13 / 19
13話
しおりを挟む「えっ、お父様が?」
「はい。私はお伝えしましたので、これで失礼します」
扉を開け、廊下に立っていたメイドに話しかけたウェンディは、メイドからそれ以上の事は説明されず、伝えに来たメイドは去って行ってしまった。
暫く謹慎をしていろ、と確かに侯爵は言っていた──。
それなのに、すぐに書斎に呼び出すなんて何事だろう。
そう考えたウェンディだったが、待たせてしまってはまた侯爵に怒られてしまう。
ウェンディは申し訳なさそうにナミアに振り向いた。
「ごめんなさい、ナミア。お父様に呼ばれてしまったから書斎に行ってくるわね。さっきの話は、また後で聞かせてちょうだい!」
「かしこまりました、お嬢様」
廊下で頭を下げ、ウェンディを見送るナミア。
ウェンディは急ぎ足で侯爵の待つ書斎へと向かった。
書斎。
書斎前に着いたウェンディは、緊張しながら扉をノックした。
「お父様、ウェンディです……」
「ああ、入れ」
「失礼、します」
扉を開けて中に入る。
すると、書斎の中には侯爵しかおらず、ウェンディは首を傾げた。
ウェンディの専属護衛騎士であるフォスターは今日、この場にいない。
それがウェンディには不思議でならなかった。
「ウェンディ。お前には祭典の最終日まで邸の地下で反省していてもらう。その間、外部との連絡は一切許さん」
「──えっ?」
「今回の祭典での愚行は、とても擁護できん。我がホプリエル侯爵家の名声を栄養を傷付けたのだ。鞭打つ事をせぬだけ有難く思え」
「おっ、お父様……っ」
「──フォスター、フォスター入れ!」
ウェンディの父、ホプリエル侯爵は淀みなくあっさりと言葉を紡ぐと、ウェンディの言葉などには一切耳を貸さず、フォスターの名前を叫んだ。
侯爵の声に反応し、すぐに書斎の扉が開き、フォスターが姿を現す。
「フォスター……っ!」
ウェンディが僅かな希望を込めてフォスターを見つめるが、フォスターも一切ウェンディに視線など向けず、侯爵に向かって軽く頭を下げた。
「ウェンディを地下室に連れて行け。そこで最終日まで反省してもらう」
「かしこまりました、侯爵」
フォスターはウェンディを全く無視し、侯爵と話をすると、小さな体で不安そうに震えるウェンディに視線を向けた。
(──昔は、確かに愛らしさを感じていたが……。今となってはこの女が目の前にいると苛立ちを覚えるだけ……。どうして俺はこんな女の専属護衛契約を結んだのか……過去の自分の行動が本当に悔やまれるな)
フォスターはさっとウェンディから視線を外すと、温度の籠っていない声音で告げる。
「私に着いて来てくださいウェンディ様。地下室に案内します」
「お、お父様……」
ウェンディが侯爵を振り返ろうとも、既に侯爵は書斎の机に向かい、仕事の書類に目を通してウェンディに興味を示さない。
ウェンディは、自分を冷たい目で見下ろすフォスターに向き直り、彼が苛立っている事に気付いて何も言えず、そのままフォスターに着いて行った。
フォスターは後ろをとぼとぼと着いてくるウェンディを見て、こっそりと機嫌良さげに口角を上げた。
(まあ……この出来損ないとの契約も、あと三日。最終日には全てが終わる。……それに、あの子うるさいウェンディの蝿も暫くは歩けないはず……ああ、こ?なに時間を無駄にはせず、早くこうしていれば良かったな)
フォスターは鼻歌さえ歌ってしまえそうなほど上機嫌で地下室までの階段を降りた。
冷たい石造りの階段を降りた先。
そこには鍛錬場と、失態を犯した使用人や騎士を罰する地下室がある。
昔貯蔵庫代わりに使用していたのだろう、独房などとは違い、部屋の体は保っている。
だが、侯爵令嬢として育って来たウェンディに取ってはこの部屋で過ごすなど、最早拷問に等しい所業だ。
ウェンディが背後で震えているのに気付いているはずのフォスターは、躊躇いもなく地下室の部屋の扉を開けた。
「さあ、入ってくださいウェンディ様」
「──ほ、本当に私をここに置いて行くの、フォスター……?」
「侯爵様の命令には逆らえませんから。さあ、早く!」
フォスターは、部屋に入ろうとしないウェンディに苛立ち、背中をどんっと押して無理やり部屋に入れる。
「……っフォスター!」
慌ててウェンディが振り向くが、フォスターは素早く扉を施錠した。
「もう、幼く、出来損ないの妖精姫のお守りはうんざりだ。俺は、過去の愚かな自分の行動を呪っている。お前のような女を好きになった事が、俺の人生最大の汚点だよ、ウェンディ様」
扉の奥から、フォスターの低く、凍てつくような言葉が聞こえた。
ずっと、そう思っていたなんて──。
ウェンディは、フォスターの去って行く足音を聞かながら、俯き扉に額を擦り付けた。
ウェンディの足元には、次々と涙が零れ落ち、地面に黒い染みを作っていた。
453
あなたにおすすめの小説
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。
佐藤 美奈
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。
「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。
関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。
「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。
「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。
とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
見切りをつけたのは、私
ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。
婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。
侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。
二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。
(小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる