「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

53話

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 エルローディアの目前にまで迫っていた狼が、突然目の前に出現した氷の檻に閉じ込められた。

 ぎゃう! と狼は悲鳴を上げ、突然出現した氷の檻に体当たりや噛み付いたりしているが、檻は頑丈で、壊れない。

「た、助かった……?」

 エルローディアがぺたり、と地面に座り込んだと同時、バタバタと駆け寄る足音が聞こえてきた。

「そこに居るのはエルローディアと、フォスター!?」
「──お義姉様」

 まさか、ウェンディが助けに戻ってくるとは思わなかったのだろう。
 エルローディアも、フォスターも驚いたような表情を浮かべたが、すぐに檻の中で暴れ、吠える狼に恐怖を思い出したのか、駆け寄ってくるウェンディに向かってエルローディアが叫んだ。

「こ、こいつらを殺して、お義姉様! さっき私たちを襲って来たのよ!」
「ウェ、ウェンディ様! 私たちの為にわざわざ戻って来て下さったのですか!?」

 エルローディアは今すぐに狼を殺せ、と叫び。フォスターは明るい表情で、感動したように声を上げる。

 ウェンディはちら、と二人に視線を向けると口を開く。

「私たちの後をつけていたのね……。どうしてそんな事をしたのか分からないけど、無闇な殺生はお断りするわ」
「──無闇って! 私とフォスターは狼に襲われたのよ!? 人間に危害を加えようとする獣なんて処分してよ!」
「嫌よ。狼達はこのまま逃がすわ。きっと彼らの縄張りにでも私たちが入ってしまったのよ。それで、彼らを刺激してしまった」
「俺も、ウェンディの言う通りだと思う。ここは未開の地だ。見慣れぬ人間に、防衛本能から襲ってしまったのだろう」

 ヴァンも、ウェンディの後に続く。
 二人から少し離れた安全な場所でナミアは待機しているらしく、心配そうな視線を感じる。

 ウェンディは安心してもらうためにナミアに笑みを向けた後、ヴァンの言葉に続いた。

「狼だって本能で外敵を排除しようとしただけ。敵わない相手だと分かり、こちらから手を出さなければ狼だってもう攻撃して来ないわ」

 ウェンディの言葉通り、先程まで攻撃的でとても凶暴化していた狼達が、ウェンディとヴァンが姿を現すなり怯み、尻尾を下げてきゅんきゅんと鳴いている。
 狼側にはもう攻撃の気配が見えず、ウェンディは檻に向かってすっと手を伸ばした。

「お、お義姉様! 何をしようとしているの!? あいつらを殺さず、逃がすつもり!?」

 エルローディアは慌てた様子でウェンディの腕を掴む。
 フォスターも顔色を悪くさせ、ウェンディと狼を交互に見つめるがエルローディアのように腕を掴み、ウェンディを止めるような気配は無い。
 だが、フォスターは警戒を緩めず痛む体を起こし、自身の腰に差した長剣に手を伸ばした。

「もちろん、狼達を逃がすわ。私は無闇矢鱈と命を奪いたくはないの」

 そう告げたウェンディは、止めようとしていたエルローディアの腕を払い、再び檻に手のひらを向けた。
 そして、躊躇いなく言葉を発する。

「──解き放て」
「ああっ! お義姉様の愚か者! どうなっても知らないわ!!」

 ウェンディの声に呼応するように、狼を閉じ込めていた氷の檻が消える。
 狼達は狼狽えていたが、てしてし、と足音を立ててその場から動き、ちらりとウェンディとヴァンを見て服従するように耳と尻尾をさげたまま一声鳴いた。

 そして、ウェンディ達にくるりと背を向けると、そのまま森深くに走って行ってしまった。



 狼が視界から完全に消え去った事を確認したエルローディアは、警戒を解いてその場にへたり込む。

「に、逃げた……の?」
「動物は察知能力が高い。ウェンディには敵わないと見て撤退したんだ」

 へたり込んだエルローディアに視線を向けたヴァンがそれだけを告げると、ウェンディに手を差し伸べる。

「ウェンディ、戻ろう。早くこの森を抜けて目的地まで行こう」
「ええ、そうねヴァン。ナミアも待ってくれているし、先を急ぎましょう」

 フォスターとエルローディアを置いてその場を去ろうとするウェンディ達に、フォスターは慌てて駆け寄った。

「ウ、ウェンディ様! その、私も馬車に乗せてください……! 乗ってきた馬が逃げてしまい、どうしようもないのです! ウェンディ様のお役に立ちますのでどうか……!」
「ふざけないでくれ、フォスター隊長。それは自業自得でしょう。歩いて近くの村にでも戻り、馬を借りてください」
「お前には聞いていない! お願いします、ウェンディ様!」

 フォスターのみならず、エルローディアもウェンディに縋り付く。

「お、お義姉様! 私を馬車に乗せてください! フォスターのせいで馬が逃げてしまったのです! ここで見捨てられてしまったら、死んでしまいますわ!」
「……っ、仕方ないわね」

 エルローディアの言う通り、もしここで二人を見捨ててしまったら。
 フォスターは騎士で、野営にも馴染みがあるし耐えられても、侯爵令嬢として育ったエルローディアにはとても耐えられないだろう。

 ウェンディは額を抑え、仕方なく二人の同行に頷いた。




 ウェンディ達が馬車の所へ戻ってくると、そこは先程までの景色と一変していた。

 舗装されていない道を走っていたはずの馬車は、鬱蒼とした森の中にぽつり、と放置されていた。
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