これ、ゼミでやったやつだ

くびのほきょう

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待機組

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この顔ぶれだと待機組はアンネマリー様主導になりそうですね。

「私は水属性よ。ロミルダ様は?」
「私は砂属性です」
「まず最初にお手洗いを作っちゃいたいわね。1人1つずつでいいかしら」

アンネマリー様、1人1つのトイレは多すぎです。冗談なのかとアンネマリー様を見ますが、本気の顔をしています。大富豪公爵家のご令嬢ならではの発想だったようです。そしてトイレに行きたいのですね。

アンネマリー様の主導でよいのか早くも不安になってきました。普段は寡黙なハルトムート様も非常事態の今はリーダーシップを発揮しておりますし、ここは次期王妃として私も頑張る必要がありそうです。

「お手洗いはとりあえず男女1つずつ作成しましょう。アンネマリー様とトラウゴットさんの水魔法で地下水源を引き込み、私の砂魔法で周りを固め、下水は海に排水するようにして、周りは水魔法と砂魔法を組み合わせてドーム状にすれば良さそうですね。あと、寝床と水場の他に竃と土鍋も作りたいと思ってるんです。土器の要領で水と砂を混ぜて土鍋を作って、狼煙を上げる隙間でクリストフ様に焼いてもらいたいです」
「土器の作り方、これ王妃教育でやったやつだわ!正直こんなこと覚える意味があるのかしらと思ってたけれど、こんな形で役に立つなんて思わなかったわね。クリストフ様が岩魔法も使えるなら鉄板用の岩も出してもらいましょうよ!」

こんな時に不謹慎かもしれませんが、私とアンネマリー様は王妃教育で習った知識が活かせると少しワクワクしてしまっています。

「岩属性も持ってるから岩の鉄板は出せると思う。……ねぇ、クリストフって長いしクリスって呼んでよ。僕もロミーとマリーとトラウで良い?」
「私はマリーで大丈夫よ。実は私、前から心の中ではロミーちゃんって呼んでたの。ロミーちゃん良いかしら?」

良いと言う前に呼んでますよ、マリー様。

「ロミーたん」
「トラウ、ロミーたんはさすがにアウトだよ。っていうかトラウっていくつ?僕たちよりだいぶ年上だよね」
「……18です」
「ますますアウト」
「ひどぉ~い」

突如放たれたトラウさんによるベティーナさんのモノマネにクリス様とマリー様が吹き出します。

「ぶっ、ふははははは!」
「ぎゃははは!それ、そっくりすぎよ!」
「クリス様もぉマリー様もぉ、そぉんなに笑うなんてぇ、ひどぉ~~~いですぅ」

さすが従兄弟、大げさに真似てもそっくりです。私も思わず笑ってしまいました。

「ロミーちゃんが笑ったわ!かわいい!」
「ロミーたんの激レア笑顔、かわいい」

マリー様とトラウさんが過剰に反応してきますが、なんとなく怖いので少し距離を取っておきましょう。

私たち待機組はこんな感じで和やかに作業を進めました。訳がわからない非常状態に不安になる気持ちを誤魔化すためでもあったのかもしれません。
必死に作業し、男女1つずつのお手洗い、男女1つずつの掛け流しシャワー室、男女1つずつの寝床用ドーム、土鍋3個と私が作った歪な土鍋?1個が出来ました。浜辺で上げてる狼煙の近くには水場と竃も作り、寝床には森を少し入った所で見つけた大きな葉っぱも人数分置きました。クリス様の岩魔法で鉄板と全員が座れるテーブルとベンチも出してもらい、私たちで出来ることはやりきったと思います。

クリス様が砂属性を持っていなかったため、私の魔力負担が大きく、さすがに疲れてぐったりとしてしまいます。お手洗いどころかシャワー室まで1人1つ欲しいと言っていたマリー様も私の疲れた様子を見て男女1つずつで納得してくれたほどです。
正直、普段の生活では役に立たずあまり好きになれなかった砂属性ですが、大活躍した今日からは好きになれそうな気がします。

私たち4人は順番にシャワーを済まし、クリス様の風魔法で服と髪を乾かして貰いました。段々と日も傾いてきましたが探索組の5人はまだ帰ってきません。救助も来ません。私たちは狼煙の周りに座り探索組の帰りを待つことにしました。

「ロミーちゃん、大丈夫?ロミーちゃんはまだ10歳なのにこんなことになって、私をお姉さんだと思って甘えてくれてもいいのよ?」

隣に座ったマリー様が頭を撫でてくれます。思わず思春期に入り頭を撫でてくれなくなったお兄様を思い出してしまいます。昨日までは優秀なマリー様に勝手に劣等感を感じて近寄りがたいと思っていたというのに、今では気が強いけど優しくて頼りになるマリー様のことが大好きになってしまいました。

「船に残してきた侍女や護衛達が気になります」
「ロミー様は優しいですね。高位貴族家の使用人達なんて皆エリートばかりです。あんな高波ひとつくらい大丈夫ですよ。きっと今頃は皆様の探索に加わってるはずです」

トラウさんが慰めて下さいます。ロミーたんと呼ぶのは諦めてもらえたようでよかったです。

「そうよ!きっと皆大丈夫。私の侍女なんて泳いでここまで来てしまいそうだわ。淑女らしくっていつも怒られるのだけど、こんなに日焼けして泥々になってる姿を見たらどんな反応をするのか怖くて会いたくないくらいよ」

あの完璧に見えていたマリー様が侍女に怒られているなんて、昨日までの私だったら信じられなかったと思います。

「私は船に残してきたぬいぐるみが気がかりだわ。あの子を抱きしめないと寝れないからって今回の旅にも連れてきたのだけど、家でお留守番してもらってた方が良かったかもと後悔してるの。私の侍女なら気にかけてくれてるって信じているのだけれど」
「マリーがぬいぐるみがないと寝れないなんて意外だね。なんのぬいぐるみ?うさぎとか?」
「ハシビロコウのロコちゃんよ!今晩はロコちゃんの代わりにロミーちゃんを抱きしめて寝るから大丈夫!」

おぉ、こんなところでハシビロコウの名を聞くとは。出会った当初からなぜか私への好意を隠さないマリー様を不思議に思っていたのですが、その謎が解けました。そして、ロコちゃんの代わりになることは私に拒否権は無いようです。
道理で寝床用ドームを作る時だけ1人1つ欲しいと言わなかったわけです。

「ハシビロコウってあの動かない鳥だよね。なるほど、髪と目の色もだけど、あのなんとも言えない表情がロミーと似てるかも。それにしてもハシビロコウのぬいぐるみなんて珍しい物どこで買ったの?」

なんかクリス様に失礼なことを言われた気がしますが、私もハシビロコウのぬいぐるみを売っている所は気になります。ぬいぐるみが売れるほどの需要がハシビロコウにあるとは思えません。そんな採算度外視の酔狂なお店があるなら行ってみたいです。

「小さい頃にね、エルヴィン様と行った花鳥園でハシビロコウが可愛くてはしゃいでしまったのだけど、その年の誕生日にエルヴィン様から貰ったのがロコちゃんなの。エルヴィン様はオーダーメイドで作ったのだと言ってたわ」

真っ赤な顔をしてエルヴィン殿下との思い出を話すマリー様がとても可愛いです。口喧嘩ばかりに見える2人ですが、本当は思い合っているんじゃないですか。

「ツンデレ同士のケンカップルですか。マリー様、ツンデレは尊くてとても良いものですが、相手もツンデレの場合デレが無さすぎると拗れてしまうことがあるので気をつけてください」
「ツンデレ?ケンカップル?」
「普段はツンツンしてつれない態度なのにふとした時にデレデレと甘えてくる人、つまりマリー様に対するエルヴィン殿下と、エルヴィン殿下に対するマリー様みたいな人をツンデレと言います。ケンカップルとは“喧嘩するほど仲がいい”って言われちゃうようなカップル、まさしくマリー様とエルヴィン殿下です。ただ、今のマリー様とエルヴィン殿下は2人共にデレ、つまり相手に甘えたり素直になったりする所が無さすぎるように見えます。ツンデレ同士は尊くもありますが、実際の組み合わせとしては難しいんですよね」

トラウさんが早口でマリー様へ熱弁してますが、熱弁すればするほどマリー様とクリス様のトラウさんを見る目がどんどん冷たくなっていることに気づいていないのでしょうか。

と、そこへテオフィル様のお声が響きました。日も暮れかけてやっと、探索組が帰ってきました!

「おーい!」

皆たくさんの木の実やフルーツなどを上着に包んでます。良かった。楽しくお話しする事で誤魔化していただけで本当はすごい不安だったのだと気づき、思わずハルトムート様に駆け寄ります。

「ハルトムート様!おかえりなさい」
「あぁ」

いつ見ても乱れひとつなく完璧な身嗜みのハルトムート様が、今は泥々でボロボロです。

「お怪我はありませんか?あちらにシャワー室も作ったので使ってください。それとも先にお食事にしますか?」
「あぁ」

ハルトムート様は「あぁ」と言いながら顔を上にあげ手で目を押さえております。お疲れなのでしょう。それにしても「あぁ」ってどちらなのでしょうか。シャワー?食事?

「ハル様、あの時の足の打撲はまだ痛む?また冷やすよ?」

そこへ、ベティーナ様が私を無視してハルトムート様へ声をかけました。ハルトムート様は足を打っていたようです。ハルトムート様はベティーナ様へは気さくに返事をします。

「ありがとう。もうそれほど痛くはないがシャワーを浴びた後にまた冷やしてもらえると助かる」

私へは硬い表情で「あぁ」しか言ってもらえなかったのにな。なんだかベティーナ様の方が婚約者のようで悲しくなります。

「ちょっと、ハルトムート殿下、横で聞いてれば何なんですか!ロミーちゃんがかわいく『お風呂にする?ご飯にする?』って聞いたのにあんな薄い反応しか返さないし、そのくせそこのあざとい女とは普通に会話するとか。ロミーちゃんが傷ついているのが分からないのですか?ハルトムート殿下がこんな朴念仁だなんて知らなかったわ!」
「兄上に朴念仁だなんてよくも言ったな!王族に対して不敬がすぎるぞ!」
「何よ!かわいいロミーちゃんを傷つけるような男、王族であろうと朴念仁よ!」

マリー様が私の悲しみに気付いて怒ってくれました。泣くほどは悲しくなかったはずなのですが、マリー様の言葉が嬉しくて目に涙が滲んできます。マリー様から朴念仁と言われたからか、もしかしたら泣きそうな私を見たからか、ハルトムート様が狼狽えてる姿が泣きそうな目の端に入りました。
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