「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

文字の大きさ
51 / 84
一章

51話

しおりを挟む


◇◆◇

 場所は変わり、ウェンディとナミアが乗る馬車の中──。

「お嬢様、ここから暫く馬車を走らせるとヴァン様が仰っていました。お腹は減っておりませんか? 小休憩までは時間がありますので、何かお腹に入れませんか?」
「そうね、確かに少しお腹が減っているかしら。ナミアも一緒に食べましょう?」
「ありがとうございます、お嬢様」

 ナミアは持参していた荷物の中から保温ポットとバスケットを取り出し、食事の準備を始める。
 保温ポットから温かいスープをお椀に注ぐ。

「お嬢様、まだ熱いので飲まれる際はお気を付けて」
「ありがとう、ナミア。ナミアも私の事は気にせず飲んでね?」
「はい、お嬢様。ありがとうございます」

 ナミアが用意してくれたスープに口をつけてほっと一息ついていると、他の食事を用意していたナミアがふと口を開いた。

「そう言えばお嬢様。ハーツラビュル伯爵様は、アヌジュの森に契約魔法に精通した方がおられると?」
「ええ、そうなの。伯爵が仰るには、そうらしいのだけど……。アヌジュの森って、私そんなに詳しくなくて」
「そうです、ね……。私もあまりあちらの地域には明るくありませんね……。森の中に住居を構えているのでしょうか?」
「そうなる、わよね? どんな方なのか分からないけど、お会いしてお話を聞ければいいのだけど……」

 ウェンディも、ナミアも。
 アヌジュの森に契約魔法に詳しい大賢者が居る、と言われていたのが数百年前の事だとは知らない。

 だが、その事実を知らない二人はその人物について想像を膨らませ、会話を楽しんだ。



 スープを飲み終わり、軽くお腹に食べ物を入れ終わえたウェンディは、ナミアに小さなバスケットにクラッカーを用意してもらい、御者台に座るヴァンに声をかけた。

「ヴァン、ナミアがクラッカーを用意してくれたんだけど、食べられるかしら?」
「ウェンディ? それは助かる。このまま貰うよ。窓から手渡してもらってもいいか?」

 御者台の真後ろの窓から声をかけていたウェンディに向かって、ヴァンが手を伸ばす。
 だがウェンディはヴァンの伸ばされた手に小さなバスケットを乗せる事はなく、窓から御者台に移った。

「ウェンディ!? 馬車が走っているのに危ないだろう!?」

 突然自分の横に移動してきたウェンディに、ヴァンはギョッとして叫ぶ。

「もし馬車が大きく揺れていたら、ウェンディが振り落とされていたかもしれない……! 頼むから危険な事はしないでくれ」
「ごめんさい、ヴァン。だけど、ヴァンの隣で話したくて」
「──そんな嬉しい事を言われたら怒れないじゃないか……」
「ふふ、ごめんなさい。今後は気を付けるわ、ヴァン」
「ああ、そうしてくれ」

 怒った表情のヴァンに、ウェンディは苦笑いを浮かべつつ小さなバスケットを差し出す。
 ヴァンは手網から片手を離すと、馬車の速度を少し落としつつクラッカーを手にして口に運ぶ。

「そう言えばね、ヴァン。さっき馬車の中でナミアと話してたんだけど、アヌジュの森がある地域の事をあまり知らないなって思って。ヴァンはこの地域の事って知ってる?」
「アヌジュの森があるのって確か……未開の地だと言われているタール地方だよな?」
「ええ、そうなの」
「タール地方に関する文献は騎士隊でも殆ど見た事が無いな……。今思えば、不思議なくらいあの地域については何の資料も無い……」
「そうなの……?」
「ああ。騎士隊でも、あの地域の詳細地図は見た事が無い……。一般隊員が閲覧不可能な場所に保管されている書庫には……確かあの地域の詳細が記載された地図は、……あったような気がする」
「……何か意図的に隠したいのかしら?」
「だが、あの部分は未開の地だぞ? 何を隠したいって言うんだ?」

 二人は暫くうんうんと頭を悩まし、考え続けたが、その答えには辿り着く事はできずに時間だけが過ぎていった。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

侯爵家を守るのは・・・

透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。 母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。 最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています

春野オカリナ
恋愛
 エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。  社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

処理中です...