4 / 19
4話
しおりを挟むコンコン、と扉をノックする。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません。ウェンディです」
「ああ、呼んでいたんだったな。入れ」
「失礼します」
中から、素っ気ない父の声が聞こえ、ウェンディはそっとドアノブに手を伸ばし、扉を開けた。
ガチャリ、と音を立てて扉が開き、廊下から室内を見たウェンディは、そっと目を伏せた。
室内には、自分の父親であるホプリエル侯爵と、その横には妻であり、母親の侯爵夫人。
そして、何故かウェンディと専属護衛騎士の魔法契約を結んだフォスターが、隣にエルローディアを座らせてソファに並んで座っていた。
そこは、エルローディアの場所は、本来であればウェンディが座る場所だ。
だが、ウェンディが姿を現したと言うのに室内の誰もエルローディアを咎めるような事はしない。
それどころか、部屋の入口で突っ立っているウェンディに怪訝な顔をして、侯爵が「早く座れ」とばかりに顎をしゃくった。
ウェンディはフォスターとエルローディアの姿を視界に入れぬよう、ぽてぽてと歩き、彼らとは少し離れたソファに一人で腰を下ろした。
すぐにウェンディの前に温かい紅茶が入ったカップが置かれて、使用人はすぐに部屋から退出した。
室内に、使用人が居なくなってから、侯爵が重々しく口を開いた。
「十日後、四年に一度の祭典がある。そこで、ウェンディとフォスターには魔法演術を行ってもらうが……分かっているな?」
「──はい、お父様」
「私は、問題ございません侯爵」
ウェンディとフォスターが同時に侯爵に言葉を返す。
だが、フォスターの声は僅かに嘲りのような物が含まれていて。
ウェンディはちらり、とフォスターを見やると、フォスターは不遜な態度で、まるで小馬鹿にするようにウェンディを見返していた。
「私は四年前より魔力も魔法の腕も上がっております。……ですが、ウェンディ様は大丈夫なのですかね? 明らかに四年前よりも魔力も魔法の腕も落ちています」
「……ホプリエル侯爵家として、正統な血筋のウェンディと、その専属護衛騎士のフォスターしかこの大役は務められん。ウェンディの兄は今、仕事で国外に赴いているし、エルローディアは我が家の正統な血筋では無い。ウェンディとフォスター、お前達しかいないのだから、恥を晒さぬようにしっかりとやり遂げなさい」
恥を晒さぬよう──。
そう話した侯爵の視線は、ぴったりとウェンディに定まっていた。
侯爵も分かっているのだ。
ウェンディの魔力も、魔法の腕も、年々、年月が経つにつれて落ちていっている事に。
だが、今のホプリエル侯爵家に祭典で魔法演術を行える人物は、ウェンディとフォスターしかいない事は。
「ウェンディ。お前は今日からフォスターと共にしっかりと魔法演術の鍛錬をしなさい。訓練場を使い、朝から晩までしっかりと励め」
「かしこまりました、お父様」
「承知しました、侯爵」
フォスターは胸に手を当て、余裕気に頷いて見せた。
だが、ウェンディは。
たらり、と背中に汗が伝うのを感じて、静かに目を閉じたのだった。
433
あなたにおすすめの小説
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。
佐藤 美奈
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。
「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。
関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。
「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。
「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。
とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
見切りをつけたのは、私
ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。
婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。
侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。
二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。
(小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる