39 / 86
一章
39話
しおりを挟む鍛錬場の中央には、一組の男女がいる。
男の方は、フォスターが探していたヴァンだ。
そして、ヴァンに抱き上げられているもう一人の女性に引き寄せられるようにフォスターは視線を向ける。
キラキラ、と輝く柔らかそうな黄金の髪の毛がふわりと舞い、細くしなやかな両手がヴァンの肩に置かれているのが見えた。
細身だが、女性らしい曲線美が簡素なドレスの上からでも確認出来る。
寧ろ、ドレスは華美でもなく質素な部類なのにそれがまた女性の清らかな美しさを引き出している。
フォスターの視線は、吸い込まれるようにその女性にひたり、と定まった。
視線を感じたのだろう。
ヴァンばかりを向いていた女性の顔が、ようやくフォスターの方を向いた。
その瞬間、フォスターは息を呑んだ。
「──っ!?」
蒼い目が、フォスターを見て、不快感を顕に歪む。
その瞳も、顔立ちも、髪の毛の色だって。
全てウェンディと一緒で。
顔立ちだって、ウェンディとそっくりだった。
ウェンディが成長したら。十八と言う年齢に見合った外見だったら、まさしくこのように成長しているだろう。
そして、その一瞬でフォスターは理解した。
「──まさ、か、ウェンディ、様……?」
フォスターの声がヴァンの耳にも届いたのだろう。
甘く蕩けたような瞳でウェンディを見つめていたヴァンの瞳が、凍てつくほど冷たい光を宿し、眉が顰められた。
「……フォスター隊長? どうしてここに……」
「ヴァン……」
「大丈夫。君はここに居てくれ。話を聞いてくる」
ヴァンがそう告げ、ウェンディを床に下ろす。
すると、すぐにナミアがウェンディに駆け寄り、彼女を守るように自分の背に隠した。
ずっとウェンディに仕えていたナミアが、その女性を守るように動いたのを見たフォスターは、益々確信を得た。
(嘘だろう……!? あんな美女が、ウェンディ様だと……!?)
フォスターの胸は、歓喜で震える。
エルローディアなんぞ、目ではない。
(いや、むしろエルローディア様など、ウェンディ様の足元にも及ばない。あんないやらしく、下劣な女など、俺の主に相応しくない! そうだ、やっぱり俺にはウェンディ様しかいないんだ! これだけの美女なら、結婚して、抱いてやってもいい!)
フォスターはにやついた顔を隠す事もせず、ウェンディに向かって足を進める。
「フォスター卿。これ以上伯爵家の鍛錬場に足を踏み入れてはならん。お引き取りを」
フォスターを静止するように、伯爵が立ち塞がる。
だが、フォスターは煩わしげに顔を歪め、伯爵の肩を押しやった。
「──怪我をしたくなければ、退いてください。ウェンディ様! 迎えに参りました、私と一緒に行きましょう!」
「フォスター卿!!」
伯爵の静止も虚しく、フォスターは鍛錬場に足を踏み入れると、ウェンディの名前を叫び、手を差し出した。
ウェンディは、ナミアの背後に隠れて姿が見えない。
その変わりに、物凄い形相でフォスターに向かって歩いて来るヴァンの姿が視界に入った。
「……ヴァン・ハーツラビュル。よくも私のウェンディ様を連れ去ったな? 彼女を私に返してもらおう」
「──はっ、ウェンディがフォスター隊長のものですって? ウェンディは誰のものでもないですよ、隊長。それに、ウェンディ本人はフォスター隊長の所になんて帰りたくない、と」
「でたらめを言うな! 私の部下なら、私の命令に従え! ウェンディ様は私が連れて帰る!」
フォスターは、立ち塞がるヴァンの肩に手をやり、伯爵同様押し退けようとした。
だが、力を込めてヴァンを押しても、ぴくりとも動かない。まるで岩か何かを押しているような感覚に、フォスターは驚き、目を見開いた。
「ウェンディは、俺の主です。彼女の専属護衛として、彼女に害を成す者は俺が排除します」
ヴァンが腰に下げていた長剣の柄に手を伸ばす。
──ウェンディの専属護衛。
その言葉を聞いた瞬間、フォスターは血走った目をヴァンに向けた。
「嘘を吐くな! お前がウェンディ様と専属護衛騎士契約を結べるはずがないだろう!? 私とエルローディア様は何度試みても失敗したと言うのに……っ、どうしてお前がっ!」
「嘘だと言うのなら、ご自分で確認してみれば良い」
そう告げたヴァンは、ちらりと伯爵に視線を向ける。
ヴァンの意図に気づいたのだろう。
伯爵は自分達を守るように防御魔法を発動し、イアンはウェンディとナミアを呼び戻し、鍛錬場から外に出した。
フォスターを一切見る事なく、ヴァンに心配そうな視線を向けるウェンディに、フォスターは苛立ちを覚えた。
(また、俺を見ない……! どうしてウェンディ様は俺を見ないんだ!)
祭典の最終日、模擬戦でもウェンディは自分ではなく、相手騎士にばかり視線を向けていた事を思い出し、フォスターは苛立った。
ヴァンと同じように自分の腰の長剣の柄を掴み、抜き放つ。
「そのような大口を叩けるのも、今だけだ。上官として、部下を躾けねばな」
フォスターは得意気に笑みを浮かべ、長剣に魔法を付加した。
2,922
あなたにおすすめの小説
妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
双子として生まれたエレナとエレン。
かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。
だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。
エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。
両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。
そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。
療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。
エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。
だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。
自分がニセモノだと知っている。
だから、この1年限りの恋をしよう。
そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。
※※※※※※※※※※※※※
異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。
現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦)
ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
次は絶対に幸せになって見せます!
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢マリアは、熾烈な王妃争いを勝ち抜き、大好きな王太子、ヒューゴと結婚したものの、結婚後6年間、一度も会いに来てはくれなかった。孤独に胸が張り裂けそうになるマリア。
“もしもう一度人生をやり直すことが出来たら、今度は私だけを愛してくれる人と結ばれたい…”
そう願いながら眠りについたのだった。
翌日、目が覚めると懐かしい侯爵家の自分の部屋が目に飛び込んできた。どうやら14歳のデビュータントの日に戻った様だ。
もう二度とあんな孤独で寂しい思いをしない様に、絶対にヒューゴ様には近づかない。そして、素敵な殿方を見つけて、今度こそ幸せになる!
そう決意したマリアだったが、なぜかヒューゴに気に入られてしまい…
恋愛に不器用な男女のすれ違い?ラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる