「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

52話

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 馬車で移動する事、三日程。
 風魔法で馬車の速度を上げていたため、予定より一日程時間を短縮して、アヌジュの森があるタール地方に入った。

 タール地方は未開の地のため、今まで通って来た道のように舗装されている訳ではない。
 舗装されていない道は馬車の足を緩めて進み、舗装されていて、なだらかな道は馬車の速度を上げる。

 そんな事を繰り返し、アヌジュの森まであともう少し、と言う所まで来た時──。

 ウェンディとヴァンは御者台で話をしていたのだが、背後から聞こえて来た叫び声に反応し、馬車を止めた。

 人間の叫び声が辺りに響き、バサバサと鳥が飛び立つ。

「お、お嬢様……今の声って……」

 御者台真後ろの窓を開け、不安気な顔でナミアがウェンディに話しかける。
 ウェンディは真剣な表情で背後を凝視し、隣に座るヴァンは自身の腰に刺した長剣の柄に手を添えていた。

 ナミアに、ウェンディは答える。

「ええ……。今の叫び声はフォスターとエルローディアの声みたいね……。私たちをつけていたのね」
「ウェンディ。今の叫び声……賊か、獣に襲われたのかもしれない」
「ええ、そうみたい。……流石に見捨てる訳には行かないわね。少し戻りましょう」

 ウェンディの言葉に頷いたヴァンは、近場で馬車の方向転換が出来る場所を見つけるとそこで方向転換し、馬車の速度を上げて叫び声が聞こえた方向へ向かった。

◇◆◇

「くそっ! あっちに行け!」
「いやっ、数が多過ぎるわフォスター! 早くどうにかしてちょうだいよ!」

 ウェンディ達を追っていたフォスターとエルローディア。
 エルローディアは途中で馬車からフォスターの乗る馬に乗り換えていた。

 馬車の速度を魔法で上げていたウェンディ達に追い付くには、エルローディアも同じように風魔法で対応しなければならない。
 だが、エルローディアにはウェンディが発動した風魔法のような強い魔法は使えない。
 そのため、見失ってしまう事を避けるためにフォスターの馬に移ったのだが──。

「最悪だわ! こんな事なら、馬車からフォスターの馬に移らなければ良かった! 早く蹴散らしてよフォスター!」
「そう言われても……! やつら、ちょこまかとっ、動きが早くて、魔法が命中しない!!」

 フォスターとエルローディアの乗る馬を、複数の狼が囲み、襲っていたのだ。
 フォスターも、エルローディアも攻撃魔法を狼に放つが、動きが素早く魔法が当たらない。

 複数の狼に囲まれ、吠えられ、攻撃をされ続けている状況に、フォスターの馬も先程から怯えている。
 フォスターは馬を宥める事に気を取られ、先程から狼への攻撃はエルローディアのみになってしまっている。

 エルローディア一人では、全ての狼に対処などできず、限界はすぐに訪れた。
 狼の数は全部で七匹。
 その内の一匹が、フォスターやエルローディアの視界から外れた隙に、狼が馬の足に噛み付いた。

 瞬間──。
 馬は大きな嘶きを上げ、立ち上がってしまう。

「──うわっ」
「きゃああ!!」

 フォスターとエルローディア二人は、相当な高さから落馬して、地面に倒れ込む。

 地面に倒れ込んだ拍子に、フォスターは強かに胸を打ち付け、咳き込んだ。
 エルローディアは運良く馬のお尻側から落馬し、そこまで高低差が無かったため、フォスターほど、体に痛みを伴う事は無かった。

 落下した衝撃で、一瞬息に詰まったエルローディアだったが、自分達に近付く狼に気付き、ひゅっと息を飲んだ。

「フォ、フォスター! あなた、この国随一の騎士だと豪語していたじゃない……っ、早く戦って、こいつらを皆殺しにしなさいよ!」
「──はっ、ぅぐっ」

 ゆっくりと警戒しつつ近付いてくる狼に、エルローディアは顔を真っ青にする。
 自分達が乗ってきた馬は、さきほど狼に噛まれてしまったせいで逃げ出しており、今はもう視界のどこにも馬の姿は見当たらない。

「ほ、炎よっ!」

 エルローディアは恐怖に泣き出してしまいそうになりつつ、攻撃魔法を放つ。
 だが、エルローディアの手から放たれた炎の攻撃魔法は、動きの素早い狼には簡単に避けられてしまい、当たらない。

 狼は、自分達に害を成すフォスターとエルローディアを排除しようと、じりじり詰めていた距離を一斉に動き出し、飛びかかってきた。

「──きゃああ!」
「──氷の檻よ、捕らえろ!」

 狼七匹がフォスターとエルローディアに飛びかかった瞬間。
 ウェンディの澄んだ声がその場に響いた。

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