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一章
37話
しおりを挟むウェンディの叫び声が聞こえたのだろう。
「──ウェンディ!!」
遠くからヴァンの叫び声が聞こえ、けたたましい足音が近づいてくる。
「どうしたウェンディ! 無事か!?」
「ヴ、ヴァン……っ」
ヴァンは、部屋に駆け込むなりびしょ濡れになったウェンディの姿に目を見開く。
そして、室内が水浸しになっている事を確認すると、慌てて魔法を発動した。
「──風よ!」
室内を乾かそうと、発動した風魔法。
魔力の調整も完璧なはずのヴァンの魔法は、だがしかし物凄い突風となって室内を荒れ狂う。
「な、何だこれは!?」
「ひええっ」
「──っ、ウェンディ! こっちに!」
自分が発動した魔法の威力に驚愕したヴァンだったが、風に煽られ悲鳴を上げているウェンディに気が付くと、慌ててウェンディを抱きしめる。
二人とも、自分が発動した魔法の威力に唖然としてしまっていて。
大慌てでこちらに向かってくる複数の足音には気が付かなかった──。
◇◆◇
「何故だ、何故だ何故だ……っ!!」
フォスターは、怒り狂い近くにあった椅子を蹴飛ばした。
「何度やっても、エルローディア様と専属護衛騎士契約が結べない!!」
契約に失敗する度に、エルローディアや侯爵からは失意の目を向けられ、責められる。
フォスターは、もう何度目になるかも分からない契約の失敗に、床に座り込んだ。
契約の拒絶なのだろうか。
体中は激しい痛みを伴っている。
フォスターと同じく、体の痛みに呻きながら床に這いつくばっていたエルローディアが、侯爵に体を支えてもらいながらゆらり、と立ち上がった。
「──フォスター。あなた、一体どういうつもりなの……? 何度、私を拒むのよ……っ、このままあなたと契約出来ないままじゃあ、私は貴族達のいい笑い者よ!」
「しっ、しかしエルローディア様っ、私には拒む気持ちなどっ」
フォスターが言葉を全て言い終える前に、侯爵が苛立ちを顕にした視線を向ける。
そして、遮るように叫んだ。
「言い訳は結構だ、フォスター!! これ以上エルローディアに惨い仕打ちをしたら分かっているだろうな!? お前を実家の商会に突き返す!」
「こっ、侯爵……! お待ちください、本当に私は──っ」
「うるさい! 卑しい商人の血筋のくせに! 私の娘をこれ以上傷付けるようであれば、お前を我が家の騎士から解雇する! 騎士隊にも戻れると思うなよ!」
「あんまりです、侯爵!!」
フォスターの訴えなど気にも止めず、侯爵はエルローディアを支えながら鍛錬場から出て行ってしまった。
二人の背中を唖然と見つめていたフォスターだったが、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「卑しい、商人の血筋、だと……? 子供の頃、俺を助け、雇ってくれたのはあなたじゃないか、侯爵……っ」
そして、フォスターはウェンディの優しさと愛らしさに惹かれ、彼女の役に立ちたい。彼女をずっと傍で守りたい、と思うようになった。
たまたまフォスターには魔法と剣の才能があり、そのまま鍛錬をして、侯爵家所属の騎士になれたのだ。
そうして、騎士隊にも入隊して。
その後、ウェンディと想いが通じ合って──。
そこまで考え、思い出したフォスターはゆらり、と立ち上がる。
「……そうだ、ウェンディ様。ウェンディ様と俺は、契約出来たんだから……全部エルローディア様がいけないんだ」
鍛錬場の出口に向かって一歩一歩、しっかりとした足取りで歩く。
「ウェンディ様なら、ウェンディ様ならきっと俺を見捨て、ない。俺を愛しているのだから……。ウェンディ様は、どこだ? どこに行った……」
そして、フォスターは思い出す。
ウェンディがこの侯爵家から追い出される時。
「──ヴァン・ハーツラビュル! お前か!」
高熱に倒れたウェンディを攫ったのは、自分の騎士隊に所属しているヴァンだ。
それを思い出したフォスターの目的は、ただ一つ。
「やっぱり、俺にはウェンディ様しかいないんだな……ふっ、ふふっ、仕方ない。俺が直々に迎えに行ってやる!」
もしかしたらウェンディは、迎えに来た自分を見て感動に咽び泣くかもしれない。
ウェンディがどうしても、と泣くなら。
仕方がないから結婚だってしてやっても良い。
あんな幼い子供のようなウェンディを、女としては見れないが、エルローディアとの関係は続ければいいのだ。
そう、心の中で考えたフォスターは名案だとばかりに高笑いをする。
「ああ、こうすれば良い。そうだ、ウェンディ様だって俺と結婚できるなら、喜ぶはず……!」
フォスターは自分勝手な事を考えながら、ウェンディを攫ったヴァンに会いに行く事にした。
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