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第2章
自責の念
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「他に不調はないか?」
『大丈夫です』
泣き止んだユナに問うとすぐさまそんな言葉が返ってきた。
『心配かけてごめんなさい』
続けて付け足された文字にシュルツは黙って首をふり、隣に腰を下ろした。
「そなたは何も悪くない。もう謝るな。悪いのは全て我のほうだ」
『違う。シュルツのせいじゃない』
理不尽な思いをしたにもかかわらず、ユナは首を振り必死に否定する。シュルツは彼女の訴えに耳を傾けず、唯一の話し相手を奪った。不自由な生活を強いられているにも関わらず、自分に寄り添おうとしてくれたユナに酷い仕打ちをしてしまったとようやく気付いた。
「我のせいだ。そなたを失うのが怖かったから、あらゆる危険から遠ざけようとした。だがそれは我の自己満足に過ぎず、そなたを傷つけてしまった。ミアへの処罰は行き過ぎだった」
『シュルツが私を守ろうとしてくれただけ。でも、私のせいでミアに罰せられるのが辛くて、どうしていいか分からなくなってしまったの』
ユナは温かい手で指先を握ってくれる。そんな風に気遣ってくれる彼女の優しさが苦しくて、情けない言葉が漏れた。
「……無理はしなくて良い。……もう我のことは嫌いなのだろう」
『そんなことない!シュルツはもう私のこと嫌いになった?』
不安げにこちらを見つめてくる目にまた涙がたまっていく。
「ユナを嫌うなどあり得ぬ。……だがそなたは我の事を嫌いだと言っていたし、触れたときも耐えているように見えた」
『ひどいことを言ってごめんなさい。私の軽率な言動でみんなに迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい。声が出なくなったのはきっと罰だと思うの。シュルツが心配してくれているのも分かっていて、嫌な態度を取り続けたから、嫌われても仕方ないと思っていたのに』
文字からユナが抱えていた苦しさが伝わってきて、たまらず抱きしめる。ユナの言動はシュルツが頑なに彼女の訴えに耳を貸さなかったせいだ。
元凶は自分であるのにも関わらず、彼女は自分自身を責めて苦しんでいる。
(どうしたら伝わるのだろう)
何の言葉も見つけられないまま体を離すと、ユナは躊躇いがちにシュルツの頬に手を添え、唇を重ねた。
ユナからの口づけは二度目だ。一度目は彼女が気持ちを伝えるためにくれたものだった。嬉しいと思う一方で、信じてよいのかと不安な気持ちも強くなる。彼女が自分を愛しく想う理由など、何一つない。無理やり攫い傍において、彼女の気持ちを汲み取ることもなく大切な者を取り上げたのだ。
羞恥から俯いていたユナが顔を上げる前にシュルツはその身体を抱きしめた。真っ直ぐで純粋な彼女の瞳に醜い自分の姿を映したくなかったからだ。
また姫様の侍女をやらせてもらうことになった。エルザは陛下に嘘を吐いていたことが分かり、不興を買ったらしい。その内容がどのようなものだったかミアは知らないが、陛下のことをお慕いしていたあまりに吐いたと涙ながらに訴え、懲罰は与えられなかったものの陛下の周辺に姿を現すことを禁じられた。
『陛下の様子がおかしいの。やっぱり怒っているのかな』
「どうしてそう思われるのですか?姫様が陛下を怒らせるようなことされるとも思いませんが」
『だって何だか壁があるし、距離を感じる気がするの。以前よりも触れられないし、あまり話をしてくれなくなった。筆談だから会話が煩雑だからかもしれないけど』
姫様は不安そうな表情で言葉を連ねる。元々陛下のお考えなど自分には分かりかねるけれど、姫様のことを大切に思っているのは伝わってくる。
「それは、姫様のお身体を考えてのことではないでしょうか」
声が出なくなったのは心因性によるものというのが、アーベルの見立てだった。姫様は既に自覚されているようだったが、陛下は自責の念を感じているようだった。心身に負担をかけない環境を心掛け、薬を服用することで様子をみることとなったのだ。
『でも避けられている感じがするの。声出せなくなったこともずっと黙っていたし、ご飯も食べなかったし、心配してくれていたのに酷いことしたから、うんざりしてしまったのかも』
書き終えた姫様は苦しそうで、どこか諦めたような眼差しをしている。
「そんなこと絶対にありません!陛下は何よりも姫様のことを大切に思っています。ただ、どうしていいのか分からなくて戸惑われているのではないでしょうか」
ミアがどれだけ言葉を尽くしても、姫様の表情は晴れない。
「姫様、もしも他に気になっていることなどあったらお話してみてください。私でもお役に立てることがあるかもしれません」
その言葉に迷う素振りを見せつつも、姫様は再び筆を取った。
『もしもの話なんだけど、自分と一緒にいることで好きな相手が不幸になるかもしれないって分かったらミアはどうする?』
何故かは分からないけど、どうやら姫様は陛下を不幸にしてしまうと思っているらしい。
どうお答えするのが正解か分からないけど、ミアは自分の思ったことをそのまま伝えることにした。
「私だったら好きな相手を幸せにする方法を考えます。その不幸を帳消しにできるぐらいの幸せがあれば一緒にいてもいいと思える気がするのですが…、答えになっていないでしょうか?」
姫様は呆気にとられたような顔でミアを見つめていたため、思わず質問し返してしまった。変なことを言ってしまったのかもしれない。謝罪の言葉を口にしようとしたとき、ぎゅっと抱きしめられた。
「姫様!?」
同性とはいえこんなところを陛下に見られたら、また役目を解かれるかもしれない。冷や汗を流すミアに気づかないようだったが、幸いにも姫様はすぐに体を離してくれた。
『ミアすごい!私そんな風に考えられなかった。ミアの言う通りだね。ありがとう』
感心したような言葉が少し照れくさいが、その明るくなった表情を見てミアは嬉しくなった。
『大丈夫です』
泣き止んだユナに問うとすぐさまそんな言葉が返ってきた。
『心配かけてごめんなさい』
続けて付け足された文字にシュルツは黙って首をふり、隣に腰を下ろした。
「そなたは何も悪くない。もう謝るな。悪いのは全て我のほうだ」
『違う。シュルツのせいじゃない』
理不尽な思いをしたにもかかわらず、ユナは首を振り必死に否定する。シュルツは彼女の訴えに耳を傾けず、唯一の話し相手を奪った。不自由な生活を強いられているにも関わらず、自分に寄り添おうとしてくれたユナに酷い仕打ちをしてしまったとようやく気付いた。
「我のせいだ。そなたを失うのが怖かったから、あらゆる危険から遠ざけようとした。だがそれは我の自己満足に過ぎず、そなたを傷つけてしまった。ミアへの処罰は行き過ぎだった」
『シュルツが私を守ろうとしてくれただけ。でも、私のせいでミアに罰せられるのが辛くて、どうしていいか分からなくなってしまったの』
ユナは温かい手で指先を握ってくれる。そんな風に気遣ってくれる彼女の優しさが苦しくて、情けない言葉が漏れた。
「……無理はしなくて良い。……もう我のことは嫌いなのだろう」
『そんなことない!シュルツはもう私のこと嫌いになった?』
不安げにこちらを見つめてくる目にまた涙がたまっていく。
「ユナを嫌うなどあり得ぬ。……だがそなたは我の事を嫌いだと言っていたし、触れたときも耐えているように見えた」
『ひどいことを言ってごめんなさい。私の軽率な言動でみんなに迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい。声が出なくなったのはきっと罰だと思うの。シュルツが心配してくれているのも分かっていて、嫌な態度を取り続けたから、嫌われても仕方ないと思っていたのに』
文字からユナが抱えていた苦しさが伝わってきて、たまらず抱きしめる。ユナの言動はシュルツが頑なに彼女の訴えに耳を貸さなかったせいだ。
元凶は自分であるのにも関わらず、彼女は自分自身を責めて苦しんでいる。
(どうしたら伝わるのだろう)
何の言葉も見つけられないまま体を離すと、ユナは躊躇いがちにシュルツの頬に手を添え、唇を重ねた。
ユナからの口づけは二度目だ。一度目は彼女が気持ちを伝えるためにくれたものだった。嬉しいと思う一方で、信じてよいのかと不安な気持ちも強くなる。彼女が自分を愛しく想う理由など、何一つない。無理やり攫い傍において、彼女の気持ちを汲み取ることもなく大切な者を取り上げたのだ。
羞恥から俯いていたユナが顔を上げる前にシュルツはその身体を抱きしめた。真っ直ぐで純粋な彼女の瞳に醜い自分の姿を映したくなかったからだ。
また姫様の侍女をやらせてもらうことになった。エルザは陛下に嘘を吐いていたことが分かり、不興を買ったらしい。その内容がどのようなものだったかミアは知らないが、陛下のことをお慕いしていたあまりに吐いたと涙ながらに訴え、懲罰は与えられなかったものの陛下の周辺に姿を現すことを禁じられた。
『陛下の様子がおかしいの。やっぱり怒っているのかな』
「どうしてそう思われるのですか?姫様が陛下を怒らせるようなことされるとも思いませんが」
『だって何だか壁があるし、距離を感じる気がするの。以前よりも触れられないし、あまり話をしてくれなくなった。筆談だから会話が煩雑だからかもしれないけど』
姫様は不安そうな表情で言葉を連ねる。元々陛下のお考えなど自分には分かりかねるけれど、姫様のことを大切に思っているのは伝わってくる。
「それは、姫様のお身体を考えてのことではないでしょうか」
声が出なくなったのは心因性によるものというのが、アーベルの見立てだった。姫様は既に自覚されているようだったが、陛下は自責の念を感じているようだった。心身に負担をかけない環境を心掛け、薬を服用することで様子をみることとなったのだ。
『でも避けられている感じがするの。声出せなくなったこともずっと黙っていたし、ご飯も食べなかったし、心配してくれていたのに酷いことしたから、うんざりしてしまったのかも』
書き終えた姫様は苦しそうで、どこか諦めたような眼差しをしている。
「そんなこと絶対にありません!陛下は何よりも姫様のことを大切に思っています。ただ、どうしていいのか分からなくて戸惑われているのではないでしょうか」
ミアがどれだけ言葉を尽くしても、姫様の表情は晴れない。
「姫様、もしも他に気になっていることなどあったらお話してみてください。私でもお役に立てることがあるかもしれません」
その言葉に迷う素振りを見せつつも、姫様は再び筆を取った。
『もしもの話なんだけど、自分と一緒にいることで好きな相手が不幸になるかもしれないって分かったらミアはどうする?』
何故かは分からないけど、どうやら姫様は陛下を不幸にしてしまうと思っているらしい。
どうお答えするのが正解か分からないけど、ミアは自分の思ったことをそのまま伝えることにした。
「私だったら好きな相手を幸せにする方法を考えます。その不幸を帳消しにできるぐらいの幸せがあれば一緒にいてもいいと思える気がするのですが…、答えになっていないでしょうか?」
姫様は呆気にとられたような顔でミアを見つめていたため、思わず質問し返してしまった。変なことを言ってしまったのかもしれない。謝罪の言葉を口にしようとしたとき、ぎゅっと抱きしめられた。
「姫様!?」
同性とはいえこんなところを陛下に見られたら、また役目を解かれるかもしれない。冷や汗を流すミアに気づかないようだったが、幸いにも姫様はすぐに体を離してくれた。
『ミアすごい!私そんな風に考えられなかった。ミアの言う通りだね。ありがとう』
感心したような言葉が少し照れくさいが、その明るくなった表情を見てミアは嬉しくなった。
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