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一章
13話
しおりを挟む「えっ、お父様が?」
「はい。私はお伝えしましたので、これで失礼します」
扉を開け、廊下に立っていたメイドに話しかけたウェンディは、メイドからそれ以上の事は説明されず、伝えに来たメイドは去って行ってしまった。
暫く謹慎をしていろ、と確かに侯爵は言っていた──。
それなのに、すぐに書斎に呼び出すなんて何事だろう。
そう考えたウェンディだったが、待たせてしまってはまた侯爵に怒られてしまう。
ウェンディは申し訳なさそうにナミアに振り向いた。
「ごめんなさい、ナミア。お父様に呼ばれてしまったから書斎に行ってくるわね。さっきの話は、また後で聞かせてちょうだい!」
「かしこまりました、お嬢様」
廊下で頭を下げ、ウェンディを見送るナミア。
ウェンディは急ぎ足で侯爵の待つ書斎へと向かった。
書斎。
書斎前に着いたウェンディは、緊張しながら扉をノックした。
「お父様、ウェンディです……」
「ああ、入れ」
「失礼、します」
扉を開けて中に入る。
すると、書斎の中には侯爵しかおらず、ウェンディは首を傾げた。
ウェンディの専属護衛騎士であるフォスターは今日、この場にいない。
それがウェンディには不思議でならなかった。
「ウェンディ。お前には祭典の最終日まで邸の地下で反省していてもらう。その間、外部との連絡は一切許さん」
「──えっ?」
「今回の祭典での愚行は、とても擁護できん。我がホプリエル侯爵家の名声と栄誉を傷付けたのだ。鞭打つ事をせぬだけ有難く思え」
「おっ、お父様……っ」
「──フォスター、フォスター入れ!」
ウェンディの父、ホプリエル侯爵は淀みなくあっさりと言葉を紡ぐと、ウェンディの言葉などには一切耳を貸さず、フォスターの名前を叫んだ。
侯爵の声に反応し、すぐに書斎の扉が開き、フォスターが姿を現す。
「フォスター……っ!」
ウェンディが僅かな希望を込めてフォスターを見つめるが、フォスターも一切ウェンディに視線など向けず、侯爵に向かって軽く頭を下げた。
「ウェンディを地下室に連れて行け。そこで最終日まで反省してもらう」
「かしこまりました、侯爵」
フォスターはウェンディを全く無視し、侯爵と話をすると、小さな体で不安そうに震えるウェンディに視線を向けた。
(──昔は、確かに愛らしさを感じていたが……。今となってはこの女が目の前にいると苛立ちを覚えるだけ……。どうして俺はこんな女の専属護衛契約を結んだのか……過去の自分の行動が本当に悔やまれるな)
フォスターはさっとウェンディから視線を外すと、温度の籠っていない声音で告げる。
「私に着いて来てくださいウェンディ様。地下室に案内します」
「お、お父様……」
ウェンディが侯爵を振り返ろうとも、既に侯爵は書斎の机に向かい、仕事の書類に目を通してウェンディに興味を示さない。
ウェンディは、自分を冷たい目で見下ろすフォスターに向き直り、彼が苛立っている事に気付いて何も言えず、そのままフォスターに着いて行った。
フォスターは後ろをとぼとぼと着いてくるウェンディを見て、こっそりと機嫌良さげに口角を上げた。
(まあ……この出来損ないとの契約も、あと三日。最終日には全てが終わる。……それに、あの子うるさいウェンディの蝿も暫くは歩けないはず……ああ、こ?なに時間を無駄にはせず、早くこうしていれば良かったな)
フォスターは鼻歌さえ歌ってしまえそうなほど上機嫌で地下室までの階段を降りた。
冷たい石造りの階段を降りた先。
そこには鍛錬場と、失態を犯した使用人や騎士を罰する地下室がある。
昔貯蔵庫代わりに使用していたのだろう、独房などとは違い、部屋の体は保っている。
だが、侯爵令嬢として育って来たウェンディに取ってはこの部屋で過ごすなど、最早拷問に等しい所業だ。
ウェンディが背後で震えているのに気付いているはずのフォスターは、躊躇いもなく地下室の部屋の扉を開けた。
「さあ、入ってくださいウェンディ様」
「──ほ、本当に私をここに置いて行くの、フォスター……?」
「侯爵様の命令には逆らえませんから。さあ、早く!」
フォスターは、部屋に入ろうとしないウェンディに苛立ち、背中をどんっと押して無理やり部屋に入れる。
「……っフォスター!」
慌ててウェンディが振り向くが、フォスターは素早く扉を施錠した。
「もう、幼く、出来損ないの妖精姫のお守りはうんざりだ。俺は、過去の愚かな自分の行動を呪っている。お前のような女を好きになった事が、俺の人生最大の汚点だよ、ウェンディ様」
扉の奥から、フォスターの低く、凍てつくような言葉が聞こえた。
ずっと、そう思っていたなんて──。
ウェンディは、フォスターの去って行く足音を聞かながら、俯き扉に額を擦り付けた。
ウェンディの足元には、次々と涙が零れ落ち、地面に黒い染みを作っていた。
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