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一章
59話
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その日の夜。
ウェンディとヴァン、そしてナミアはそれぞれ客室に案内された。
ヒュフーストの話を聞いている間にすっかりと深夜になってしまい、軽く夕食を振る舞われた三人は、そのままヒュフーストの邸に一泊する事になった。
そして、夕食とお風呂を終えたウェンディが与えられた客室で過ごしていると、ナミアとヴァンがやって来た。
「ウェンディ、まだ起きてたか。良かった」
「お嬢様、温かいハーブティーをご用意しました。お飲みになりませんか?」
二人は、どこかそわそわとした様子だ。
だがウェンディ自身も落ち着かず、そわそわと部屋の中を意味もなく歩き回っていたから二人の気持ちは痛いほど良く分かった。
「ヴァンも、ナミアもいらっしゃい。入って」
今は誰かと一緒にいて、ヒュフーストから聞かされた話について、話し合いたい──。
そんな気持ちが強く、ウェンディは笑顔で二人を招き入れた。
もう、眠るだけからか。
ヴァンもナミアも簡素な寝巻きに着替えていて、ナミアは肩から軽くショールを羽織っている。
ウェンディもナミアと同じような格好で、三人は部屋に設置されているテーブルと椅子に腰掛けて、ナミアが用意してくれたハーブティーに口をつけた。
「──まだ、頭の中が混乱しているみたいだ」
ヴァンがはは、と苦笑混じりに呟く。
「ええ、そうね。私もヴァンと同じように頭の中がぐちゃぐちゃ。ヒュフースト様から教えてもらった話は、全部初耳だから……」
「私も、びっくりしました。まさか、魔法には精霊の力が必要だったり……契約魔法には情が深く関わっていたり……」
「……ええ。あの頃は、どんなに冷たくされても、私はフォスターを好きだったから。だから彼の力は上がり続けて……反対に、フォスターはエルローディアに気持ちが移ってたから私の力はどんどん下降していった……」
「人の情に魔法が反応するなんて……本当にヒュフースト様が創った契約魔法は凄いんだな」
「ええ。それに、契約魔法を、実は全て王家が管理していたなんてね……」
ヒュフーストから知らされた事実に、ウェンディもヴァンも、ナミアも自分の耳を疑ったくらいだ。
「裏を返せば、私たちは今まで本当に魔法について何も知ろうとしなかったし、無知だった……って事よね。恥ずかしいわ」
「だが、ウェンディはこうして魔法を知ろうと、契約魔法について知ろうと行動したじゃないか。ヒュフースト様だってここに来る人間は久しぶりだって言ってた。ウェンディがちゃんと自分で考えて行動したこそ、この結果がある」
ヴァンの言葉に、ウェンディは嬉しそうに笑う。
「──もう、ヴァンは昔から私の事をすぐに褒めて認めてくれるから、甘やかさないで」
「俺は本当の事しかウェンディに言わないからな?ただ思った事を口に出してるだけだ」
ひょい、と肩を竦めて答えるヴァンに、ウェンディは嬉しそうにはにかむ。
そんな二人の仲睦まじい様子を見たナミアは、眩しい物をみるように目を細め、追加のハーブティーをカップに注ぎ、口を開いた。
「あらあら、お二人のお邪魔をしてはいけませんね。お嬢様、ヴァン様。私はそろそろお暇しますね」
「ナ、ナミア!」
「ナミア、揶揄うのはよしてくれ……」
ウェンディは薄っすらと頬を染め、ヴァンは恥ずかしそうな顔をしている。
ナミアはふふふ、と楽しそうに笑い声を漏らすと、椅子から立ち上がった。
「それではお嬢様、ヴァン様。失礼しますね。あまり夜更かしせずにお早めにお休みくださいまし」
「もう。分かったわ、ナミア。お休みなさい」
「ナミア、お休み」
ウェンディとヴァンから見送られたナミアは、ウェンディの部屋から退出する。
気分良く鼻歌すら歌いそうになりながら、ナミアは自分の部屋に戻った。
ウェンディとヴァン、二人は少し気恥しい雰囲気に、お互い目を逸らしつつハーブティーに口をつける。
ふわり、と鼻腔を擽るハーブのいい匂いに、ウェンディはほっと息を吐き出しつつ、ヴァンに顔を向けた。
ヴァンも紅茶のカップに口を付けていたようで、ウェンディの視線に気がついて、不思議そうに首を傾げた。
ウェンディはさっと視線を逸らし、こほんと一つ咳払いをしてから口を開いた。
「な、何でも無いわ……。その、明日ヒュフースト様に手伝ってもらって、ハーツラビュル伯爵邸に戻る予定じゃない? ヒュフースト様は、これからどうするつもりなのかしら……?」
「そうだな……。暫く王都に滞在する、と言っていたが……ヒュフースト様は何となく……王族に会いに行くような気がする」
「王族、に……?」
「ああ。契約魔法はヒュフースト様が創っていると言っただろう? 何かを確認するつもりじゃないか?」
「そうなのね……だから私たちと一緒に行くと仰ったのね」
「ああ。伯爵邸に滞在しては、とお誘いしたが……残念ながら断られてしまったな」
「ええ。でも、いつでも会いに来ていいと仰って下さったし、王都に戻ってもヒュフースト様とお話する機会は沢山ありそうで嬉しいわ」
ヒュフーストと話すのは、とても楽しい。
知らなかった事を知るのはとても楽しいし勉強になるのだ。
「ウェンディが嬉しそうなのは、俺も嬉しい。だけど、ウェンディは色々と無理をしがちだから、無理だけはしないようにな?」
「ふふっ、分かったわヴァン。ありがとう」
ヴァンは愛おしげにウェンディを見つめたあと、優しくウェンディの頭を撫でた。
「さて……そろそろ俺も部屋に戻るよ。ウェンディも早めに寝てくれ」
「うん、そうする。ヴァン、お休みなさい」
「ああ、おやすみウェンディ」
部屋を出て行くヴァンを見送ったウェンディは、彼が出て行ったあと、自分も寝ようとベッドに入った。
パタン、と扉が開く音が微かに聞こえた。
(──? なに……、ナミア? それとも、ヴァン……?)
床を歩く靴音が聞こえ、ウェンディが眠るベッドに足音が近付いてくる。
もう、朝なのだろうか。
だけどまだ外は明るくなっていない気がする──。
ウェンディはころん、とベッドの上で寝返りを打ち、眠気に逆らいながら呟いた。
「──んん、ナミア……? それとも、ヴァン……?」
むにゃむにゃとした口調のウェンディ。
ウェンディが発した言葉に、足音は一瞬だけ止まった。
だが、再びウェンディのベッドに近付き、誰かが乗り上げたのが振動で分かった。
「──ウェンディ様……」
うっとりとした、甘ったるいフォスターの声。
その声を聞いた瞬間、ウェンディの全身に鳥肌が立ち、一瞬で目が覚めた。
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