召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景

文字の大きさ
24 / 74

魔王

しおりを挟む
「お前はこのまま聖女でいたいか?」
「何で私が質問される方なんだよ。お前の話が先だろう」

誤魔化すつもりかと胡乱な眼差しを向ければ、ディルクは降参を示すように両方の手の平を見せて小さく笑った。

「一応大事なことなんだけど……まあいいか。端的に言えば俺は聖女召喚なんてものに反対だったんだ。だからお前を助けるのはそれを実行した奴らへの意趣返しも兼ねている」
「意趣返しねえ。で、メインの理由は?この期に及んで聖女に同情したとかくだらないこと言うなよ?」

畳み掛けるように言うと、ディルクはどこか優しい眼差しを向けて来る。上手く言い含められそうな雰囲気のため警戒せざるを得ないのだ。

「そう噛みつくな。魔王についてはどれくらい知っている?これは確認のためで質問じゃないぞ」

魔王について瑛莉が知っていることは多くない。百年~二百年に一度の割合で復活すること、魔王は魔物を活性化させその魔力が人に悪影響を及ぼすこと、魔王に対抗できるのは聖女の力のみであることぐらいだ。

そう答えるとディルクは真面目な顔で頷いた。

「まあ概ね間違っちゃいない。だが魔王の力が人体に悪影響を及ぼすというよりは魔物が増えるからそう言われているだけだろう。あと魔王の力は強大だが討伐自体は聖女じゃなくてもやれないことはない」

付け加えられた言葉は確信的で、ディルクの目は本当に知りたいのかと問いかけるようにまっすぐに瑛莉を見つめている。聞いてしまったら引き返せない雰囲気だが、知らなければいけない気がして瑛莉は無言で続きを促す。

「神殿と王家の目当ては魔王の命である核だ。魔力の源でありその辺の魔石とは比べ物にならないほどの力を帯びている。――百年は聖石の備蓄を気にしなくていいぐらいにな」
「……殺すことはできても、それほどの魔力を有した核を浄化するには聖女でないと難しい、ということ?」

ディルクの言葉から予想した聖女の役割について自分の考えを述べると、ディルクは首肯した。
魔物や魔王の討伐が可能にもかかわらず、わざわざ聖女を召喚するのは魔王の核目当て――つまり自分たちが便利で豊かな生活を送るためだということになる。

露骨に不快な顔をした瑛莉に、ディルクは更に言葉を募った。

「それと一部の人間にしか知られていないが、魔王は魔物じゃない。魔物を制御できる特別な力を持っているが、人間なんだ」

その言葉に瑛莉は何かがすとんと腑に落ちた気分になった。頭では理解していないが、感覚が先に追いついたので、その後に続くディルクの言葉を聞いても驚くことはなかった。

「そいつは俺の命の恩人で、友人なんだ。――エリーがこのまま聖女であるならば魔王討伐は回避できないだろう。だからもう一度聞くが、お前はこのまま聖女でいたいか?」
「自分の意思で止められるならとっくに止めてる」

聖女になりたくてなったわけじゃない。決定事項のように押し付けられて迷惑しているのにそういう言われ方をするのは心外だ。

「だがこのまま聖女でいれば、王太子妃になれるぞ?その力を王家や神殿のために貢献し続ければ裕福な暮らしは約束される。だが敵に回せば、まともな生活を送るどころか命の保証だってない」

「お前、結構面倒くさいな」

心の中で留めておくつもりだった言葉が、ぽろりと口からこぼれ出た。驚いたように目を丸くしているので瑛莉の発言は予想外だったのだろう。

(ここまで聞いて知らなかったことには出来ないのに、選択肢を与えようとするなんて甘いというか優柔不断というか……)

魔王を友人だと言うこの男からすれば、聖女は友人に危害を加える敵でしかないのに、放っておけない性分なのか、気に掛けてあれこれ手を回す。不器用で残酷な優しさだけどそれはとてもディルクらしいと瑛莉は思った。

「お前の言葉が正しいか分からないけど、魔王が何もしないなら、こっちだって手を出すつもりはないよ」

そう答えるとディルクは無言で頷いたが、その表情は僅かに安堵したように見える。

「お前ならそう言ってくれると思っていたが……ありがとうな」
「別に礼を言われるようなことじゃない。それに魔王がどう動くかによって変わるしな」

魔王の核が目的であるならば、それを浄化できる瑛莉を殺せばと考えても不思議ではない。それにディルクは魔王を擁護しているようだが、瑛莉にとって無害な存在なのか分からないのだ。

「ああ、あいつの方にはこっちから伝えておくから、当面は恐らく大丈夫だ。……分かっているとは思うがこのことは誰にも話すなよ。エルヴィーラにもだ」

「話すわけないだろ。っていうか何でわざわざエルヴィーラのこと念押しするんだよ。私だってエルヴィーラが神殿側の人間だって知っているぞ?」

エルヴィーラを聖女の侍女に付けたのは、それだけ神殿がエルヴィーラを信用していることに他ならない。エルヴィーラに話せば神殿側に筒抜けになり、ディルクはもちろん瑛莉だって要らぬ腹を探られて神殿に危険視されてしまうかもしれないのだ。

「いや、お前はエルヴィーラには懐いているように見えたからな」

懐くも何も基本的に瑛莉の世話をするのはエルヴィーラしかいないのだから、多少の情は移るだろう。

「エルヴィーラのことは嫌いじゃないけど、それとこれとは別だ」

「それならいいが……。そろそろ行かないとな。仮にも未婚女性と二人きりでいるのは道徳的にも反しているし、聖女と密会していたなんて噂が流れると色々とまずい」
「今更だな。昨晩寝てるときに勝手に部屋に入っただろう」

呆れたように瑛莉が言うと、扉に向かいかけていたディルクがぎょっとしたように振り返った。

(あ、バレてないと思っていたのか)

いくら「先生」の夢を見ていたからと言っても、撫でられる手の感触は「先生」よりも大きくてごつごつしていた。リアルな感触に夢じゃなかったのだろうなと思っていたが、先程ディルクに抱きかかえられた時に、こいつだと直感したのだ。

「…………ジャンから力の使い過ぎかもしれないと聞いて……例がないものだから、何というか気になって…………済まなかった」

ほのかに色づいた頬を見て、瑛莉は優越感のようなものを覚えてにやりと笑った。いつも余裕綽々なディルクが動揺していることにしてやったりという気分になる。

しばらくはこれで揶揄ってやろうと思いながら、瑛莉は足早に部屋を出ていくディルクの背中を見送ったのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

私は、聖女っていう柄じゃない

蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

処理中です...