銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
49 / 359
第五章 善のベールを纏う悪人

捨てられた心

しおりを挟む
――ムキの屋敷・一階倉庫


 倉庫は屋敷一階西側にあった。
 簡素な木の扉を開けると、数段の石階段。窓はない。
 足元に気をつけながら階段を降り、ギウにムキの見張りを任せ、私は手持ちランプを頼りに室内のランプに明かりをともしていく。

 蝋燭に明かりがともされるたびに、室内に佇む彫刻たちのシルエットが形を変えながら浮かび上がっていく。
 彫刻のそばには様々な種類の絵画や宝石などの装飾品が置かれていた。
 それらを見て、エクアが小さく声を跳ねる。

「ここにあるのって、全部。そんな……」
「まさか、偽物か?」
「はい……あ、あれはっ!?」

 彼女は言葉を返すと、すぐに何かに気づく。
 どうやら、倉庫内に置かれた絵画に混じってエクアの描いたサレート=ケイキの贋作が数点あったようだ。
 彼女はその絵に駆け寄り、絵を抱きしめ、小さく言葉を零す。


「私の絵……私の過ち……サレート=ケイキ先生、ごめんなさい」
 小さな少女は肩を震わせる。
 自分が犯した罪の重さと、憧れであった先生を裏切ってしまった行為を悔いている。
 それがたとえ、知らなかったこと、気づき避けられなかったことだとしても、エクアは瞳から後悔を零す。


 私は罪を悔いる少女から目を離し、業深きあれど尚、不敵な笑みを見せ続けるムキに顔を向けた。

「彼女の絵はここにあるだけか?」
「ああ。売っちまったのまでは知らんけどな」
「取引相手の名簿ぐらいあるだろ?」
「そりゃな。だけどあったからってどうするんだ? 取り戻す気かよ? そんなことしたらそのガキ、贋作者として名が広まっちまうぜ。キキキッ」

 ムキは腐臭の混じる耳障りな甲高い笑い声を上げた。
 私は銀の瞳を見開き、汚物を吐き出し続ける顔を睨みつける。

「そのようなことはお前が心配することでない。私はお前よりも賢いのでな」
「あ、う……チッ」
 彼は瞳に怯え、口先を震えさせたが、小さく舌を打つことで辛うじて悪党としての面子を保つ。
 私は瞳から穢れを拭う仕草を見せて、エクアへ向き直った。


「エクア、何も心配する必要はないぞ。全てを解決……とは約束できないが、君が困るような事態にならぬよう最大限努めるつもりだ」
「…………」
「ん、エクア?」

 エクアからの返事はなく、彼女は部屋の隅を見つめている。
 彼女は死人のような力のない足取りで隅へと歩いていく。
 そして、隅に置いてあった廃材入れの前でへたり込み、声を震わせた。


「そ、そんな、そんな……私の、絵が……」
「エクア? ギウ、ムキを見張っていてくれっ」
 
 エクアのただならぬ様子に急ぎ傍に寄った。

「エクア……?」
 そっと、彼女の名を呼ぶ。
 エクアは美しい新緑の瞳を涙で溺れさせて、私へ振り向く。
 そして、涙を零した……。

「私の絵が、捨てられてる……」
「何っ!?」

 その言葉を最後に、糸の切れた人形の如く彼女はがくりと頭を落とした。
 私は一瞬、彼女を支えるべきか悩むが、彼女を追いやった存在の確認を急ぐことにした。
 そこで私が見たモノは……。


「これは……エクアの、本物のエクアの絵……」

 部屋の隅に置いてあった廃材入れには、海や港が描かれたエクアの絵が破かれ壊され、無造作に放り込んであった。
 
「なぜ、このようなことを……?」
 この問いに、背後から馬鹿笑いが響く。

「ケケケケケッ! 何故もクソもねぇだろ! このガキの価値は贋作の絵だけにあんだよ! なのによ、自分の絵を買ってくれないと贋作を渡さねぇとか言ってたそうじゃねぇか。だから仕方なくゴミを買い取って、価値ある贋作を引き取ったってわけさ!!」
「ごみ……」

 エクアが小さく言葉を零す。
 とてもとても小さな音のはずなのに、ムキの耳には愛を囁く声よりもはっきりと届いていた。


「ああ~、ゴミだゴミ! てめぇの絵はゴミだ! 毎度毎度ゴミを押し付けられ、処分するのが大変だったぜぇ、ケェ~ケッケッケ!!」
「そ、そんな、わたしのえ……」

「何が、わたしのえ、だっ。ば~か、お前に絵の才能があると本気で思ってたのかよ? 評価してもらえたと思ってたのかよ? ケケケ、腹がいてぇ…………いいか、よ~く聞けよ。お前の才能は、サレート=ケイキの絵を模倣すること。そう、偽物を描くことだけだ……」

 ムキは大声で喚き散らしたかと思えば、急に言葉を沈めていく。
 そして、とても暗く冷たい言葉を放った。


「大人しく贋作だけを作り続ければ飯は食えたものの。もっとも、その贋作も北の目利きのある連中には通じねぇこともあったからな。絵の才能なし! んでもって、贋作者としても二流! お前の絵は誰の心にも響かなかったってことだ。つまり、ゴミだ。だから捨てた。わかるか? わかるよな? ケケケケケケッ」

「あ、ああ、あああ、そんな、そんな……」


 エクアは両耳を押さえて、ムキの声にあらがった。
 だが、無情にも声は耳奥を震わし、心を傷つけていく。
 私は小刻みに震えるエクアの傍により、彼女をそっと抱いた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...