「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

文字の大きさ
1 / 20

1話

しおりを挟む


「エルローディア様……エルローディア様……どうして、俺はあんな出来損ないの妖精姫を……くそっ」

 静かな廊下。
 誰も通っていない、ホプリエル侯爵家の廊下で。

 ふわり、と柔らかな金糸の髪の毛が靡く。
 ほっそりとしたしなやかな手は、その声が聞こえて来た部屋の扉に伸ばされたまま、まるで石のように硬直したまま、動かない。

「どうして俺はあんな出来損ないに、誓ってしまったんだ……っ、愚かな過去の自分を呪いたい……っ」

 男の悲痛な叫び声が聞こえ、次いで何かが壊れるような音が聞こえた。

「──っ」

 大きな音が響き、扉の前に立っていた小柄な少女はびくり、と震えた。
 そんな時、ふとその小柄な少女の名前を呼ぶ声が背後から聞こえた。

「──ウェンディ? どうしたんだ、こんなところで突っ立って……」

 ウェンディ、と呼ばれた少女はばっと振り向く。
 自分を呼んだ男性は、小さなウェンディを頭上から見下ろしていたが、そこに威圧感も全くなく、不思議そうに首を傾げていた。

「ヴァン……? ヴァンこそ、どうしてここに? 今日は、訓練の日じゃないでしょう……?」
「いや、俺はウェンディの専属護衛に用があって……」

 ヴァン、と呼ばれた男性はウェンディの表情を見て、顔を顰める。
 悲しそうに瞳が揺れている。
 ヴァンがウェンディにそっと手を伸ばそうとしたところで──。

 先程、声が聞こえた部屋の扉が勢いよく大きな音を立てて開いた。

「聞き耳を立てているとは、随分ですね。ウェンディ様。とても行儀の良い妖精姫様だ」

 ハッ、と嘲るような態度に、吐き捨てるように発された言葉。
 その男のあまりの態度に、ヴァンが一歩前に出たが、ウェンディはそっと彼の服の裾を掴んで押し留める。

「ごめんなさい、フォスター。お父様が呼んでたから、呼びに来たの……」
「……ふん」

 ウェンディの言葉に、フォスター、と呼ばれた男はウェンディをひと睨みした後、そのまま足を進めた。
 どんっ、とわざとウェンディの肩にぶつかり歩いて行くフォスター。
 ウェンディは突然の事にバランスを崩し、よろけてしまった。

「──フォスター隊長……っ!」
「ヴァン、いいのよ。私は大丈夫だから」
「だが、ウェンディ……っ、隊長のあの態度はあんまりじゃないか! 彼は君の専属護衛だってのに……!」

 ウェンディはゆるゆる、と首を横に振って口を閉ざす。

 フォスターが部屋から出て来た時、扉が開きっぱなしになっている。
 ウェンディは部屋の扉を閉めようとして、ドアの隙間から室内が見えてしまった。

 さきほど大きな音がなった原因──。
 それが分かり、ウェンディの顔色は真っ青になる。
 フォスターのいた部屋には、硝子で作られた薔薇の花が粉々に割れて床に落ちている。

 専属護衛騎士が、自分が仕える主人に贈る、忠誠の証の硝子の薔薇の花。
 それに、専属護衛騎士は自分の魔力を込め、いつでも主人を傍で護る。そう言った誓いを込めた証。
 その薔薇を贈られる事が、そしてその薔薇を受け取る事が専属護衛と主人の確かな絆となる。

 四年に一度行われる祭典で、それをウェンディは自分の専属護衛騎士であるフォスターから受け取る予定だったのだ。

 だが、それなのに。
 ウェンディが贈られるはずだった硝子の薔薇は、見るも無惨な形で床で粉々になってしまっていた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った

葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。 しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。 いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。 そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。 落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。 迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。 偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。 しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。 悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。 ※小説家になろうにも掲載しています

見切りをつけたのは、私

ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。  婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。 侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。 二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。 (小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を

桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。 政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。 二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。 だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。 聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。 その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。 やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく…… ーーーーーーーー 初作品です。 自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

ほんの少しの仕返し

turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。 アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。 アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。 皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。 ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。 もうすぐです。 さようなら、イディオン たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。

処理中です...