銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
126 / 359
第十二章 唸れ商魂!

キャビットの親分

しおりを挟む
 二人のキャビットに案内されて、彼らが住んでいる集落に訪れた。

 集落は森の木々が重なり合う枝によって暗く閉ざされていたが、魔力の宿る光子が漂い、淡い緑の世界を広げる。
 光子は宵闇に浮かぶ蛍のようにふわりふわりと浮かび、蛍たちはランプよりも柔らかい光を表し、月明かりよりも世界を明るく照らす。

 
「不思議な光だ」
 そう、呟くと、弓を背負ったキャビットと魔導の杖を持ったキャビットが答えを返してきた。

「世界に溶け込むレスターに魔法の光を宿して浮かべてるんだぜ、でございますニャ」
「私たちは暗い方が落ち着けるの、でありますニャ。だから、森の闇に抱かれ、かすかな光を毛布にして休むのよ、でありますニャ」
「たしかに、落ち着けそうな場所だ」

 
 この世と切り離されたかのように、静かで優しい光とゆったりとした時間が流れる場所。
 私は蛍のように舞う光子を目で追う。
 その視線は、先にある建物たちを捉えた。

 建物は全てキノコの形をしている。
 形は同じだが、屋根の色や模様は千差万別。
 黄色の屋根に丸い斑点のあるものや、赤い屋根に格子状の網目があるもの等々。


「ケント様、親分はあっちのベェックマッシュルームでお待ちだぜ、でございますニャ。ベェの部分は舌を弾くように発音してほしいぜ、でございますニャ」

 そう言われ、集落の奥に視線を投げると、ひときわ大きなキノコの家が目に入った。
 私たちは彼らから親分と呼ばれている、キャビットのおさ・マフィン=ラガーに会うために足を、ベェックマッシュルームへ向けた……舌を弾く発音は意外と難しい。

 
 そこへ至るまで、幾人ものキャビットたちを見かけた。
 彼らの半数以上が、体中にガーゼを張り付けたり包帯を巻いたりとして、抜け落ちた毛を隠している。
 私たちが視線を向けると包帯姿を恥じてか、家の陰や木々の陰に姿を隠した。
 その様子を見て、魔法使いのキャビットが悲し気な声を上げてくる。


「感染が広まってみんな困ってるの、でありますニャ。にゃから、早く助けてほしいのよ、でありますニャ」
 彼女はそう言って、三角帽を深く被り、目を覆った。
 姿を見られる仲間たちの恥辱を思っての所作だろう。
 私たちも、周囲のキャビットに視線を向けないようにして屋敷を目指すことにした。


 屋敷の前に訪れて、それを観察する。
 外壁には無数の肉球スタンプが押され、キノコの屋根には巨大な猫の目が一つ、ギラリと輝いていた。

 私がちらりと瞳を見る。瞳はぎょろりと私を見つめ返し、なぜか目元を赤く染めている。
 どうも、瞳は生きているようで、なにやら好意を持たれている気がするが……気のせいということにしておこう。


 生きた目玉がくっついた奇妙な屋根を乗せる壁の材質もまた、奇妙なもの。
 壁に手のひらを当てる。ふわっふわの感触が手のひら全体を覆う。

 フィナはナルフを浮かべ、壁の材質や巨大な瞳を調べ始めた。
「壁の表面は繊維? 内面には細粒さいりゅうの物質? 瞳は生命体……いや、家そのものが生命体? なんなのこれ?」
「俺たちキャビットが生み出した、家型人工生命体だぜ、でございますニャ」

「生み出した!? ちょっと、それ詳しくっ」
「企業秘密だぜ、ございますニャ」
「そこを何とか? ね、だめ?」
「仕方にゃいニャ~」

 弓使いのキャビットが腰から算盤を取り出して珠を弾き始めた。
「にゃ、にゃ、にゃっと。これだけ出すなら教えてあげるぜ、でございますニャ」
「どれどれ……うっ! 高くない?」
「金がないなら、一昨日きやがれ、でございますニャ」


 弓使いのキャビットは言葉遣いこそおかしくあるが、丁寧に頭を下げてフィナの好奇心を追い払った。
 フィナはそれでも食い下がろうとしているが、私はそれに釘を刺す。


「個人の好奇心はあとにしろ。まずは優先すべきことがあるだろう」
 私は集落へ顔を向ける。
 そこにはこそりとこちらを窺う、包帯をしたキャビットたち。
 フィナは彼らの苦しみを受け取り、言葉を返した。

「そうね、まずはやるべきことをしてからよね」


 雑談を切り上げて丸い扉の玄関に近づく。
 すると、丸い扉は中心から外へ向かって自動で開いた。
 屋敷内の廊下もまた壁と同じように柔らかく、少々歩きにくい。
 足を取られながらも奥へ進み、キャビットのおさ・マフィン=ラガーが待つ部屋へと入った。

 入るとすぐに、案内をしてくれた二人のキャビットは足を速め、おさを挟むように立つ。
 そして、彼らの中心に座る『長・マフィン=ラガー』が挨拶をしてきた。


「よく来やがったニャ。トーワ領主ケント殿一行。俺がマッキンドーの森を治める、マフィンだニャ」


 彼は卵を半分に切ったような椅子に腰を掛けて、私たちを出迎えた。
 体は他のキャビットよりもかなり大きく、背は私より少し高いくらいだ。
 横幅も大きく、全身の毛は長めのふかふかで衣装は纏っていない……裸? になるのだろうか? 代わりに、ふかふかの毛で覆われているわけだが。
 毛の色は焦げ茶色。その毛に混じり、顔や手足に筋のような黒の斑点を持っている。

 瞳は青色でやや釣り目。
 私は彼のおなかに目を向ける。
 おなかの部分は茶色ではなく、真っ白でふっかふか……飛び込みたい。
 その誘惑に耐えて、彼に言葉を返した。


「会談を受けていただき感謝いたします。早速ですが、本題に入った方がよろしいでしょう」
 私は軽く後方へ視線を振った。
 視線の先にあるのは集落。そして、病気に苦しむキャビットたち。
 その意味を読み取り、マフィンは答えを返す。

「フン、そうだニャ。余計な言葉を並べでこれ以上恥をかくのはごめんニャ。お前ら、薬を持ってるんだってニャ?」
「ええ」
「見返りは何ニャ?」
「アルリナとの交流の再開と、今後の良き関係のため」
「わざわざアルリナのために動いてるのかニャ? それだけじゃないだろうニャ?」

「ええ。最近はアルリナに世話になることが多く、ここで恩以上のものを返したいと考えています」
「にゃるほどニャ。そこで、俺たちが苦しんでいる弱みにつけこもうってわけニャね」


 マフィンは青い猫目をギラリと輝かせ、光に殺気を籠める。
 私はそれを微笑みで受け流す。

「双方にとって、有益。そうであれば、腹の中身など問題ないでしょう。中身が猛毒でなければ」

「ほ~、なかなか面白い奴ニャ。てっきり、下らぬ口上を並べて言い訳するものかと思ったニャが。いいニャろう。こっちも腹の中身を気にせず取引を行おうニャ。ケント殿、いやケント。そちらも格式ばった言葉はいらないニャ」
「ふふ、そうか。そうであるならば、こちらも楽にしよう。皆も」

 まだまだ緊張感のあるやり取りの最中だが、皆はひとまず肩から緊張を下ろす。
 そこに、案内をしてくれた二人のキャビットがマフィンに疲れの籠る声を漏らしてきた。


「おやぶ~ん、俺たちも普通でいいニャよね~?」
「そうニャ。もう、敬語を使い過ぎて病気じゃなくてもストレスで毛が抜けそうニャ~。ございます~、あります~、もういやニャ~」

「まったく、こいつらは。ケント、悪いがこいつらも礼儀抜きでかまわにゃいか?」
「ああ、構わない……いま、敬語、と言ったか?」
「言ったが、どうしたニャ?」
「いや、とくには」
 
 と、言いつつ、私は皆に視線を振る。
 皆もまた私と同じことを思っていたようだ。

『あれって、敬語だったんだぁ~』、と。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

処理中です...