「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

39話

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 鍛錬場の中央には、一組の男女がいる。
 男の方は、フォスターが探していたヴァンだ。

 そして、ヴァンに抱き上げられているもう一人の女性に引き寄せられるようにフォスターは視線を向ける。

 キラキラ、と輝く柔らかそうな黄金の髪の毛がふわりと舞い、細くしなやかな両手がヴァンの肩に置かれているのが見えた。

 細身だが、女性らしい曲線美が簡素なドレスの上からでも確認出来る。
 寧ろ、ドレスは華美でもなく質素な部類なのにそれがまた女性の清らかな美しさを引き出している。
 フォスターの視線は、吸い込まれるようにその女性にひたり、と定まった。

 視線を感じたのだろう。
 ヴァンばかりを向いていた女性の顔が、ようやくフォスターの方を向いた。
 その瞬間、フォスターは息を呑んだ。

「──っ!?」

 蒼い目が、フォスターを見て、不快感を顕に歪む。
 その瞳も、顔立ちも、髪の毛の色だって。
 全てウェンディと一緒で。
 顔立ちだって、ウェンディとそっくりだった。
 ウェンディが成長したら。十八と言う年齢に見合った外見だったら、まさしくこのように成長しているだろう。

 そして、その一瞬でフォスターは理解した。

「──まさ、か、ウェンディ、様……?」

 フォスターの声がヴァンの耳にも届いたのだろう。
 甘く蕩けたような瞳でウェンディを見つめていたヴァンの瞳が、凍てつくほど冷たい光を宿し、眉が顰められた。

「……フォスター隊長? どうしてここに……」
「ヴァン……」
「大丈夫。君はここに居てくれ。話を聞いてくる」

 ヴァンがそう告げ、ウェンディを床に下ろす。
 すると、すぐにナミアがウェンディに駆け寄り、彼女を守るように自分の背に隠した。

 ずっとウェンディに仕えていたナミアが、その女性を守るように動いたのを見たフォスターは、益々確信を得た。

(嘘だろう……!? あんな美女が、ウェンディ様だと……!?)

 フォスターの胸は、歓喜で震える。
 エルローディアなんぞ、目ではない。

(いや、むしろエルローディア様など、ウェンディ様の足元にも及ばない。あんないやらしく、下劣な女など、俺の主に相応しくない! そうだ、やっぱり俺にはウェンディ様しかいないんだ! これだけの美女なら、結婚して、抱いてやってもいい!)

 フォスターはにやついた顔を隠す事もせず、ウェンディに向かって足を進める。

「フォスター卿。これ以上伯爵家の鍛錬場に足を踏み入れてはならん。お引き取りを」

 フォスターを静止するように、伯爵が立ち塞がる。
 だが、フォスターは煩わしげに顔を歪め、伯爵の肩を押しやった。

「──怪我をしたくなければ、退いてください。ウェンディ様! 迎えに参りました、私と一緒に行きましょう!」
「フォスター卿!!」

 伯爵の静止も虚しく、フォスターは鍛錬場に足を踏み入れると、ウェンディの名前を叫び、手を差し出した。

 ウェンディは、ナミアの背後に隠れて姿が見えない。
 その変わりに、物凄い形相でフォスターに向かって歩いて来るヴァンの姿が視界に入った。

「……ヴァン・ハーツラビュル。よくも私のウェンディ様を連れ去ったな? 彼女を私に返してもらおう」
「──はっ、ウェンディがフォスター隊長のものですって? ウェンディは誰のものでもないですよ、隊長。それに、ウェンディ本人はフォスター隊長の所になんて帰りたくない、と」
「でたらめを言うな! 私の部下なら、私の命令に従え! ウェンディ様は私が連れて帰る!」

 フォスターは、立ち塞がるヴァンの肩に手をやり、伯爵同様押し退けようとした。
 だが、力を込めてヴァンを押しても、ぴくりとも動かない。まるで岩か何かを押しているような感覚に、フォスターは驚き、目を見開いた。

「ウェンディは、俺の主です。彼女の専属護衛として、彼女に害を成す者は俺が排除します」

 ヴァンが腰に下げていた長剣の柄に手を伸ばす。

 ──ウェンディの専属護衛。

 その言葉を聞いた瞬間、フォスターは血走った目をヴァンに向けた。

「嘘を吐くな! お前がウェンディ様と専属護衛騎士契約を結べるはずがないだろう!? 私とエルローディア様は何度試みても失敗したと言うのに……っ、どうしてお前がっ!」
「嘘だと言うのなら、ご自分で確認してみれば良い」

 そう告げたヴァンは、ちらりと伯爵に視線を向ける。
 ヴァンの意図に気づいたのだろう。
 伯爵は自分達を守るように防御魔法を発動し、イアンはウェンディとナミアを呼び戻し、鍛錬場から外に出した。

 フォスターを一切見る事なく、ヴァンに心配そうな視線を向けるウェンディに、フォスターは苛立ちを覚えた。

(また、俺を見ない……! どうしてウェンディ様は俺を見ないんだ!)

 祭典の最終日、模擬戦でもウェンディは自分ではなく、相手騎士にばかり視線を向けていた事を思い出し、フォスターは苛立った。

 ヴァンと同じように自分の腰の長剣の柄を掴み、抜き放つ。

「そのような大口を叩けるのも、今だけだ。上官として、部下を躾けねばな」

 フォスターは得意気に笑みを浮かべ、長剣に魔法を付加した。
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