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8話
しおりを挟む「あぁ……酷いわお義姉様。いくら血の繋がりがなくても……私の実の父はお義父様と親友だったのに……」
エルローディアが悲しそうな声を上げると、すぐに近くに控えていたフォスターが反応し、エルローディアに駆け寄る。
「ウェンディ様。あなたは冷たい方ですね。血の繋がりがなくとも、エルローディア様があなたの義妹となって八年でしょう。もう本当の家族のようなものなのに、エルローディア様の父上と母上の亡くなった日も覚えていないなんて……」
人として酷すぎる。
フォスターから冷たくそう言われ、ウェンディはカトラリーを取り落としてしまった。
食堂にカシャン! と大きな音が響き、不愉快そうに口元を拭ったウェンディの母がその場を立ち上がる。
「気分が悪くなったわ……。私はお先に失礼するわね。エルローディア、私の部屋においでなさい。美味しい紅茶とクッキーがあるの。美味しい物でも食べて、元気になって欲しいわ」
「あり、がとうございますお義母様……」
「エルローディア様、お支えいたします」
甲斐甲斐しくエルローディアを支え、一緒に退室するフォスターを。
一度たりとも視線を向けてくれない母を、ウェンディは傷付いた顔で見送る。
ウェンディが傷付いている、と分かっているはずの侯爵は、はあと重い溜息を吐き出して冷たく見据えた。
「部屋で反省していなさい、ウェンディ。全く……食事も落ち着いて摂れないのか……」
侯爵はぶつぶつと呟きながら、やはりウェンディには一目もくれず、そのまま食堂を出て行ってしまった。
一人残されたウェンディは、ぽつりと椅子に座ったまま、暫くそこを動く事ができなかった。
◇
「──迸れっ! 轟け……っ! 爆ぜろ……っ!」
朝食後の、鍛錬場。
ウェンディは食事もそこそこに、まるで逃げるようにこの鍛錬場にやって来て、それから数時間もの間、ずっと魔法発動の鍛錬を行っていた。
だが、ウェンディが叫び過ぎて声が掠れようとも。
魔力が尽きかけ、ふらふらになろうとも。
ウェンディの攻撃魔法は発動する気配を見せない。
「なんでぇ……っ」
悲しい、苦しい、惨めだ──。
ウェンディは涙声で呟く。
もう、魔力も底を尽きかけていて、体から力が抜けてしまう。
ふらり、と大きく体が傾き、ああこれでは転倒してしまう──。
ふらつきながらもそんな事を他人事のように考えていたウェンディの耳に、焦ったような声が届いた。
「──ウェンディ!!」
滲んだ視界の中。
シルバーの髪の毛を揺らしながら、焦った表情でこちらに駆け寄る人影が見えた。
まるでアメジストの宝石のようなパープルの瞳が見開かれ、駆け寄ってくる。
「……ヴァン?」
「ウェンディ!」
ウェンディが倒れる寸前。
何故か鍛錬場に姿を現したヴァンが、ウェンディが床に倒れ込む直前に抱き留める。
「どうして、ウェンディが鍛錬場に一人でいるんだ!? フォスター隊長は! 自分の主人を危ない目に遭わせて、彼は何をやっているんだ!」
フォスターに対して怒り、怒声を上げているヴァンに助けてくれたお礼を伝えようとしたウェンディだったが、魔力切れのせいだろうか。
体が鉛のように重く、腕を上げる事はおろか、口すら動かない。
「ウェンディ? ウェンディ……」
くそっ。と小さく、悔しそうなヴァンの声が聞こえたが、ウェンディは体のだるさに逆らえずにそのまま瞳を閉じた。
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