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一章
5話
しおりを挟む侯爵からの話が終わり、ウェンディとフォスターは鍛錬場にやって来ていた。
あからさまにフォスターは面倒くさそうな態度を隠しもせず、さらには憎しみさえ籠っているような凍てついた視線でウェンディを突き刺す。
「ウェンディ様。私は鍛錬の必要は無いと思います。鍛錬が必要なのはウェンディ様でしょう。さっさと魔法を発動してください。私がそれに合わせます」
「……わ、分かったわ、フォスター」
ウェンディは不遜な態度を取るフォスターに何も言う事はできず、そのまま鍛錬場の中心部まで歩み出ると、両腕を突き出した。
「光よ──っ」
ウェンディが言葉を発すると、突き出した彼女の腕、手のひらに光が収束し、パッと周囲を明るく照らす。
つまらなさそうにその光景を見ていたフォスターは、腰に下げた長剣を抜き放ち、刀身に自身の魔力を込める。
「轟け」
「──きゃあっ」
フォスターが呟いた瞬間、まるで雷が落ちたかのような轟音が劈く。
ウェンディは突然自分の近くでその音が鳴り、怯えたように悲鳴を上げた。
ウェンディのすぐ真横にフォスターが召喚した雷魔法が落ちたらしい。
床のある一点が黒く焼け焦げ、ぷすぷすと煙を生んでいる。
ウェンディは自分のすぐ側に落ちた雷に恐れ、足から力が抜けてその場にぺたり、と座り込んでしまった。
「──ぷっ」
そんなウェンディを嘲笑うかのような声がフォスターから上がる。
「まさか、これくらいの魔法に驚いたのですかウェンディ様? 私の主人であるなら、この雷を自在に操り、天に還すような魔法を使って頂かなければ……そうじゃなければ、この俺の……この国随一の魔法剣士である俺の主人として相応しく無い」
「フォスター……、が、頑張るから……」
「頑張る? ──はっ、あなたはいつもそうだ。何年も前から頑張る、練習をする、と言うばかりで実際あなたの魔法の腕は少しも上がっていない。あなたのような愚鈍な、その可愛らしいお顔しか取り柄のない愚かな妖精姫は俺に相応しくないっ!」
フォスターの鋭い怒声がウェンディの胸をぐさぐさと突き刺す。
「フォ、」
「あら、凄い音が聞こえたけど……。今のはフォスターの魔法?」
ウェンディがフォスターの名前を呼ぼうとした時。
鍛錬場に、艶やかな声が響く。
「エルローディア様!」
フォスターは、エルローディアが姿を現すなり先程までウェンディに向けていた蔑むような表情からころり、と変わり、恋焦がれるような甘い笑みを浮かべ、エルローディアに駆け寄った。
「驚かせてしまい、申し訳ございませんエルローディア様。ウェンディ様の鍛錬にお付き合いしていたのですが、やはり愚図は愚図ですね。私の魔法に腰を抜かしてしまい、使い物にならないのでもう切り上げようと思っておりました」
「あら、そうなの? お義姉様も懲りないわね。いくら鍛錬したって底が見えてるって言うのに」
くすくす、とエルローディアの嘲笑が聞こえる。
ウェンディの専属護衛であるフォスターは、エルローディアの言葉を窘める事もせず、一緒になってウェンディを笑っていた。
「エルローディア様、私がお部屋までお送りします」
「ええ、ありがとうフォスター」
エルローディアの腰に腕を回し、まるで恋人のようにぴったりと寄り添い歩く二人に、ウェンディは床にへたり込んだまま何も言う事ができず、ただただぼうっと二人の背中を見つめていた。
鍛錬場を出る間際。
思い出したかのようにエルローディアがウェンディに顔だけを振り向き、笑いながら口を開いた。
「お義姉様、フォスターの主人ならこれくらいはできないと……ホプリエル侯爵家の恥ですわよ? ──氷よ、花となれ」
エルローディアがパチン、と指を鳴らすと彼女の氷魔法で作られたいくつもの氷の蝶がウェンディの周囲を舞い、そしてウェンディの体のすぐ側にバラバラに砕け、落下した。
エルローディアの笑い声と、フォスターの笑い声が遠ざかる間、ウェンディは必死に泣くまいと涙を堪え、ぎゅうっと拳を握りしめていた。
ウェンディの小さな手は、ふるふると震え、指先は真っ白になっていた。
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