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第1章
その重さは想定外です
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しばらく書庫と部屋を往復する日が続いた。まとめて借りられればよいのだが、何故か一度につき一冊しか貸してもらえない。まだ完全にこちらの言語を理解できていないので読むペースはかなり遅いのだが、他に自由を与えられていない佑那ができることは、お茶を飲みながらミアと雑談することぐらいだ。
はじめはミアもだいぶ打ち解けて一緒に話をしてくれるようになった。好きなお茶やお菓子のことなど他愛のない話ができることが、今の佑那にはとても貴重で心が落ち着く時間だった。
そんなミアも魔王と接するときにはとても緊張するらしく、ほとんど口を開かず仕事に徹している。お茶の時間に魔王は部屋に戻ってくるのだが、お菓子はもちろんお茶にもほとんど手を付けない。佑那が菓子を食べ終えるとまた出ていく、という謎の行動を繰り返している。
今日もまた魔王が出て行き、ミア同時にほっと息をついたときには顔を見合わせて笑ってしまった。その雰囲気から佑那は以前から気になっていたことを訊ねてみることにした。
「ミア、過去に魔王が他の姫君を攫ってきたことはあったのかしら?」
驚いたような表情を浮かべたミアに慌てて言葉を付け加える。
「ごめんね。もし答えられないようなことだったら、大丈夫だよ。今の質問は気にしないで」
「いえ、姫様。そうではありません。姫様は特別だと思います。陛下が人間を連れて帰ったという話は今まで聞いたことがありませんから」
勢いこむようにミアが答える。
そう言われても特別扱いされる理由に心当たりはない。フィラルド国の王女は魔王にとって何か特別の意味を持つのだろうか。思わず首を傾げた佑那にミアは更に言葉を重ねる。
「私から見ても姫様は特別です。陛下に対しても私に対しても当たり前のように接してくれます」
「え、どういうこと?」
「他の人間は、私たち魔物に対して嫌悪や恐れの感情を示して、こんな風に気軽に話すことはできません。でも姫様は人とか魔物とか区別していませんよね。魔物と人間同士では普通あり得ないです」
それはたぶん佑那の中で魔物のイメージが確立されていなかったからかもしれない。あとは勝手に連れてこられたとはいえ、魔王が自分に対して酷い扱いをしなかったことが大きいだろう。むしろ丁重すぎる扱いを受けていることに不安を覚え始めているぐらいだ。
「よくしてもらっているのに、そんなの失礼だよ。それにミアだって最初から親切にしてくれたじゃない」
いつもありがとう、と礼を告げるとそういうところが特別だと笑われる。
ミアからの言葉は嬉しかったが、連れてこられた理由は別にあるのだろう。会った途端に言葉を交わす間もなく連れてこられたのだから。
だがミアと話して閃いたものがあった。魔王が自分に求婚した意味も分からないと思っていたけど、魔物にとっての求婚はもしかして別の意味があるのかもしれない。そもそも通常の意味の結婚であれば、魔王は相手など選び放題だろう。
(無表情であることを除けば容姿端麗で、最強らしいし、アーベルやミアしか知らないが部下からは尊敬されているみたいだし?)
「ミアにとって結婚ってどういうものなの?」
今度はミアが首を傾げる。きょとんとした表情に意味が伝わっていないのかと補足する。
「人間と魔物では結婚に対する考え方が違うのかなと思って。そもそもそういう制度はあるの?」
「あ、そういうことですね。高位の魔物同士ですとか、利害が一致する場合には結婚することもありますが、あまり一般的ではありません。私たち魔物は通常単独を好みますし、陛下のような強い方の魔力に魅かれて結果的に一緒にいるということはありますけど」
「へえ、結婚自体が珍しいんだね。じゃあ好きな相手がいても結婚したりしないの?」
「人間は寿命も短いし、個として弱いから集団で暮らす傾向にあると聞いたことがあります。でも結婚は私たちにとってかなりの強制力を持った契約になりますから、生涯を共にするメリットがあまりない以上は滅多にしませんね」
そこでミアは一旦言葉を切ると恐る恐るという風に尋ねた。
「……姫様、もしかしてですけど……陛下に求婚されたなんてことは……?」
「え、いえ、もしかしたら勘違いというか、違う意味合いだったかもしれないし……」
混乱しつつも明言を避けようとした佑那にミアは真剣な様子で食いついてくる。いくら親しくなったとしても、ミアの主人は魔王なのだ。
ミアとの会話は他愛のない話に留めていたし、ミアもまたそれを察してくれているようだった。
「いつ、なんと言われたのですか?」
そんなミアが真剣な表情で迫る様子に圧倒されて、佑那が正直に伝えると絶句された。
「……それ、多分アーベル様もご存じないと思います。他の魔物には絶対に知られてはダメです!」
しばらくしてようやく口を開いたミアの言葉に佑那は不安を覚えた。
「そんなに、良くないことなの?」
「良くないというか、陛下がそんなに姫様に執着しておられると知られたら、姫様の身に危険が及ぶ可能性があります。陛下は確かにお強いですが、あまり周りに気を遣う方ではないので快く思ってない者もおります」
「でも、魔王自身が結婚というものをよく分かっていなくて、口にした可能性もあるでしょう?」
事態の重さを否定したくて、必死に反論した佑那だがミアはあっさり否定する。
「それはないと思います。私たちは誓いや約束には敏感ですから。魔力を行使することは言葉と密接な関連があるので、不用意な言葉を用いません。陛下の口数が少ないのも、そういった側面もあるかと思います」
二人の間に沈黙が下りる。
自分が想像している結婚とは意味合いが違うのかと思って尋ねたのに、藪蛇というか、聞かなきゃ良かったと思う。
(そんな大切な求婚を出会った翌日にするなんて、正直重すぎるわ!)
はじめはミアもだいぶ打ち解けて一緒に話をしてくれるようになった。好きなお茶やお菓子のことなど他愛のない話ができることが、今の佑那にはとても貴重で心が落ち着く時間だった。
そんなミアも魔王と接するときにはとても緊張するらしく、ほとんど口を開かず仕事に徹している。お茶の時間に魔王は部屋に戻ってくるのだが、お菓子はもちろんお茶にもほとんど手を付けない。佑那が菓子を食べ終えるとまた出ていく、という謎の行動を繰り返している。
今日もまた魔王が出て行き、ミア同時にほっと息をついたときには顔を見合わせて笑ってしまった。その雰囲気から佑那は以前から気になっていたことを訊ねてみることにした。
「ミア、過去に魔王が他の姫君を攫ってきたことはあったのかしら?」
驚いたような表情を浮かべたミアに慌てて言葉を付け加える。
「ごめんね。もし答えられないようなことだったら、大丈夫だよ。今の質問は気にしないで」
「いえ、姫様。そうではありません。姫様は特別だと思います。陛下が人間を連れて帰ったという話は今まで聞いたことがありませんから」
勢いこむようにミアが答える。
そう言われても特別扱いされる理由に心当たりはない。フィラルド国の王女は魔王にとって何か特別の意味を持つのだろうか。思わず首を傾げた佑那にミアは更に言葉を重ねる。
「私から見ても姫様は特別です。陛下に対しても私に対しても当たり前のように接してくれます」
「え、どういうこと?」
「他の人間は、私たち魔物に対して嫌悪や恐れの感情を示して、こんな風に気軽に話すことはできません。でも姫様は人とか魔物とか区別していませんよね。魔物と人間同士では普通あり得ないです」
それはたぶん佑那の中で魔物のイメージが確立されていなかったからかもしれない。あとは勝手に連れてこられたとはいえ、魔王が自分に対して酷い扱いをしなかったことが大きいだろう。むしろ丁重すぎる扱いを受けていることに不安を覚え始めているぐらいだ。
「よくしてもらっているのに、そんなの失礼だよ。それにミアだって最初から親切にしてくれたじゃない」
いつもありがとう、と礼を告げるとそういうところが特別だと笑われる。
ミアからの言葉は嬉しかったが、連れてこられた理由は別にあるのだろう。会った途端に言葉を交わす間もなく連れてこられたのだから。
だがミアと話して閃いたものがあった。魔王が自分に求婚した意味も分からないと思っていたけど、魔物にとっての求婚はもしかして別の意味があるのかもしれない。そもそも通常の意味の結婚であれば、魔王は相手など選び放題だろう。
(無表情であることを除けば容姿端麗で、最強らしいし、アーベルやミアしか知らないが部下からは尊敬されているみたいだし?)
「ミアにとって結婚ってどういうものなの?」
今度はミアが首を傾げる。きょとんとした表情に意味が伝わっていないのかと補足する。
「人間と魔物では結婚に対する考え方が違うのかなと思って。そもそもそういう制度はあるの?」
「あ、そういうことですね。高位の魔物同士ですとか、利害が一致する場合には結婚することもありますが、あまり一般的ではありません。私たち魔物は通常単独を好みますし、陛下のような強い方の魔力に魅かれて結果的に一緒にいるということはありますけど」
「へえ、結婚自体が珍しいんだね。じゃあ好きな相手がいても結婚したりしないの?」
「人間は寿命も短いし、個として弱いから集団で暮らす傾向にあると聞いたことがあります。でも結婚は私たちにとってかなりの強制力を持った契約になりますから、生涯を共にするメリットがあまりない以上は滅多にしませんね」
そこでミアは一旦言葉を切ると恐る恐るという風に尋ねた。
「……姫様、もしかしてですけど……陛下に求婚されたなんてことは……?」
「え、いえ、もしかしたら勘違いというか、違う意味合いだったかもしれないし……」
混乱しつつも明言を避けようとした佑那にミアは真剣な様子で食いついてくる。いくら親しくなったとしても、ミアの主人は魔王なのだ。
ミアとの会話は他愛のない話に留めていたし、ミアもまたそれを察してくれているようだった。
「いつ、なんと言われたのですか?」
そんなミアが真剣な表情で迫る様子に圧倒されて、佑那が正直に伝えると絶句された。
「……それ、多分アーベル様もご存じないと思います。他の魔物には絶対に知られてはダメです!」
しばらくしてようやく口を開いたミアの言葉に佑那は不安を覚えた。
「そんなに、良くないことなの?」
「良くないというか、陛下がそんなに姫様に執着しておられると知られたら、姫様の身に危険が及ぶ可能性があります。陛下は確かにお強いですが、あまり周りに気を遣う方ではないので快く思ってない者もおります」
「でも、魔王自身が結婚というものをよく分かっていなくて、口にした可能性もあるでしょう?」
事態の重さを否定したくて、必死に反論した佑那だがミアはあっさり否定する。
「それはないと思います。私たちは誓いや約束には敏感ですから。魔力を行使することは言葉と密接な関連があるので、不用意な言葉を用いません。陛下の口数が少ないのも、そういった側面もあるかと思います」
二人の間に沈黙が下りる。
自分が想像している結婚とは意味合いが違うのかと思って尋ねたのに、藪蛇というか、聞かなきゃ良かったと思う。
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