銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
12 / 359
第二章 たった二人の城

ささやかな宴

しおりを挟む
――城・中庭


 台所には外へと続く出入り口がある。元は扉があったのだろうが、今はお洒落な吹き抜け。
 アーチ状の吹き抜けを潜り、外へ出ると、そこは城の中庭。
 中庭は南側に面していて、春の陽気が草花に暖かさを届ける……台所の中にも届いているが。

 
 私は地面に散らばる小石を拾い集め、それらを中庭を囲む壁側に集めた。
 尻に刺激を与える凹凸が消えた新緑の絨毯の上に皮の絨毯を重ねる。
 そして、海の香りが混じる春風に飛ばされないように、大きめの石を置いて重石とした。
 最後に、食器を絨毯に置いた際にグラグラせぬよう、安定させるための平らな板切れを置く。

「よし、これでいいだろう。ん?」
 準備が終えたところで、タイミングよく台所からギウが出てきた。
 彼の手には料理を盛りつけた皿が納まっている。
 私はそれらを板の上に置くように説明する。
 
 ギウは焼き魚の皿を置き、次に魚が煮込まれたスープを置く。その傍には鉄製のスプーンとフォーク。
 私たちは向かい合うように座り、朝食兼昼食を頂くことにした。

「では、ギウの特製料理を味わうとしようか」
「ギウギウ」

 私は胡坐をかき、ギウは背筋をピンと張って膝を折りたたみ脛を地面につけて座る。
 その姿勢はこちらが気持ちよくなるくらいにきっちりとしたもの。
 だらしなく胡坐をかいている自分の格好が申し訳ないくらいだ。

 かといって、ギウと同じように地面に脛を付けて座るのは痛そうなので真似できない。
 ここはあまり気にしないようにして、私はスプーンを手に取った。
 深めの皿を取り、スプーンをスープにくぐらせて口へ運ぶ。

 
「ずずっ……っ!?」
 半透明のスープが舌先に触れた途端、魚介の香りが口内を満たす。
 ギウは塩だけで味付けをしていたはずなのに、スープには複雑な旨味が交じり合い、心と胃に驚きと喜びを届ける。
 
 次に煮込まれた野菜を口にした。
 野菜は芯までしっかり煮込まれ、味が内部まで染みている。
 よく見ると、ニンジンなどの火が通りにくい野菜には細かな包丁の跡があった。
 おそらく、このひと手間を加えることで、野菜に味が染み込みやすくしているのだろう。
 
 煮込まれた野菜には野菜本来の甘みと魚の風味と塩が溶け込み、口の中で豊かな味を弾けさせる。
 私は名残り惜し気に野菜を喉に通して、魚に手を付けた。
 魚は己自身が持つ旨味に野菜の甘みを纏い、旨味そのものをより確かに強調している。
 さらりとほぐれる魚の身が心地良く舌先に転がる。
 身を噛み締めるたびに幸せが大きく広がっていく。

 スープを堪能し、私は手放しにギウを称賛した。


「これほど美味しい料理は食べたことがないっ。君は本当にすごいな!」
「ギウ~」
「しかし、塩のみの味付けで、何故こうまで複雑な味わいになるのだ?」
「ギウ? ギウギウギウギウ」

 彼は魚と野菜が指さして、それらを何かに入れる動作を示し、指先を上に向けて揺らめかす。
 その動作から、魚と野菜を鍋に入れた。指先が揺れているのは炎の意だろう。

「しっかり煮込むことで、野菜と魚から出汁を取った? ということか?」
「ギウ」
「なるほど。塩のみの味付けと思いきや、煮込むだけでこれほど味が変わるとは。料理とは奥深い」
「ギウギウ」
 
 ギウが焼き魚を勧めてきた。
 どうやら、こちらも自慢の一品のようだ。
 私は早速フォークで身を取り出す。そして、パクリッ。

「もぐもぐ……う~む、僅かに利いた塩気が魚に良く乗った油と相まって、なんという美味さ。ただ、焼いているだけのはずなのに、王都にある煮込み魚料理にも劣らない」

 王都は海から比較的近いため手軽に魚料理を味わうことができる。
 だが、王都では煮込み魚が好まれるので、焼き魚は滅多にない。

「王都ではスープやソースでしっかり味付けされた魚料理ばかりだったが、塩のみで味付けされた魚がこれほど美味いとは。これは釣ったばかりという、素材の新鮮さというもの加味されているのだろうか?」
「ギウギウ」
「ん、どうした?」
「ギウ」

 ギウは薄い緑色の水が入った小鉢を出してきた。
 それを受け取り、匂いを嗅いでみる。

「これは? クンクン……柑橘類の香りがするな」
「ギウッ」
 彼は手に草を持っている。

「それはイタデサ草か?」
 イタデサ草とは潰すと柑橘系の香りがする、どこにでも生えている野草。その汁もまた、柑橘類の味がするという。
 ギウは小鉢に入った水を焼き魚に掛ける動作を見せる。


「柑橘類がないから、イタデサ草を代用したのか。そしてそれを、焼き魚に掛けろと。よし、やってみよう」

 魚の身の部分に軽くイタデタ草の汁を振りかける。
 そして、その部分口に運んだ。

「もぐもぐ…………かぁ~、これはいいっ!」
 イタデサ草の汁を掛けることにより魚の味がより際立ち、清涼な柑橘系の香りが鼻腔を通り抜けた。
 舌と鼻とで魚の旨味が華やいでいる。

「イタデサの汁を掛けるだけで、これほど変わるとはっ? いや~、美味い! 魚がこんなに美味いとはっ! しかし、ちょっともったいないな」
「ギウ?」

 私は指先で小さなコップを持つような動作を見せる。
「酒がないのがもったいない」
「ギウウ」

 ギウは身体を揺らし笑い声を漏らす。
 酒はないものの、こうして私とギウは、ささやかながらも豊かな宴を楽しむのであった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

処理中です...