6 / 47
第1章
食事は大切です
しおりを挟む
(やばっ!完全に寝落ちしてた!!)
ふと意識が浮上して佑那は暗闇の中で目を開いた。緊張がゆるんだとはいえ、身の安全が保障されていないのに完全に熟睡していたことを反省する。身体を起こそうとしたとき、ぐいと背中を押され顔に何かが当たった。
(え、あれ。ベッドの上には何もなかったはずなのに……って、これってもしかして!)
恐々と顔をあげると魔王と目があって悲鳴を上げそうになった。慌てて顔を伏せるが、心臓が全力疾走した後のように、激しく脈打っている。
(何でいるの?!しかもめちゃくちゃ監視されてたんだけど、怖っ、怖すぎる!!)
しかも先ほど顔に押し当てられたのは魔王の胸元辺りで、暗闇だと思ったのは黒いシャツだった。まるで添い寝をするような近い距離感に少しでも離れようともがくが、片腕で腰を抱え込まれてびくともしない。
「――あの……逃げませんから、離してください」
「駄目だ」
そっけなく却下され、腰に回された腕に力が込められる。その結果、密着する割合が増えて佑那はますますパニックに陥り、必死でもがいた。
(いーやーだー!何で?距離感バグり過ぎじゃない?!私は抱き枕じゃないんだよ!)
暫くの間奮闘したものの、抵抗すればするほど抱き寄せられることに気づいて佑那は仕方なく力を抜いた。力では敵わないし、とりあえずこれ以上何かされるわけでもなさそうだと半ば自棄になった結果でもある。それでものんきに眠れるわけもなく、佑那は息を殺しながら早くこの状態から解放されることを願った。
どれくらい時間が経っただろうか。チリンと軽やかな風鈴のような音が聞こえて、佑那を抱きしめていた力がようやくゆるんだ。ベッドから起き上がった魔王が部屋から出て行き、安堵の息が漏れる。
ほっとしたのも束の間、すぐに昨夜アーベルと呼ばれていた男性が入ってきた。
「準備が整ったらすぐに来なさい」
彼は佑那の前に着替えを置くと、すぐに部屋から出て行った。冷たい眼差しと乾いた口調に歓迎されていないことが分かる。
(好きで来たわけじゃないし、不愉快ならさっさと解放するよう伝えてくれないかな)
嫌悪感を示されて心がちくりと痛む。元々敵対関係にあるのに今はさらに関係が良くないのだから、ここにいる限りそんな視線に晒されるのは覚悟しなければならない。魔王からはそんな悪意を感じていないが、いつどう態度が変わるか分からないのだ。なるべく逆らわないようにしようと決めた。
渡された袋を開けると、一目で高級と分かる光沢のあるシルクのドレスを始め、靴や宝石をあしらった装飾品などが一式入っていた。お城でも当初貴族の娘が着るようなドレスが用意されたが、着替えに侍女が必要なことに抵抗があり、何よりも動きやすさを重視して城内を歩いても見咎められない程度のカジュアルなものを準備してもらっていた。
与えられた衣服は幸い一人でも着脱できそうなものであることに安堵する。人質だが粗雑に扱うつもりはないのかもしれないと少しだけ前向きな気分になった佑那は急いで着替えに取り掛かった。
寝室から出れば食事の用意が整っていた。テーブルの上には、パン、チーズ、ハム、オムレツ、様々な果物などが並べられている。アーベルは佑那の分のお茶を注ぐと、一礼し部屋から出て行った。
正面を見ると魔王は無表情でパンを口に運んでいる。
(お茶を淹れてくれたぐらいだから、食べてもいいということなんだろうけど……)
向かい合って食事を摂るのは不敬に当たらないのだろうか、見た限りは普通の食事と変わらないが、魔物と同じ物を食べても問題ないのだろうかなどの疑問が湧いて、手を付ける気になれない。
代わりに佑那は勇気を振り絞って、魔王に声を掛けた。
「あの、お伺いしたいことがあるのですが、今お話ししてもよろしいですか?」
魔王はわずかに眉を上げたが、無言で小さくうなずく。
「ここはどこですか」
「我の城だ」
それは何となく分かっていた、というかそれ以外の場所だったらびっくりする。ここがどの辺りか知りたかったのだけれど、聞いてはいけないことだったのだろうか。防衛上の理由でわざとはぐらかされてしまったのかもしれない。
気を取り直して佑那は再度質問を開始する。
「どうして私を攫ったのですか?」
「……そこにそなたがいたからだ」
(えっと、……禅問答かな?)
本人は至って真面目に答えているように見えるが、意味が分からなかった。哲学的な回答は求めていないのだが、あまりしつこく尋ねて機嫌を損ねてはいけない。
既に心が折れそうだったが、今後の自分の処遇にも関わってくるのでもう少しだけ頑張ろうと背筋を伸ばす。
「昨夜、城にしん…、お越しになった目的は何ですか?」
事実だとしてもさすがに本人に向かって侵入者呼ばわりは良くない気がする。
「…ただの気まぐれだ」
魔王はふいと顔をそむけて答える。不快な質問だったのだろうか。
「それでは……」
「姫、食事を」
さらに質問を重ねようとするが、魔王の言葉に口をつぐむ。少し踏み込み過ぎたのかもしれないと反省しながら、佑那はパンを手に取り先ほどの回答を思い返していた。
(魔王の言葉を信じるなら気まぐれで城に侵入して……あ、このパン美味しい!ちょっぴり酸味があって一緒に入っているドライフルーツと良く合うなあ……って違う。えっと気まぐれで姫を攫ったことに……わあ、まろやかな甘みがあるのに後味がすっきりしていて紅茶に似ているけどこれは……ってもう!)
真面目に考えようとしているのに、食べ物を口にするとそちらに思考がずれていくことを自覚した佑那は一旦食事に集中することにした。
なるべく表情を出さないようにしていたつもりの佑那だったが、新しい料理を口にするたびに目が輝き、自然と口元が緩んでいる。そしてその様子を魔王がそっと観察していることに、佑那が気づくことはなかった。
ふと意識が浮上して佑那は暗闇の中で目を開いた。緊張がゆるんだとはいえ、身の安全が保障されていないのに完全に熟睡していたことを反省する。身体を起こそうとしたとき、ぐいと背中を押され顔に何かが当たった。
(え、あれ。ベッドの上には何もなかったはずなのに……って、これってもしかして!)
恐々と顔をあげると魔王と目があって悲鳴を上げそうになった。慌てて顔を伏せるが、心臓が全力疾走した後のように、激しく脈打っている。
(何でいるの?!しかもめちゃくちゃ監視されてたんだけど、怖っ、怖すぎる!!)
しかも先ほど顔に押し当てられたのは魔王の胸元辺りで、暗闇だと思ったのは黒いシャツだった。まるで添い寝をするような近い距離感に少しでも離れようともがくが、片腕で腰を抱え込まれてびくともしない。
「――あの……逃げませんから、離してください」
「駄目だ」
そっけなく却下され、腰に回された腕に力が込められる。その結果、密着する割合が増えて佑那はますますパニックに陥り、必死でもがいた。
(いーやーだー!何で?距離感バグり過ぎじゃない?!私は抱き枕じゃないんだよ!)
暫くの間奮闘したものの、抵抗すればするほど抱き寄せられることに気づいて佑那は仕方なく力を抜いた。力では敵わないし、とりあえずこれ以上何かされるわけでもなさそうだと半ば自棄になった結果でもある。それでものんきに眠れるわけもなく、佑那は息を殺しながら早くこの状態から解放されることを願った。
どれくらい時間が経っただろうか。チリンと軽やかな風鈴のような音が聞こえて、佑那を抱きしめていた力がようやくゆるんだ。ベッドから起き上がった魔王が部屋から出て行き、安堵の息が漏れる。
ほっとしたのも束の間、すぐに昨夜アーベルと呼ばれていた男性が入ってきた。
「準備が整ったらすぐに来なさい」
彼は佑那の前に着替えを置くと、すぐに部屋から出て行った。冷たい眼差しと乾いた口調に歓迎されていないことが分かる。
(好きで来たわけじゃないし、不愉快ならさっさと解放するよう伝えてくれないかな)
嫌悪感を示されて心がちくりと痛む。元々敵対関係にあるのに今はさらに関係が良くないのだから、ここにいる限りそんな視線に晒されるのは覚悟しなければならない。魔王からはそんな悪意を感じていないが、いつどう態度が変わるか分からないのだ。なるべく逆らわないようにしようと決めた。
渡された袋を開けると、一目で高級と分かる光沢のあるシルクのドレスを始め、靴や宝石をあしらった装飾品などが一式入っていた。お城でも当初貴族の娘が着るようなドレスが用意されたが、着替えに侍女が必要なことに抵抗があり、何よりも動きやすさを重視して城内を歩いても見咎められない程度のカジュアルなものを準備してもらっていた。
与えられた衣服は幸い一人でも着脱できそうなものであることに安堵する。人質だが粗雑に扱うつもりはないのかもしれないと少しだけ前向きな気分になった佑那は急いで着替えに取り掛かった。
寝室から出れば食事の用意が整っていた。テーブルの上には、パン、チーズ、ハム、オムレツ、様々な果物などが並べられている。アーベルは佑那の分のお茶を注ぐと、一礼し部屋から出て行った。
正面を見ると魔王は無表情でパンを口に運んでいる。
(お茶を淹れてくれたぐらいだから、食べてもいいということなんだろうけど……)
向かい合って食事を摂るのは不敬に当たらないのだろうか、見た限りは普通の食事と変わらないが、魔物と同じ物を食べても問題ないのだろうかなどの疑問が湧いて、手を付ける気になれない。
代わりに佑那は勇気を振り絞って、魔王に声を掛けた。
「あの、お伺いしたいことがあるのですが、今お話ししてもよろしいですか?」
魔王はわずかに眉を上げたが、無言で小さくうなずく。
「ここはどこですか」
「我の城だ」
それは何となく分かっていた、というかそれ以外の場所だったらびっくりする。ここがどの辺りか知りたかったのだけれど、聞いてはいけないことだったのだろうか。防衛上の理由でわざとはぐらかされてしまったのかもしれない。
気を取り直して佑那は再度質問を開始する。
「どうして私を攫ったのですか?」
「……そこにそなたがいたからだ」
(えっと、……禅問答かな?)
本人は至って真面目に答えているように見えるが、意味が分からなかった。哲学的な回答は求めていないのだが、あまりしつこく尋ねて機嫌を損ねてはいけない。
既に心が折れそうだったが、今後の自分の処遇にも関わってくるのでもう少しだけ頑張ろうと背筋を伸ばす。
「昨夜、城にしん…、お越しになった目的は何ですか?」
事実だとしてもさすがに本人に向かって侵入者呼ばわりは良くない気がする。
「…ただの気まぐれだ」
魔王はふいと顔をそむけて答える。不快な質問だったのだろうか。
「それでは……」
「姫、食事を」
さらに質問を重ねようとするが、魔王の言葉に口をつぐむ。少し踏み込み過ぎたのかもしれないと反省しながら、佑那はパンを手に取り先ほどの回答を思い返していた。
(魔王の言葉を信じるなら気まぐれで城に侵入して……あ、このパン美味しい!ちょっぴり酸味があって一緒に入っているドライフルーツと良く合うなあ……って違う。えっと気まぐれで姫を攫ったことに……わあ、まろやかな甘みがあるのに後味がすっきりしていて紅茶に似ているけどこれは……ってもう!)
真面目に考えようとしているのに、食べ物を口にするとそちらに思考がずれていくことを自覚した佑那は一旦食事に集中することにした。
なるべく表情を出さないようにしていたつもりの佑那だったが、新しい料理を口にするたびに目が輝き、自然と口元が緩んでいる。そしてその様子を魔王がそっと観察していることに、佑那が気づくことはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる