召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景

文字の大きさ
26 / 74

晩餐

しおりを挟む
(何かこれも嫌がらせに含まれている気がするのは、被害妄想すぎるか……)

悪意のなさそうな笑みを浮かべているヴィクトールに、瑛莉はそんなことを考えながら無理やり口角を上げる。よく働いたと心地よい疲労感を得て帰ってきた瑛莉を待っていたのは、ヴィクトールからの晩餐の誘いだった。

「救護院での仕事が一区切りついたと聞いたからね。大変だっただろう」

労いの言葉に晩餐会の趣旨を察したが、他の貴族ならいざ知らず瑛莉にとっては残業もいいところだ。

(エルヴィーラと話したかったんだけどな)

少し気になることがあったため、二人きりになってから切り出そうと思っていたのに、戻って来るなり慌ただしく入浴を済ませ窮屈なドレスを纏い、晩餐会に相応しい身支度を整えることになったのだ。
当然そんな時間など取れるはずがなく、瑛莉はこうしてヴィクトールと向かい合っている。

「お役に立てて何よりですわ」

迂闊な発言は危ういと当たり障りのない言葉を返す。王族のヴィクトールは幼少の頃から言動に責任が求められる立場であり、交渉や駆け引きなどは瑛莉よりもよほど経験があるだろう。余計なことを言わずにやり過ごそうと決めた瑛莉だが、それが難しいことに気づくまでにそう時間はかからなかった。

「きっと患者にはエリーが女神のように映っただろうな。君の神秘的な瞳や凛とした佇まいにはつい目を奪われてしまう」
「……勿体ないお言葉ですわ」

「エリーが前向きに頑張ってくれるのは嬉しいが、他の者と過ごす時間のほうが長くなってしまうのは少々妬けてしまうな」
「…………………」

(いや、何て返せばいいんだよ、これ!)

息をするように女性への褒め言葉を吐けるのは王子だからだろうか。誹謗中傷にはそれなりの対処ができるが、称賛にそつなく返答するには瑛莉は圧倒的に経験不足だった。
小首を傾げてよく分からないという表情を作ると、運ばれてきたスープに口を付ける。まだ食事の序盤だが、さっさと部屋に戻りたい。

そんな瑛莉の願いとは裏腹に一品ずつゆっくりと運ばれてくる食事に、晩餐が終了する頃には瑛莉はすっかり疲労困憊の状態だった。


「三週間後に国王陛下、王妃殿下との茶会が決まった。エリーのドレスは私のほうで準備するけど、問題ないかな?」

さらりとヴィクトールに告げられて瑛莉は紅茶を吹き出しそうになった。確かに名実ともに聖女と認められたので紹介可能だとは言われていたが、そんなにすぐには実現しないだろうと思っていたのだ。

「ヴィクトール様……私はまだ礼儀作法が十分ではございません。こんな状態で両陛下にお目に掛かることは、不敬になってしまわないでしょうか?」

ただでさえ聖女の立場のせいで目を付けられているのに、もしそのお茶会で不興を買ってしまったら、また面倒なことになってしまう。

「国王陛下も王妃殿下もエリーの事情はご理解されているから大丈夫だ。当日は私も同席するからそんなに心配しなくていい」

(アウェイ感半端ないわー)

多分その場にはあのマリエット王女もいるのだろう。どう考えても不安しかないのに大したことではないかのように話すヴィクトールに内心イラっとする。そんな瑛莉の心情を知らずに、ヴィクトールは朗らかな笑みを浮かべて傍にいた従者に何かを指示した。

「これはエリーへのご褒美だ」

差し出された箱の中には、花弁をかたどった髪飾りが入っていた。ヴィクトールから渡されたものなので用いられている素材はガラスなどではなく、サファイアやアメジストなどの宝石なのだろう。高価すぎて気軽に身に付けるものではないが、耳の上あたりで髪をまとめるのにちょうど良く、華やかだが目立ちすぎず上品なアクセサリーだ。

「ヴィクトール様、お心遣いありがとうございます。ですが先日も代わりの物をご用意していただきましたので、私には過分な品物ですわ」

与えられればその分返さなくてはいけなくなる。贈り物を断るのは失礼にあたるかもしれないが、いざという時にそれを盾にされると困るのだ。

「そんなことはない。婚約者への贈り物なのだから、エリーに受け取ってもらえないと困るな」
「ありがとうございます」

そこまで言われて受け取らないのは、それこそ不敬だと言われかねない。従者や護衛のオスカーからの圧力を感じながら、結局瑛莉は受け取ることにした。持っておくだけで使ったりしなければ価値は落ちないだろう。

「あとはこれかな」

ついでのように出されたのはフルーツをたっぷり使ったタルトだ。洋梨や桃、オレンジなど鮮やかで瑞々しく、思わずそちらを凝視しているとヴィクトールの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

「エリーは欲がないな。こんな物ならいつでも用意するのに」
「あまり揶揄わないでくださいませ。見た目が綺麗だから見ていただけですわ」

宝石よりかは受け取りやすく、面倒がないので食べ物のほうが有難いのは確かだが、食い意地しかないように言われると、抗議したくなる。
たくさんあるからと言われて憮然とした気持ちになりながらも、瑛莉は目の前のタルトを口に運んだのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

私は、聖女っていう柄じゃない

蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

処理中です...