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第五章 善のベールを纏う悪人
翼を失った虚栄の王
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――ムキ=シアンの屋敷
私たちはムキを縄で縛り、倉庫から出て、堂々と正面玄関から外へ出た。
外へ出た途端、警備が私たちに気づき、剣を抜いて囲み始めた。
私は剣をムキの首元に当てて、彼らに近づくなと命令する。
「近づけば、ムキの命はないぞ!」
ムキに剣を当てつつ、私たちは警備たちの間を歩く。
その様子にムキは下卑た笑いを漏らした。
「ケケケケッ、無駄だぜ無駄。ここからどこに逃げようってんだ? 俺様には傭兵がいる。あいつらが戻ってきたら、ケント! てめぇはおしまいだ!!」
「ふぅ、無駄にデカい声だ。それでは外まで聞こえるぞ。ま、こちらとしては好都合だが」
「なに? ん?」
彼は何かに気づき、正面の門に目を向けた。
門の向こうからは無数の蹄の音と、幾百もの声が聞こえてくる。
音を耳に入れたムキは夜のアルリナの町を叩き起こすが如く、我が城のニワトリ顔負けの大きな声を上げて笑う。
「クケ~ケッケッケ! ナイスなタイミングだぜ! 傭兵たちが戻ってきやがった! ケント、泣きを入れるなら今の内だぞ! 今なら真昼間の町中で素っ裸なり豚の真似をするだけで許してやるよ。もちろん、そこのガキを含めてな!」
「申し訳ない。私は婦人の前で肌を晒すことはあっても、不特定多数の前で晒す趣味はない」
「ケッ、イケ好かねぇ。だが、そんな態度が取れるのも今だけだぜ!」
「残念ながら、それは私のセリフだ」
「なんだと?」
私は正面の門に顔を向ける。
門は今まさに開こうとしているところ。
門の向こうからは多くの者たちの熱気が入り込んでくる。
「ムキよ。あれが傭兵ならば、少しばかり戻ってくるのが早いと思わないのか? 彼らが古城トーワに向かい、私の不在を確認して急ぎ戻ってきても、半日以上は掛かる」
「え? そうだが……それじゃ、あいつらは?」
ムキは門に目を向ける。門の向こうには無数の影。
影が門をくぐり、私とムキ。そして、ギウとエクア。警備たちの目に映ったものは……。
「我々は商人ギルドの兵士とアルリナの警吏である! 屋敷内にある者たちは武器を捨て投降しろ!」
彼らは門が開くと同時に、堰を切ったようになだれ込んできた。
そして、屋敷の警備兵たちに武装解除を命じている。
何が起こったのか理解が追いつかぬムキは、口をぽかんと開けて間抜け面を晒していた。
「な、ん、だ……あん?」
私は惚けた阿呆を無視して、正面から複数の兵士を携え歩いてくる初老の男性に軽い会釈を行った。
「お初にお目にかかる。私は古城トーワの領主、ケント。一度の挨拶も無し、急な要請を受けていただき感謝いたします」
「こちらこそ、挨拶を疎かにして申し訳ない。私は商人ギルドの長を預かっている、ノイファン。あなたは要請と申しますが、こちらからすれば……協力と相成りましょうか」
男は目尻にある細かな皺を深くし、細めるような目でにこやかに微笑んだ。
僅かに白髪の混じる頭髪と、がっしりとした身体を持つ浅黒の老人。
これが、アルリナの真の支配者であるノイファン……。
ここまで来ても状況がわからぬ愚かなムキは、目の前のノイファンに噛みつく。
「どういうことだ、ノイファン! 何故、無断に俺様の屋敷に兵士を入れた!?」
「決まっている。港町アルリナから悪党を排除するためだ。ムキ=シアン、お前の両手に縄をかける」
「んだとぉぉぉ!? てめぇ、俺様にそんなことすればっ! このアルリナは廃墟になるぞぉぉぉ!」
「脅しとはいえ、自分の生まれ育った町を廃墟にするなどと口に出すとは……父君も父君だったが、息子のお前は輪をかけて愚かと見える」
「のいふぁぁぁん、てめぇ~。てめぇ~、てめぇ~、よくも俺様にそんな口をっ。親父と付き合いの長いてめぇの顔を立ててやってたが、もう許さねぇ。全面戦争だ! 傭兵が戻ってきたら真っ先にてめぇを八つ裂きにしてやる!」
「お前の頼みの綱であるその傭兵たちは、さきほど東門前で降伏したという報告を受けている」
「……なに?」
「今宵、お前の傭兵たちの大部分が古城トーワに向かうという情報を得ることができ、彼らが東門を通ったあと、固く門を閉ざし、兵を配置した。如何に戦上手の傭兵どもも、門を閉ざされ、門の上から数百の弓兵に矢をつがえられ、さらに頭であるお前を押さえられれば為す術もないだろう」
「え、馬鹿な。なぜ?」
「それはこのケントが要請したからだ」
私はギウとエクアにサッと手を振り、ギウをチラリと見た。
ギウはコクリと身体を前に動かし、エクアを守るようにここから離れていく。
呼応するようにノイファンも一人の戦士を残し、他の者たちを下がらせた。
私は残った大剣を背負う戦士を見る。
するとノイファンが、『彼は大丈夫です』と答えてきた。
彼はこれから話す会話を聞かれても問題ないと言えるくらい、信頼されている戦士のようだ。
私は瞳を戦士からムキに向ける。
「さて、ここからは種明かしとなるが……どこから話すか?」
「最初の一手からお話してみては? ムキは商売に関しては勘が鋭いのですが、自分が罠にはめられたときは存外鈍いようですから」
「そうですね、では……」
ここからはムキが行った過ちと、私が打った布石をほどいていく。
私たちはムキを縄で縛り、倉庫から出て、堂々と正面玄関から外へ出た。
外へ出た途端、警備が私たちに気づき、剣を抜いて囲み始めた。
私は剣をムキの首元に当てて、彼らに近づくなと命令する。
「近づけば、ムキの命はないぞ!」
ムキに剣を当てつつ、私たちは警備たちの間を歩く。
その様子にムキは下卑た笑いを漏らした。
「ケケケケッ、無駄だぜ無駄。ここからどこに逃げようってんだ? 俺様には傭兵がいる。あいつらが戻ってきたら、ケント! てめぇはおしまいだ!!」
「ふぅ、無駄にデカい声だ。それでは外まで聞こえるぞ。ま、こちらとしては好都合だが」
「なに? ん?」
彼は何かに気づき、正面の門に目を向けた。
門の向こうからは無数の蹄の音と、幾百もの声が聞こえてくる。
音を耳に入れたムキは夜のアルリナの町を叩き起こすが如く、我が城のニワトリ顔負けの大きな声を上げて笑う。
「クケ~ケッケッケ! ナイスなタイミングだぜ! 傭兵たちが戻ってきやがった! ケント、泣きを入れるなら今の内だぞ! 今なら真昼間の町中で素っ裸なり豚の真似をするだけで許してやるよ。もちろん、そこのガキを含めてな!」
「申し訳ない。私は婦人の前で肌を晒すことはあっても、不特定多数の前で晒す趣味はない」
「ケッ、イケ好かねぇ。だが、そんな態度が取れるのも今だけだぜ!」
「残念ながら、それは私のセリフだ」
「なんだと?」
私は正面の門に顔を向ける。
門は今まさに開こうとしているところ。
門の向こうからは多くの者たちの熱気が入り込んでくる。
「ムキよ。あれが傭兵ならば、少しばかり戻ってくるのが早いと思わないのか? 彼らが古城トーワに向かい、私の不在を確認して急ぎ戻ってきても、半日以上は掛かる」
「え? そうだが……それじゃ、あいつらは?」
ムキは門に目を向ける。門の向こうには無数の影。
影が門をくぐり、私とムキ。そして、ギウとエクア。警備たちの目に映ったものは……。
「我々は商人ギルドの兵士とアルリナの警吏である! 屋敷内にある者たちは武器を捨て投降しろ!」
彼らは門が開くと同時に、堰を切ったようになだれ込んできた。
そして、屋敷の警備兵たちに武装解除を命じている。
何が起こったのか理解が追いつかぬムキは、口をぽかんと開けて間抜け面を晒していた。
「な、ん、だ……あん?」
私は惚けた阿呆を無視して、正面から複数の兵士を携え歩いてくる初老の男性に軽い会釈を行った。
「お初にお目にかかる。私は古城トーワの領主、ケント。一度の挨拶も無し、急な要請を受けていただき感謝いたします」
「こちらこそ、挨拶を疎かにして申し訳ない。私は商人ギルドの長を預かっている、ノイファン。あなたは要請と申しますが、こちらからすれば……協力と相成りましょうか」
男は目尻にある細かな皺を深くし、細めるような目でにこやかに微笑んだ。
僅かに白髪の混じる頭髪と、がっしりとした身体を持つ浅黒の老人。
これが、アルリナの真の支配者であるノイファン……。
ここまで来ても状況がわからぬ愚かなムキは、目の前のノイファンに噛みつく。
「どういうことだ、ノイファン! 何故、無断に俺様の屋敷に兵士を入れた!?」
「決まっている。港町アルリナから悪党を排除するためだ。ムキ=シアン、お前の両手に縄をかける」
「んだとぉぉぉ!? てめぇ、俺様にそんなことすればっ! このアルリナは廃墟になるぞぉぉぉ!」
「脅しとはいえ、自分の生まれ育った町を廃墟にするなどと口に出すとは……父君も父君だったが、息子のお前は輪をかけて愚かと見える」
「のいふぁぁぁん、てめぇ~。てめぇ~、てめぇ~、よくも俺様にそんな口をっ。親父と付き合いの長いてめぇの顔を立ててやってたが、もう許さねぇ。全面戦争だ! 傭兵が戻ってきたら真っ先にてめぇを八つ裂きにしてやる!」
「お前の頼みの綱であるその傭兵たちは、さきほど東門前で降伏したという報告を受けている」
「……なに?」
「今宵、お前の傭兵たちの大部分が古城トーワに向かうという情報を得ることができ、彼らが東門を通ったあと、固く門を閉ざし、兵を配置した。如何に戦上手の傭兵どもも、門を閉ざされ、門の上から数百の弓兵に矢をつがえられ、さらに頭であるお前を押さえられれば為す術もないだろう」
「え、馬鹿な。なぜ?」
「それはこのケントが要請したからだ」
私はギウとエクアにサッと手を振り、ギウをチラリと見た。
ギウはコクリと身体を前に動かし、エクアを守るようにここから離れていく。
呼応するようにノイファンも一人の戦士を残し、他の者たちを下がらせた。
私は残った大剣を背負う戦士を見る。
するとノイファンが、『彼は大丈夫です』と答えてきた。
彼はこれから話す会話を聞かれても問題ないと言えるくらい、信頼されている戦士のようだ。
私は瞳を戦士からムキに向ける。
「さて、ここからは種明かしとなるが……どこから話すか?」
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