「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

文字の大きさ
15 / 86
一章

15話

しおりを挟む


「お父様、ウェンディです」
「──入れ」

 ウェンディが声をかけると、すぐに侯爵の声が返る。
 書斎の扉を開け、中に入ったウェンディはちらりと室内を確認する。
 そこには、自分の父親であるホプリエル侯爵と、何故かフォスターの姿があった。
 フォスターはウェンディが入ってきた扉付近の壁に背を預け、どこか薄笑い混じりにウェンディを見ていた。
 だが、ウェンディはフォスターの方へ顔を向ける事なく、また、彼について触れる事もせず、侯爵に向き直った。

「お呼びでしょうか」
「……ああ。今日行われる祭典最終日の観覧についてだ」
「何でしょうか」

 侯爵も、フォスターも。
 地下室に入れられてしまう前のウェンディと、僅かばかり様子が違うように見えて、侯爵は不思議そうに微かに片眉を上げた。
 フォスターに至っては、今までであればウェンディに話しかけられるのが常だった。
 嬉しそうに笑いかけられ、名前を呼ばれていたのに、今はウェンディがフォスターの姿に気付いていないような、全くの無反応。

 フォスターは自分の存在が無視された、と思い、ウェンディを睨んだ。

(何だ、この女……生意気な)

 地下室に閉じ込められてとうとう気でも狂ったのか、とフォスターが失礼な事を考えている間も、ウェンディと侯爵の話は続く。

「分かっているだろうが、最終日は専属護衛騎士の模擬戦がある。最終日の目玉競技だ。フォスターも出場するのは分かっているな?」
「──はい、存じております」
「フォスターの主人であるお前も、観覧席で己の騎士の活躍を見守る必要がある。だから、地下から出してやった。その事を忘れるな、勘違いするな」
「肝に銘じます」
「……ならば、いい。時間になったら呼ぶ。それまで部屋で支度を」
「かしこまりました、お父様。それでは失礼いたします」

 ウェンディは侯爵に頭を下げ、くるりと振り返る。
 その際、壁に背を預け不遜な態度でウェンディを見下ろすフォスターの姿が視界に入った。
 だけど、ウェンディはフォスターには一度も目を向けず、そのまま彼を素通りして部屋を退出した。

「──は?」

 まるで自分の事など見えていない、と言うようなウェンディの態度に、フォスターはついつい呆気に取られた声を上げてしまう。

 四年前──。
 前回の祭典最終日は、ウェンディが想いを込めて手作りしたアクセサリーを渡された。
 そして、心配そうな顔でフォスターに声をかけたのだ。
 「間違っても、怪我だけはしないで。でも、フォスターには勝って欲しい」と可愛らしいお願いを口にした。
 それなのに。

(今年は、この俺を素通りだと……!? いい度胸だ、あの女……!)

 びきびき、とフォスターのこめかみに青筋が浮かぶ。
 今すぐにでも追いかけて、文句を言ってやろうか──。
 そう考えていたフォスターに、侯爵から声がかかった。

「フォスター、何をしている。お前も出場の準備をしなさい」
「──っ、は! かしこまりました」

 怪訝そうな侯爵に、フォスターは深々と頭を下げて、退出の挨拶を口にしてから部屋の外に出た。

 もしかしたらウェンディが出てくるのを待っているのかも、と薄っすら思っていたフォスターは、やはり廊下にもウェンディの姿が見当たらず、怒りを覚えて拳を握りしめた。

「フォスター? 何をぼうっと立っているの?」
「──っ、エルローディア様!」

 フォスターの背後から、色気をふんだんに含んだ甘い声がかかる。

 フォスターはぱっと振り向くと、エルローディアに駆け寄った。

「どうなさったのですか? どうしてここに?」
「ふふ……模擬戦に参加する騎士様に頑張って頂きたくて」
「まさか、励ましの言葉をいただけるのですか?」

 エルローディアの艶のある唇がにっこりと笑みを浮かべる。

「ええ、そう。頑張ってね、騎士様」

 エルローディアは、フォスターに向かって背伸びをする。
 慣れたようにフォスターもエルローディアの腰に自分の手を回し、引き寄せた。

「ありがとうございます、エルローディア様」
「ふふふ」

 二人以外誰もいない廊下で、フォスターとエルローディアは何度もキスをした。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

次は絶対に幸せになって見せます!

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢マリアは、熾烈な王妃争いを勝ち抜き、大好きな王太子、ヒューゴと結婚したものの、結婚後6年間、一度も会いに来てはくれなかった。孤独に胸が張り裂けそうになるマリア。 “もしもう一度人生をやり直すことが出来たら、今度は私だけを愛してくれる人と結ばれたい…” そう願いながら眠りについたのだった。 翌日、目が覚めると懐かしい侯爵家の自分の部屋が目に飛び込んできた。どうやら14歳のデビュータントの日に戻った様だ。 もう二度とあんな孤独で寂しい思いをしない様に、絶対にヒューゴ様には近づかない。そして、素敵な殿方を見つけて、今度こそ幸せになる! そう決意したマリアだったが、なぜかヒューゴに気に入られてしまい… 恋愛に不器用な男女のすれ違い?ラブストーリーです。

君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。 求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。 そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。 しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。 ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが…… ◆なろうにも掲載しています

処理中です...