銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
50 / 359
第五章 善のベールを纏う悪人

エクアの描いた絵だからこそ

しおりを挟む
 耳を塞ぎ、ガタガタと震え続けるエクアを抱きしめ、私は優しく彼女の名を呼ぶ。


「エクア……」
「ケント、さま。わたしの絵はご――」
「そのようなことを口にするな。ファン第一号の私の立場がないだろう」
「え?」

「忘れたのか? 私が一目見て気に入ったのは、エクア、君の絵だ。サレート=ケイキの物真似の絵ではない。エクアの描いた海の絵、港の絵が気に入ったのだ」
「ケント様……」

「エクアの絵は世界の広さを感じさせることのできる素晴らしい絵だ。絵からは見えるはずのない、海の先にある世界を、町の姿を思い起こさせてくれる。創造と未来の絵だ。私はそんな君の絵に感動したのだ」
「う、うう……ケント様、ケント様、ケントさま~」

 エクアは私の胸に顔を埋めて、涙交じりに私の名を呼び続ける。
 私はそんな彼女を包み込むように抱きしめた。
 これ以上、エクアが穢されないように。

 そう、少女の悲しみの涙を知りながらも、口から汚物を垂れ流し続けるムキから穢されないように……。


「ケケケ、下らねぇ。感動ですか~? ばっかじゃねぇの~? 何がファン第一号だ? てめぇらがどんな美しい茶番劇を広げても、このガキの絵はゴ、がはぁっ!?」

 ギウが、銛の柄頭で彼の腹部を殴りつけた。
 ムキは口汚い言葉を出すことができず悶えているが、腹部を押さえながらも私にニヤついた顔を見せて、音のない言葉を呪い語のように吐く。


 ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、と……。


 私は優しくエクアを覆っていた手のひらを拳の姿に変える。
 だが、エクアのすすり泣く声……そして、状況を見極めることもできず無知なる笑いを上げる男を憐れみ、私は冷たさの宿る拳を再び暖かな手のひらに戻し、彼女を抱きしめた。

 ムキは私の姿を見下すようにこう言い放つ。
「玉無しがっ」



――しばらくの間、エクアを宥め続け、少し落ち着いて来たところを見計らい、声を掛ける。

「大丈夫か?」
「は、はい、ごめんなさい。取り乱してしまい。ケント様のお洋服まで汚してしまって」
「ふふ、構わないさ。乙女の涙のハンカチになれたのならば、ブラウスも本望だろう」

「ケッ、吐き気のするくせぇセリフだぜ」
 私とエクアの語らいを不粋な声が邪魔をした。
 私は軽く息を吐いて、エクアの手を取ろうとする。
 しかし彼女は、手のひらを私に見せて自分で立てると意思表示を見せた。
 エクアの強い意志を見た私は、少しだけ安堵する。
 

 私はエクアと共に立ち上がり、ムキにゆっくりと身体を向けた。

「私は、お前のようなクズを見たことがない」
「はん、そいつはどうも。珍しいものが見れたんだ、礼ぐらい言えよ」
「ほんと、口だけは達者だな。小悪党の分際で」

「ケッ、女のために俺様を殴りつけることもできねぇ、玉無しから言われたくねぇぜ」
「私は女性の前で格好をつける為に暴力を振るうような男ではないからな。それに、今のお前を殴ることは私の信条に反する」

「あん? 何を言ってんだかさっぱりわかんねぇな。結局、俺様にビビって殴れなかっただけだろ?」
「私がお前を恐れる? 何故なにゆえに?」


 この問いに、ムキは口端をこれでもかと捻じ曲げた。

「俺様には五百の傭兵がいる。あいつらが戻ってきたらてめぇらは終わりだ。だが、そうならねぇように、人質の俺様に手を出せねぇんだろ?」
「ふふ、どうやらお前も脚本家としては二流のようだ」
「なに?」

「お前の考えには矛盾があるぞ。なぜ、ギウはお前を殴れた? お前の傭兵団を恐れているなら、ギウはお前を殴ったりしない」
「それは……ギウの考えなんかわかるかよっ。こいつらとは意思の疎通なんてまともにできねぇんだからよ。とにかくっ、俺様には傭兵がいる! 俺様に万が一のことがあれば、てめぇらはただじゃすまねぇ!!」


 倉庫に木霊する勝利宣言のような響き。
 たしかに、ムキの言うとおり、傭兵の存在は大きな問題だった。
 彼らをどう押さえ込むか……だが、すでにその策は講じている。
 それは、あの無骨そうな戦士の助けなどではない。
 彼の助けなどなくとも、私は傭兵たちを投降させる策を持っている。


 私は瞳から熱を捨て去り、ゆっくりと冷たく語りかける。
「お前の拠り所が傭兵たちなのはわかっている。だからこそ、このような状況でも尊大な態度を崩さないのだろう。だが、その希望は絶望に塗りつぶされことになるだろうな」




――港町アルリナと古城トーワとの間にあるマッキンドーの森


 無骨そうな戦士は馬上にて、兄貴分である小柄な戦士へ自分が把握できる限りの全てを伝えていた。
 話を聞き終えた兄貴分は無骨そうな戦士の胸ぐらを掴み、激高する。

「お前……ムキ様を裏切ったのか!?」
「兄貴、状況を考えてくれ。もはや敵はケントだけじゃないんだ! もう、これ以外で俺っちたちが助かる道はない!!」
「だからって、拾ってもらった恩義を忘れてっ!」
「兄貴! 自分の恩義のために仲間たちを死なせるの!?」
「それは……クソッ!」


 小柄な戦士は太ももを強く拳で打つ。そして、押し黙ってしまった。
 闇と静寂が支配する森の中……無骨そうな戦士は大切な兄貴へ寂しげに言葉を掛けた。

「これは俺っちが勝手にやったこと。兄貴が罪意識を感じる必要はないよ」
「感じるさ!!」
「兄貴?」

「賢くて優しいお前のことだ。どうせ俺のことを考えてのことだろ。不甲斐ねぇ!」
「ごめん、兄貴……」
「謝るんじゃねぇ! それで、これからどうすればいい?」
「アルリナの東門へ戻ろう…………白旗を掲げて」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...