまま二人は後ろを振り返る事なく、ウェンディを廊下に置き去りにして去って行ってしまった。

「ウェンディ、どうして君は怒らないんだ。フォスター隊長は君の専属護衛騎士で、エルローディア様は君の義妹だろう!? あんな侮辱を許しては──」
「でも、どうしたらいいの? 私は出来損ないなのよ……。お父様にも、お母様にもそう言われ……、周りの皆だって、そう言ってる……。私が出来損ないなのは、事実だもの。どう、反論しろって言うの……?」
「ウェンディ……っ」

 苦痛に満ちたヴァンの声に、ウェンディははっとしてすぐに顔を上げた。

「ごめんなさい、ヴァン。あなたは私を心配してくれているのに。こんな酷い事を言ってごめんね。フォスターは暫く時間が空かないと思うから、ヴァンも仕事に戻って?」
「フォスター隊長や、エルローディア様に酷い事を言われたら俺を呼んで。すぐに来るから」
「ありがとう、ヴァン。そうするわ」

 悲しげに笑うウェンディ。
 その表情を見て、呼んではくれないと分かっていても、ヴァンは後ろ髪を引かれるように何度も何度も後ろを振り返りつつ、戻って行った。



 ウェンディ・ホプリエル。
 ホプリエル侯爵家の長女で、今年十八歳になる。
 まるで金糸のような輝く金髪で、ふわふわと風に揺れて靡く髪の毛はとても柔らかそうで、かつては見るもの全てを魅了した。
 パッチリとしたアーモンド型の大きな瞳は、青空を写し取ったかのように澄んでいて、かつてはその瞳に自分を映して欲しい、と世の男達は熱望した。
 可愛らしい、妖精のような見た目に、魔力も高く、魔法の素質もあったウェンディは、かつては国中の貴族達から「妖精姫」と呼ばれ、憧れや焦がれの対象になっていた。

 それなのに──。

 十二歳ほどの頃から見た目は変わらず幼いまま。体も子供のような、凹凸のない真っ平らな幼児体型。
 身長も伸びず、止まったまま。

 そして、かつては魔法に関しては天才的だ、と言われていたウェンディの魔力も、魔法も、かつての十分の一にも満たないほど、落ちてしまっていた。
 今では精々周囲を明るく照らす簡単な魔法や、小さな火を起こすくらいしか魔法が発動しない。
 膨大な魔力を必要とする攻撃魔法なんて以ての外で、そんなものを発動しようとすれば、ウェンディの体は悲鳴を上げて死に至るだろう。

 魔力の総量と、魔法の素質。
 時間をかけて研鑽すれば、とても偉大な魔法士になれるのでは、と期待されていた「妖精姫」は皆の期待を裏切り、今では影で「出来損ないの妖精姫」と侮辱され、嘲笑の対象になっていたのだった。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

侯爵家を守るのは・・・

透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。 母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。 最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています

春野オカリナ
恋愛
 エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。  社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

処理中です...