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一章
58話
しおりを挟む「ヒュフースト様。もう少し色々と契約魔法について、魔法についてをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ウェンディの目は、期待に満ちてキラキラと輝いている。
知らなかった事を知れるのは。
知識を得る事は。
探究心を満たせるのは、とても楽しいし、嬉しい。
ウェンディの後に、ヴァンもヒュフーストに向かって頭を下げ、口を開いた。
「私からも、お願いします。……ヒュフースト様の話は、とても勉強になります。私は、主になってくれたウェンディをこれからも守り続けたい。魔法に関して、知識を授けていただけると嬉しいです」
ヴァンの真摯な態度と、ウェンディのキラキラと輝いた目。
二人に「嘘」は一つも見当たらない。
ヒュフーストは満足そうに、本当に嬉しそうに笑い、頷いた。
「ああ、いいだろう。だが──」
途中で言葉を切ったヒュフーストは、フォスターとエルローディアを細めた、冷たい目で見やる。
冷たい視線を受けたフォスターはぐっと言葉に詰まり、エルローディアは怯えたように体を硬直させた。
「あのような心根の腐った人間に、私の話を聞く資格は無い。先に休んでいてもらおう」
「ちょ、ちょっとお待ちを──」
「んぐーっ! ふごごっ!」
ヒュフーストが言葉を言い切った瞬間。
フォスターとエルローディアは声を上げていたが、一瞬にして跡形もなく二人の姿が消えた。
「──えっ」
「消えた……?」
「あ、あの二人はどこに──」
まさか──。と、ウェンディが顔色を悪くさせると、ヒュフーストはひょいと肩を竦めてなんて事のないように答える。
「あの男の方がいちいちうるさくてかなわん。だから客間に移動させた」
「移動、そうだったのですね……」
移動させただけ、と聞いてウェンディはほっとしたが、その言葉を聞いたヴァンの顔色は悪いままだ。
「移動……そんな魔法まで、あるんですね」
「言っただろう? 魔法に限界など、無いと。四百年前は、人間でも転移魔法を使える奴だって居た。年月の経過と共に、多少なりとも魔法の腕が衰えるのは仕方の無い事だとは思うが……お前達が発動する魔法はどうしてそんなに脆弱になった?」
不思議そうに首を傾げるヒュフースト。
ヴァンはふるふると首を横に振って答える。
「私にも、何故かは分かりません。ただ、私たちが生まれてから、魔法について学ぶ際は詠唱が必要な事。それと、魔法は必ず可視化出来るものでないと、発動しない、と教えられています」
「可視化、か……」
「はい。なので、炎や氷、雷や水など……私たちは物理的に目に見える魔法しか使う事はできない、と教えられています」
「……なるほどな。だからこそ、転移魔法や生活を補助する補助魔法は発動出来ぬ、と言う事か」
ヒュフーストは興味深い、と笑いながら足を組み直す。
「ならば、そもそも魔法の知識が今のお前達には殆ど受け継がれていない、と言う事だな。この数百年の間に何があってこのような事になっているのかは分からんが……今は面白い事になっているようだ」
クスクスと楽しげに笑うヒュフースト。
ウェンディとヴァンは、お互い顔を見合わせて首を傾げた。
何がヒュフーストの興味をそこまで引いたのかは分からないが、魔法について、契約魔法について色々と教えてもらえるのは、とても助かる。
ヒュフーストはゆったりとソファに座ったまま、ウェンディとヴァンに向かって口を開いた。
「そもそも、どうして魔法などと言う不可思議な現象を起こす事ができる? 人間は、魔法が身近にあり過ぎて魔法があって当然と思っているが──。魔法はその土地に宿る精霊のお陰だ」
「精、霊……?」
ウェンディとヴァンの呆気に取られた顔を見て、ヒュフーストは内心で舌打ちをした。
「精霊の存在すら、忘れられているのか……」
ヒュフーストはウェンディを見て、目を細める。
(これだけ精霊の加護を強く受けている人間も、珍しいのにな……。精霊は純粋な人間を好む。ウェンディは純粋故、あの嘘だらけの人間に搾取され続けたと言う事か)
納得したように頷いたヒュフーストは、ウェンディとヴァンに向かって口を開く。
「精霊は、大地に宿る。この大陸には、精霊が多いからこそ、魔法と言う不可思議な力を使えるのだ。……精霊の宿らぬ大陸には、我々が当然のように使っている魔法は無い」
「──っ!? 魔法がない大陸もあるのですか!?」
「ああ、世界は広いだろう。精霊が嫌う、宿らぬ土地だって当然ある」
だが、とヒュフーストは胸中でごちる。
(魔法がないだけで、似たような力はあるがな。……だが、奴らの存在は知らさなくとも良いだろう。混乱を招くだけだ)
「精霊……その、精霊が私たちの国がある大陸には沢山いるのですね。だから、私たちは精霊のお陰で魔法を……」
「魔法そのものについて、なんて考えた事も無かった……」
呆気に取られた様子のウェンディとヴァンに、ヒュフーストは苦笑を浮かべる。
純粋な人間だ。
互いに信頼し合い、その気持ちが日々増しているのが、ヒュフーストには視える。
こんな風に他者を想い合える人間は好きだ。
助け合う事が出来るウェンディやヴァンのような人間は好きなのだ。
ヒュフーストは、まだまだ勉強の時間が二人には必要だな、と楽しげに笑った。
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