57 / 84
一章
57話
しおりを挟むあまりにもあっさりとしたヒュフーストの返答に、フォスターは呆気に取られた。
そんなフォスターを気にする事なく、ヒュフーストは続ける。
「私が創った契約魔法は、相手に対する信頼や……情、誠実さに大きく左右される。相手からの気持ちが大きければ、己の力は強く。相手からの気持ちが無ければ効果は無い」
ヒュフーストの言葉に、ウェンディは「待ってください」と口を開いた。
「ヒュフースト様の魔法は、契約が上手く結ばれ、互いに信頼関係があれば……情があれば、契約相手に力を与える、と言う認識で合っていますか?」
「ああ、概ねその通りだな」
「な、ならばっ! どうして、どうして私の成長は長年止まり……魔力も……、魔法の腕も落ちたのか……。先程ヒュフースト様はフォスターが裏切ったから、と仰いましたが相手から裏切られると──」
「ああ。この魔法は契約魔法だからな。契約を結んだ両者の間に裏切りがあれば、裏切られた相手の魔力も、能力も落ちる。……片方の情が減れば減る程に、な」
ヒュフーストの言葉に、ウェンディは唖然とした。
ならば。
「私の……成長が止まっていたのも、魔力や能力が落ち続けていたのも……っ」
「ああ。その男がウェンディを裏切っていたからだろう。明白だ」
ヒュフーストが告げた瞬間、ウェンディはフォスターを睨み付ける。
ウェンディの瞳は、強い怒りが込められ、瞳には溢れんばかりの涙が溜まっている。
「本当にっ、全部……! 全部フォスターのせいだったのですね!!」
「ウ、ウェンディ様っ、ちがっ、私は──っ」
「黙りなさい、フォスター!! この数年っ、数年もの間、あなたはずっと私を裏切り続けていたのね! 六年前から異変は始まっていたのよ、それほど前から、あなたは私を裏切り、エルローディアに好意を抱いていたのね!?」
ウェンディの言葉に、フォスターの体がぎくりと強ばり、顔が青白く変わる。
「ち、違うんですウェンディ様! わっ、私は騙されたのです! エルローディア様がっ、エルローディア様が私を誘惑したのです、私はあなたを裏切るつもりなど──」
「んぐーっ! むぐぐっ!」
フォスターは、あろう事か悪いのはエルローディアだ、と言い訳を始める。
その言葉を聞いたエルローディアは、激昂するように呻き、拘束された体をばたばたと暴れさせる。
だが、ヒュフーストは彼ら二人の拘束魔法を解く事はない。
フォスターとエルローディアは、同じソファで縛られたまま、フォスターは全てエルローディアのせいにしようとし。
エルローディアはフォスターを傷つけようと暴れる。
その光景を見ていたヒュフーストは、不愉快そうに顔を顰めた。
「醜い……。これだから人間は嫌なんだ。簡単に他者を裏切り、欺き、騙す。自分の事しか考えず、傲慢で、愚かで……救いようがない」
「……っ、仰る、通りです……耳が痛い限り、です……」
ウェンディは恥ずかしくて恥ずかしくて、謝罪する事しかできない。
ヒュフーストの言葉は尤もだ。
何一つとして間違っていない。
だが、ウェンディが申し訳なく恥じ入っていると、ふと瞳を優しく細めたヒュフーストはウェンディとヴァン。二人を交互に見やってから、口を開く。
「……だが、こうして久しぶりに真に心からお互いを思う人間を見た。ウェンディとヴァン、お前達二人は最近契約魔法を成立させただろう? その年齢で契約を成立させられる人は、少ないからな……。しかも……契約状況も上位……、いや、最上級だ」
「──えっ」
「最上級の契約成立は、私がこの魔法を王族に渡すようになって四百年ほどだが……ここ二百年ほどは見ていない」
喜ばしい事だ。
人間も捨てたものじゃないな、と嬉しそうに頷くヒュフーストに、ウェンディもヴァンも、何が何やら、といった状況だ。
契約状況?
上位、とは。最上級、とは──。
その他にも、色々と気になる単語が出てきている。
ウェンディはちらり、とヴァンに顔を向け、引きつった笑みを浮かべて口を開いた。
「ヴァン……本当に私たちは専属護衛騎士契約について、何も知らないのね……」
「ああ……無知は罪だ、と痛感した」
2,338
あなたにおすすめの小説
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚
里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」
なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。
アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
侯爵家を守るのは・・・
透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。
母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。
最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています
春野オカリナ
恋愛
エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。
社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる