「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

38話

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「──は? 仕事を休んでいる、だと?」

 フォスターは、向かった先の騎士隊の仕事場で、不機嫌を隠しもせずに声を荒らげる。

 彼の部下は、あからさまに機嫌の悪いフォスターに縮こまっている。

 フォスターは、騎士隊の隊長だ。
 その隊長である自分に報告もなく、ここ何日もヴァンは休んでいるらしい。

「骨折がまだ完治していないのか……? だが、俺に報告もなく休み続けるとはいい度胸だ。上官として指導してやらねば……」

 憂さ晴らしも兼ねて、また訓練と称してヴァンを痛め付けてやろう、とフォスターはほくそ笑んだ。

 そして、フォスターは目的地をヴァンの伯爵家へと変えた。



 ハーツラビュル伯爵家。

 ウェンディとヴァンが強力な魔法を発動してしまい、伯爵やヴァンの兄、ナミアまでもがウェンディの部屋にやって来たあの時から、少し経った頃。

 ウェンディの部屋にやって来た当初は伯爵も、イアンもウェンディの姿に驚愕していたが、すぐに冷静さを取り戻した。
 ウェンディとヴァンは、伯爵に事情を説明し、説明を受けた伯爵は二人を鍛錬場に連れて来ていた。
 そこには勿論、ヴァンの兄イアンとナミアも同席していた。

 鍛錬場の中央で不安げに佇むウェンディに、伯爵は安心させるように微笑みつつ口を開いた。

「ウェンディ嬢、安心しなさい。ここではいくら強力な魔法が発動しようとも、防御魔法に守られているから傷一つつかない。安心して魔法を」
「──わ、分かりました伯爵」

 伯爵の言葉にこくりと頷いたウェンディは、緊張しつつ答える。
 バクバク、と緊張で速まる鼓動がウェンディの耳に届く。
 けど、すぐ近くにはヴァンが居てくれているのも、分かる。
 その安心感がとても強くて。
 ウェンディは自分の両腕をすっと前に突き出して意識を集中した。
 体内を巡る魔力を感じ取り、具現化しやすい魔法を想像し、口を開いた。

「──爆ぜろっ!!」

 ウェンディの高く、澄んだ声が鍛錬場に響いた瞬間。

 ──ごうっ!

 と、物凄い音を轟かせウェンディの突き出した腕の先から、圧縮された炎が出現した。
 出現するなり、その炎は物凄い速度で突き進み、壁にぶち当たる。

 壁に当たったウェンディの攻撃魔法は、まるで生き物のように炎がのたうち回り、熱波が離れた場所にいるウェンディやヴァン達にも伝わってくる。

 蛇のようにのたうち回る幾つもの細い火柱がウェンディの立つ場所にも伸びてきた。
 ウェンディは慌てながらそれを防ごうと魔法を発動しようとしたが、横から伸びてきた腕に引き寄せられ、頭上から低い声が落ちる。

「──阻め」

 ヴァンが呟いた瞬間、ヴァンが発動した氷魔法が一瞬でウェンディとヴァンの目の前に出現する。
 とても分厚い氷の壁は、出現した瞬間に空間の温度を一気に下げたようで、荒れ狂う炎の熱さももうウェンディには届かない。

「──は?」
「ヴァン……?」

 だが、魔法を発動したヴァンは、ウェンディ以上に驚いているようで、自分の腕を見下ろしている。
 まるで信じられない物を見るように、目を見開き腕を凝視するヴァンに、ウェンディも先程炎の攻撃魔法を発動した自分の腕に視線を移す。

 攻撃魔法が発動した瞬間は、驚きでいっぱいだった。
 だが、時間が経つにつれてじわじわと実感が湧いてくる。

「──私、魔法を発動出来るようになった……」

 それも、恐らく全盛期だった幼少期よりも魔法の腕も、質も確実に上がっている。
 今までにないほどに素早く魔法の発動ができ、そして威力も今まで目にしたどの魔法よりも強力だ。
 まさか、再び攻撃魔法を発動できるようになるなんて──。

 ウェンディが笑顔でヴァンを見上げると、ヴァンは未だに自分の腕を見下ろして困惑している様子だ。
 ウェンディは、ヴァンの服の裾をつまんで引っ張った。

「ヴァン? どうしたの?」
「──っ」

 ウェンディの声にはっと反応したヴァンは、戸惑いを隠せぬまま、困惑した声で答えた。

「ウェンディ、魔法の威力が桁違いに上がってる──」
「──えっ」

 自分のみならず、ヴァンまで魔法の威力が上がっているとは。
 ヴァンもじわじわと実感が湧いてきたのだろう。

 ウェンディに顔を向けたヴァンは、興奮を隠しきれないような顔で嬉しそうに笑った。

「──凄い、凄い事だウェンディ! 専属契約って、こんなに凄い効果があるのか!?」
「えっ、あ! きゃあっ」

 ヴァンは嬉しさのあまり、腕の中にいたウェンディの体を持ち上げた。

 いきなり視界が高くなったウェンディが悲鳴を上げる。

「ちょっ、ちょっとヴァン! 高くて怖いわっ! 絶対落とさないでよ!!」
「落とすわけないだろう、ウェンディ!」

 鍛錬場の中心部で楽しげに、嬉しそうに笑うヴァンと、はにかむウェンディ二人の姿を少し離れた場所から冷静に見守っていた伯爵達。
 伯爵の隣にいたヴァンの兄イアンは、唖然としたまま呟いた。

「──専属護衛騎士契約ってのは、あんなに力が増すのですか、父上……」
「いや……あれ程の上昇値は今まで見た事が無い。……どうなっている」

 そんな事を話していた二人の下に、この邸の使用人が慌てた様子で駆け込んで来た──。

「だ、旦那様っ!」
「──何事だ。誰もここには近付かぬように、と言っておいただろう!?」
「そ、それがっ」

 使用人が言葉を返そうとした瞬間、その使用人を押し退けて一人の男が姿を現す。

「お邪魔していますよ、ハーツラビュル伯爵。ご子息に用がありますので、通して下さい」
「──フォスター卿? 不躾にも程がある。帰ってくれ」
「……ふんっ」

 フォスターは不遜な態度そのままに、鍛錬場に目をやった。
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