「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

50話

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◇◆◇

 ハーツラビュル伯爵邸。

 ウェンディは、自室に戻り旅支度をしていた。
 メイドのナミアに旅支度の手伝いを頼みながら、持って行く物を鞄に詰めて行く。

「お嬢様、アヌジュの森にはぜひ私も連れて行ってくださいましね。森には危険な獣や、魔物が住んでいると聞いております。ヴァン様がご一緒なので、心配は無いとは思いますが、私もお嬢様の傍で、お嬢様をお守りいたします」
「ナミア……。ありがとう。でも、危険かもしれないのに、本当に良いの?」
「お嬢様に危険が及ばぬようにお守りするのが、私の本望でございます!」

 ぐっと胸を張って答えるナミアに、ウェンディは笑みを浮かべる。

「ありがとう、ナミア。その気持ちがとても嬉しいわ。一緒にアヌジュの森に行きましょう」
「はい!」 

 にこにこと元気良く答えるナミア。
 二人で手際良く支度をしていると、ウェンディの部屋の扉がノックされた。

「ウェンディ、俺だ」
「ヴァン? どうぞ、入って」

 ウェンディが答えると、旅支度の準備を終えたヴァンが小さな手荷物を肩から下げて部屋に入ってくる。

「騎士隊にも休暇の申請は済んだ。十日程の休暇が取れたから、向こうに着いて十分その人物を探す時間はありそうだ」
「──本当!? わざわざ休暇を取ってくれてありがとう、ヴァン。私の方も、もうすぐ支度が終わるわ。支度が終わったら、すぐに出ましょう?」
「ああ、そうしよう。俺は馬車を確認してくるよ」
「ええ、ありがとう」

 手を上げて去って行くヴァンを見送ったウェンディは、急いで支度に取りかかった。




 ウェンディより先に旅支度が終わったヴァンは、馬車の確認のため、先に邸の外にやって来ていた。
 玄関の前に到着していた馬車の車輪や、室内を隈なく確認する。

「ウェンディが暫くここで過ごすんだ……。快適に過ごしてもらわないとな……」

 車輪の不備は無い。
 室内にも、問題は無い。

「これなら、長旅も大丈夫そうだな」



 ヴァンが馬車を確認している姿を、伯爵邸の外からじいっと見つめる影があった。
 その影は、格子を掴み、ぎりっと奥歯を噛み締める。

「あの男……。どうして急に馬車の確認を……」

 フォスターは、ヴァンの行動の意図が分からず、首を傾げる。
 そうこうしていると、邸の玄関扉が開き、そこからウェンディが出てくるのが視界に入った。

「──ウェンディ様!」

 フォスターの顔が、ぱっと輝く。
 だが、フォスターの視界の先で、ウェンディはヴァンの手を借りて馬車に乗り込み、あっという間に姿が見えなくなってしまった。

 そして、ウェンディの後に続いてもう一人。
 メイドが馬車に乗り込むのが見える。

「あれは、確かウェンディ様付きのメイド……? 名は、確かナミアだったはず?」

 どうして二人が馬車に? とフォスターが首を傾げていると、ヴァンが御者台に移動して馬車を走らせた。

「──っ! どこかへ行くつもりか!?」

 フォスターは慌てて自分が乗ってきた馬の傍に行くと、飛び乗った。
 
 走り出す馬車を追いかけていたフォスターは、向かいからやってくる馬車に首を傾げる。

「あの馬車の家紋──ホプリエル侯爵家の馬車か……? エルローディア様でも馬車に乗って……?」

 ヴァンの伯爵家に、何の用があると言うのだろう。
 少し気にはなったが、フォスターはウェンディが乗っている馬車を追いかける方を優先して、そのまま追いかける。

 すれ違ったホプリエル侯爵家の馬車は、そのまま真っ直ぐヴァンのハーツラビュル伯爵家へ向かって行くのが見えた。

「そこに居るのはフォスター……!? フォスターなの!?」
「──エルローディア様っ!?」

 向かいからやってくる馬車の窓から顔を出したエルローディアの姿に、フォスターは握っていた手網を引いて馬の脚を止めた。

 エルローディアの馬車に近付いて行き、窓から顔を出した彼女に声をかける。

「エルローディア様がなぜ後続の馬車に……? では、あちらの馬車に乗っていたのは……?」

 まさか、ウェンディの両親なのだろうか。
 だが、侯爵と侯爵夫人が何の用があって伯爵家に、と首を傾げるフォスターの胸元をぐいっと引っ張ったエルローディアは、必死の形相で口を開けた。

「お義姉様は……! お義姉様はあの邸に!? フォスター、急いでお義父様とお義母様を止めて! 私、このままでは無理矢理結婚させられてしまうの……っ」
「結婚……、エルローディア様が……? それは、おめでとうございます。喜ばしい事ではありませんか」

 フォスターはにこやかな笑顔をエルローディアに向けると、祝いの言葉を贈る。
 自分は、ウェンディと専属護衛騎士契約を結び直す。だから、エルローディアがどうなろうとフォスターにはもう、どうでも良かった。

「何ですって!? どこが喜ばしいのよ! 私があんな女好きと結婚するなんて認められないわ! それにフォスター、あなたも役立ずだと言われて侯爵家の騎士をクビになるわ! ざまぁないわね!」
「──私がクビになるはずがないでしょう。……私はウェンディ様と再び契約を結び直す。そして、ウェンディ様と結婚をするのだから」
「はっ! おめでたいわね! お義姉様と契約したのはヴァンよ! フォスター、あなたはもう侯爵家には居られないのよ!」
「そ、そんなはずは無い! 私はこの国随一の騎士で──」
「たかだかあんな犯人に無様にやられたくせに、何を夢見ているの!? あんたの地位なんてもう、ヴァンより下よ!」
「──っ、ウェンディ様、ウェンディ様に会いに行かねば……っ!」
「あっ、ちょっと──! 御者、フォスターを追いなさい!!」

 言い争いをしていた二人だったが、エルローディアの言葉を聞いたフォスターは慌てふためき、ウェンディを追いかけるために馬の腹を蹴った。

 走り出してしまったフォスターの馬を追いかけるよう、エルローディアは御者に叫んだのだった。
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