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一章
12話
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「何を考えているんだ、ウェンディ!!」
あれから、数時間後。
魔法演術の催しで、結局ウェンディは何の魔法も発動する事ができず、父侯爵から引き摺られるようにホプリエル侯爵家に帰宅した。
つい先日まで、攻撃魔法のような強い魔法を発動する事は出来なかったが、光を灯す、炎を灯す、といった魔力消費量の少ない魔法ならば発動できていたのに。
今のウェンディは、それすらも発動出来なくなっていた。
「簡単な魔法を発動してその場をごまかす事だって出来ただろう!? それなのに、どうしてあの場で何の魔法も発動せず、立っていた!? お前は我がホプリエル侯爵家の栄誉を地に落とすつもりか!?」
「もっ、申し訳ございませんお父様……っ、ま、魔法が……魔法が全く発動せず……っ」
「言い訳は無用だ! フォスターがどうにかあの場を納めてくれたから良いものの、フォスター程の男がいなければ、我が侯爵家は国中の笑いものだ!」
「申し訳ございません、申し訳ございませんお父様……!」
ウェンディの瞳から、はらはらと涙が零れ落ちる。
だがウェンディの、娘の涙を見ても。
侯爵は顔色を変える事は無い。
侯爵の背後にいるウェンディの母も、自分の口元を扇子で覆い、冷たい目でウェンディを見下ろしていた。
エルローディアも、フォスターも。
誰もウェンディを擁護する者はいない。
「暫く自室で謹慎していろ、ウェンディ! 私がいいというまで、祭典には姿を見せるな!」
おい、誰かウェンディを部屋に連れていけ! と、侯爵の怒声が響く。
使用人達はウェンディを促し、部屋を退出しようとした。
ウェンディが部屋を出る寸前──。
フォスターが侯爵に向かって歩み寄り、声をかけるのが見えた。
「侯爵、お話があります」
「……何だ、フォスター。改まって」
部屋を出る寸前、二人のそんな会話が聞こえた。
だが、ウェンディがその会話を最後まで聞く事は無かった。
◇
「お嬢様、旦那様からの許可が出るまでお部屋を出ないようお願いいたします。ご用がございましたらベルを」
侯爵家の使用人は、淡々とそれだけを口にすると、ウェンディを部屋に押し込みさっさと出て行ってしまった。
一人室内に残されたウェンディは、呆然としつつ窓の方向へ顔を向ける。
そう言えば、祭典の最中ヴァンの姿を一度も見なかった。
「前回は、演術が終わったら声をかけに来てくれたのに……」
ウェンディの魔法、凄かった。と、本当に楽しそうに笑うのだ。
前回の祭典の時、既にウェンディの魔力も、魔法の腕もかなり落ちていたと言うのに、それでもヴァンは本当に凄かった、とウェンディの魔法を褒めてくれたのだ。
魔力が落ち、発動できる魔法の種類もかなり減っていたウェンディにとって、ヴァンのその言葉は何よりも嬉しかったし、救いになっていた。
それなのに、今回は一度だってヴァンの姿を見ていない──。
「どうしよう……ナミアに聞いてみようかしら」
さっき、ウェンディの部屋まで送った使用人はナミアではない。
今は他の場所で仕事をしているのだろう。
ウェンディはベルを手に取ったが、少し迷ってしまう。
だが、それでも。ウェンディはヴァンの事が聞きたくて、小さくベルを鳴らした。
ベルを鳴らして、少し。
ウェンディの自室に近づいてくる足音が聞こえ、聞き慣れたナミアの声が廊下から聞こえた。
「お嬢様、お呼びですか?」
「ナミア。ええ、入って!」
ウェンディは、良かったナミアが来てくれた、とほっとする。
ウェンディの返事を聞き、扉を開けて入って来たナミアは、呼ばれた理由が分からず、不思議そうに首を傾げていた。
ウェンディは早速、気になっていたヴァンの事をナミアに聞いてみる事にした。
「ナミア、祭典までの間と……祭典の時に、ヴァンを見なかったんだけど、ヴァンは今元気にしてるかしら? ナミア、何か知ってる?」
何の気なしに口にした言葉。
もしかしたら手紙の一通でも来ていたらいいな、と思う程度の気軽さでウェンディは聞いた。
だが、ウェンディからヴァンの事を聞いたナミアは、気まずそうに顔を伏せ、言おうか言わまいか、と迷っているような顔をしている。
「──ナミア?」
どうしたの、だろうか。
ウェンディがナミアに向かって言葉を続けようとした時。
廊下からウェンディを呼ぶメイドの声が聞こえた。
「お嬢様、旦那様がお呼びです。すぐに書斎にお越しください」
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