「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

文字の大きさ
12 / 19

12話

しおりを挟む




「何を考えているんだ、ウェンディ!!」

 あれから、数時間後。
 魔法演術の催しで、結局ウェンディは何の魔法も発動する事ができず、父侯爵から引き摺られるようにホプリエル侯爵家に帰宅した。

 つい先日まで、攻撃魔法のような強い魔法を発動する事は出来なかったが、光を灯す、炎を灯す、といった魔力消費量の少ない魔法ならば発動できていたのに。
 今のウェンディは、それすらも発動出来なくなっていた。

「簡単な魔法を発動してその場をごまかす事だって出来ただろう!? それなのに、どうしてあの場で何の魔法も発動せず、立っていた!? お前は我がホプリエル侯爵家の栄誉を地に落とすつもりか!?」
「もっ、申し訳ございませんお父様……っ、ま、魔法が……魔法が全く発動せず……っ」
「言い訳は無用だ! フォスターがどうにかあの場を納めてくれたから良いものの、フォスター程の男がいなければ、我が侯爵家は国中の笑いものだ!」
「申し訳ございません、申し訳ございませんお父様……!」

 ウェンディの瞳から、はらはらと涙が零れ落ちる。
 だがウェンディの、娘の涙を見ても。
 侯爵は顔色を変える事は無い。
 侯爵の背後にいるウェンディの母も、自分の口元を扇子で覆い、冷たい目でウェンディを見下ろしていた。

 エルローディアも、フォスターも。
 誰もウェンディを擁護する者はいない。

「暫く自室で謹慎していろ、ウェンディ! 私がいいというまで、祭典には姿を見せるな!」

 おい、誰かウェンディを部屋に連れていけ! と、侯爵の怒声が響く。
 使用人達はウェンディを促し、部屋を退出しようとした。

 ウェンディが部屋を出る寸前──。

 フォスターが侯爵に向かって歩み寄り、声をかけるのが見えた。

「侯爵、お話があります」
「……何だ、フォスター。改まって」

 部屋を出る寸前、二人のそんな会話が聞こえた。
 だが、ウェンディがその会話を最後まで聞く事は無かった。




「お嬢様、旦那様からの許可が出るまでお部屋を出ないようお願いいたします。ご用がございましたらベルを」

 侯爵家の使用人は、淡々とそれだけを口にすると、ウェンディを部屋に押し込みさっさと出て行ってしまった。

 一人室内に残されたウェンディは、呆然としつつ窓の方向へ顔を向ける。
 そう言えば、祭典の最中ヴァンの姿を一度も見なかった。

「前回は、演術が終わったら声をかけに来てくれたのに……」

 ウェンディの魔法、凄かった。と、本当に楽しそうに笑うのだ。
 前回の祭典の時、既にウェンディの魔力も、魔法の腕もかなり落ちていたと言うのに、それでもヴァンは本当に凄かった、とウェンディの魔法を褒めてくれたのだ。

 魔力が落ち、発動できる魔法の種類もかなり減っていたウェンディにとって、ヴァンのその言葉は何よりも嬉しかったし、救いになっていた。

 それなのに、今回は一度だってヴァンの姿を見ていない──。

「どうしよう……ナミアに聞いてみようかしら」

 さっき、ウェンディの部屋まで送った使用人はナミアではない。
 今は他の場所で仕事をしているのだろう。

 ウェンディはベルを手に取ったが、少し迷ってしまう。
 だが、それでも。ウェンディはヴァンの事が聞きたくて、小さくベルを鳴らした。

 ベルを鳴らして、少し。
 ウェンディの自室に近づいてくる足音が聞こえ、聞き慣れたナミアの声が廊下から聞こえた。

「お嬢様、お呼びですか?」
「ナミア。ええ、入って!」

 ウェンディは、良かったナミアが来てくれた、とほっとする。
 ウェンディの返事を聞き、扉を開けて入って来たナミアは、呼ばれた理由が分からず、不思議そうに首を傾げていた。

 ウェンディは早速、気になっていたヴァンの事をナミアに聞いてみる事にした。

「ナミア、祭典までの間と……祭典の時に、ヴァンを見なかったんだけど、ヴァンは今元気にしてるかしら? ナミア、何か知ってる?」

 何の気なしに口にした言葉。
 もしかしたら手紙の一通でも来ていたらいいな、と思う程度の気軽さでウェンディは聞いた。

 だが、ウェンディからヴァンの事を聞いたナミアは、気まずそうに顔を伏せ、言おうか言わまいか、と迷っているような顔をしている。

「──ナミア?」

 どうしたの、だろうか。
 ウェンディがナミアに向かって言葉を続けようとした時。

 廊下からウェンディを呼ぶメイドの声が聞こえた。


「お嬢様、旦那様がお呼びです。すぐに書斎にお越しください」

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を

桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。 政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。 二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。 だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。 聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。 その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。 やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく…… ーーーーーーーー 初作品です。 自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

見切りをつけたのは、私

ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。  婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。 侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。 二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。 (小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)

処理中です...