不能の公爵令息は婚約者を愛でたい(が難しい)

たたら

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4・騎士団長に呼び出された

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 「ガイディス・ブレイトン、
騎士団長がお呼びだぞ!」と廊下から
怒鳴られ、俺は訓練後の着替えもそこそこに
慌てて更衣室を出た。

 何か失態でもやらかしただろうか。

そういえば、この最近、
父が俺に何か言いたそうにしている。

騎士団長と言えば、異才と呼ばれる
バーンズ侯爵家の長男だ。

ということは父が何か社交界で
やらかしたのだろうか。

父はどこかお人よしで、
しっかり者の母によって
ブレイトン公爵家は成り立っているように思う。

公爵家という家柄なのだから
もっとどうどうとしていればいいのに、
何故かそれができない。

だからこそ、俺に群がる
ご令嬢たちを止めることも
できなかったのだろうが。

あの父が騎士団長殿と対峙した姿を
想像して俺は思わず首を振った。

あの騎士団長の冷たい真っ青な目で
見つめられただけで、父は目に
涙を浮かべるに違いない。

俺も良く「冷たい」「氷対応」など言われるが、
あの騎士団長殿に比べたら
まだまだ可愛いものだと思う。

とにかく何があっても「はい!」と
「もうしわけありません!」だな。

よし、これでいこう。

「ガイディス・ブレイトン、参りました!」

ドア前で声を出すと、
入れ、と声がする。

俺は緊張しながら
騎士団長室へ入った。

敬礼して返事を待つと、
何故か騎士団長は俺をじっと見つめた。

俺は敬礼したまま背中に冷や汗をかく。

やはり、俺か父が
何かやらかしたに違いない。

「いや、楽にしてくれ」

「はっ」

楽になんかできるわけがない。
だが俺は敬礼を止めて
騎士団長を見る。

いいか、俺。
何を言われても、
はい、と、もうしわけありません!

この2語しか言わないぞ、
言ってはならないんだ。

「君を呼んだのは、
君の父上、公爵殿から
話が合ってね」

やらかしたのは父か!

はい、か、申し訳ありません!だ。

「バーンズ侯爵家に婿に入れ」

「はっ! もうしわけありませ……ん?」

なんだ?
何を言われた?

「それは了承と取っていいな」

「は? は……??」

ちょっと待て。
話しについて行けない。

「話は以上だ。下がっていいぞ」

「え? は?」

「あ、待て。
一つだけ確認しておく」

俺が目を白黒させているというのに
騎士団長は話を続けた。

「君は、男性機能が不能だと聞いた。
間違いはないな」

父上!
なんてことをバラシてるんだ!と
憤ったのは一瞬だった。

心底冷えた刃で喉元を突き刺すような視線に
俺は首を必死で縦に振る。

「よし、いいだろう。
合格だ」

何がだ?
どうなってる?

「ただし、万が一、
あの子が君を拒否したら
この話は無かったことにする。
いいな」

心底冷えた声に俺は口にできたのは
「はい。申し訳ありません」だった。

話しは終わりだ、といわれ、
俺は部屋を追い出されたのだが、
混乱しすぎて、何を言われたのか
よくわからない。

婿?

バーンズ侯爵家に?

いやいや、バーンズ侯爵家は
騎士団長が跡を継ぐのではなかったか?

え?
俺が騎士団長の嫁?!

だから、俺が不能かどうか確かめた……?

いや、待て!
待ってくれ!

冗談じゃないぞ。

そんなの無理に決まっている。

俺は心臓がバクバクしてきた。

無理無理無理。

どう考えてもあの騎士団長と一緒に
生活するなんて寿命が縮む。

とにかく父に話を聞かしかない。

俺は大急ぎで屋敷に帰ることにした。

幸い訓練は終わっていたし、
後は自由時間だ。

馬に乗って屋敷に飛び込むと
執事も侍女たちも驚いていたが
それどころではない。

父の居場所を聞くと
書斎にいるというので
俺はノックもせずに父の書斎の
扉を開けた。

「父上! どういうことですか!」

俺の叫びに、執務用の椅子に
座っていた父は驚いたようだが、
「そうか、聞いてしまったのか」と呟いた。

「父上は知っていたのですね。
いや、父上が提案したのですか?」

騎士団長の話しを思い返せば、
元々は、この父から話を持ちかけたとしか思えない。

父は目を潤ませて俺を見た。
騎士団長の顔でも思い出したのだろうか。

「……父は、いい話だと思う。
爵位も継げるし、しかも領地も広大な
バーンズ侯爵家だ。

うちとしても、繋がっておけば
かなり有益な縁組にもなる」

「政略結婚というのであれば
もっと別の相手もいるのでは?」

よりにもよって、
騎士団長とだなんて!

「だが、おまえは
女性はダメだろう?

あちらはお前が……その、
不能だということに対しても
大歓迎だと言ってくれている。

無理に子どもを作る必要はない。
ただの政略結婚だ」

「それは……そうかもしれませんが」

そう言われてしまえば、
反論できなくなってしまう。

それに爵位を継げない俺にとっては
バーンズ侯爵家への婿入りなど
破格の縁談だ。

「今後のことは、バーンズ侯爵家に
全て任してある」

「は?」

「できるだけ早いうちに
婚約を纏めたいと言われている。

次の休みの日は顔合わせだ。
バーンズ侯爵家に出向くように」

ちょっと待て。

「次の休みって、2日後ですが」

「そうか。じゃあ2日後だ。
花を準備していくように」

「そんな、急すぎるのでは?」

と俺が声を挙げると、
涙目で父が俺を見た。

「わかるだろ?
あれに文句を言うなんて……」

騎士団長が怖いんだな。
わかる。
その気持ちはわかるのだが……

その騎士団長に嫁ぐ俺は
可哀そうにはならないのか!?

そう思いもしたが、
貴族の結婚は家同士のものだ。

政略結婚だって当たり前なのだから
たまたま相手が騎士団長だっただけで
異論を言うわけにはいかない。

そう。拒否できるなど
本気で思っていたわけではないのだ。

ただ、愚痴を言って
子どもの様に駄々をこねたかっただけ。

だが俺以上に父が
子どものように泣きそうな
顔で俺を見るから……
俺は意見を飲み込むしかなかった。

父上に頭を下げて
俺は部屋を出た。

が、ふと思った。

もしかしたら父のあの顔は、
わざとではないのか?

頼りない、すぐ泣く子どものような公爵殿。

あれは自分の意見を貫くための
演技かもしれない。

うまく貴族社会を渡っていくための
父なりの方法かも……。

などと考えたところで
正解かどうかなどわかるはずもない。

そしてそんなことを考えても、
騎士団長に嫁ぐ未来は
もう決まっているのだ。

俺は天井を仰いで、
この先の真っ暗な未来を憂いた。

「いかがされましたか?」

廊下で控えていた執事が、
心配そうに俺に声をかけてくる。

俺は首をふり、
二日後に外出をするから
花の準備をするようにと
執事に言いつけた。





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