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第十二章 唸れ商魂!
切り開く商魂
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挨拶を終えて、フィナとカインは早速病気で苦しんでいるキャビットのもとへ向かった。
私とキサは屋敷に残り、マフィンと会話を続ける。
「さきほど、私はアルリナへの恩返しと言ったが、それ以上にあなた方と交流を深めたいと思っている」
「理由は何ニャ?」
「流通を担うキャビットとの関係構築。今後のことを考えると、これほど大事なことはない。私のもとには錬金術士に医者がいる。彼らの力を最大限に発揮するためにも、あなた方とのつながりが必要だ」
「それを発揮して、どうするつもりだニャ?」
「トーワの発展。マフィンから見れば、馬鹿馬鹿しいことだろうが」
「いや、そうは思わないニャ。たしかに、お前のところには何もないニャ。にゃが、領主として自分が治める領地の発展を望まないなどありえないニャ。そして、少なくともケントには示せるものがあるニャ」
「示せるもの?」
「そうニャ。アルリナとワントワーフと関係を良好に結び、人材は少ないものの優秀な者がいるようニャ」
マフィンはちらりと集落に視線を振って、私に戻す。
「少数精鋭でどこまで頑張れるか見ものニャ」
「私はマフィンの娯楽扱いか?」
「にゃははは、若者が挑戦する様は年寄りの娯楽ニャよ」
「年寄り?」
「こう見えても、俺はもうすぐ百歳ニャ。人間族にすると五十くらいだけどニャ」
「ネオ陛下といい、どうして年寄りは若者を遊び道具にするのか……」
「ケントも年を取ったらわかるニャ。さて、本題に話を戻すにゃが、アルリナの関係を戻すのはあまり乗る気じゃないニャ」
「どうしてだ?」
「確かにムキは俺たちに仇をなしたニャ。にゃが、それはアルリナのギルド連中も同じニャ。あいつらはムキを隠れ蓑にして、俺たちの商売を邪魔したニャ。それは許せないことニャ」
「なるほど、問題はムキだけではなかったということか」
そうなると、再交流はかなり難しい。
一番手っ取り早く事を済ませるならば、ノイファンに頭を下げさせればいいだけだが、そんなことできるはずがない。
町の代表としておいそれと頭を下げるわけにはいかないし、下げればムキの後ろに隠れて悪事を行っていたと認めてしまうことになる。
これは面倒だな……と思っていると、キサが横から口を挟んできた。
「恨みは儲けを減らすことになるよ~」
「キサ?」
「商売において、感情を重視すると大切な時を失う。これはキャビットの教えだったと思うけど?」
「キサっ、言葉が過ぎるぞ」
「いや、ケント。構わんニャ。それで、ちっちゃな嬢ちゃんはキャビットの俺にどんなご高説を聞かせる気ニャ?」
マフィンは身体をのそりと前のめりにして、キサを覆うような姿勢を取った。
だが、キサは恐れることなくはきはきと言葉を発する。
「恨みを感謝で染めてしまえばいいんだと思うよ~」
「感謝? 面白い、続けろニャ」
「ねぇ。領主のお兄さん。いま、森のどこかに魔族がいるんだよね?」
「ああ、それについても後でマフィンと意見交換するつもりでいたが、それがどうした?」
「だったら、キャビット族で魔族を退治してしまえばいいんだよ。そうしたら、感謝の思いを伝える場所が作れるでしょ。そこから仲直りの準備をすればいいと思うな~」
「なるほど、直接的な関係再開ではなく、別の入り口からの新しい関係構築ということか。キサは賢い子だな」
「えへへ~、ほめられちゃった」
「しかし、それはそれで問題はあるが……」
私は顔をマフィンへ戻す。
彼は猫ひげを爪先でつまみ伸ばしながら、こう言葉を返した。
「魔族の相手となると、こっちもかなりの被害を覚悟しなきゃならニェ~。それに魔族は俺たちの住む森にいて、周りの種族はまだ脅威を自分のものと認識していニャい。そんな状況で魔族退治をしても、アルリナの連中が感謝なんぞするわけがにゃいニャ」
「マフィンの言うとおりだ。アルリナは魔族をそれほど恐れていない。現在、アルリナは盗賊団の方を注視しているくらいだからな」
ノイファンとの会合で、そういった話を聞いた。
ギルドの多くが魔族よりも商売優先で、街道沿いに出没する盗賊団の方がよっぽど面倒だと見ている。
魔族の脅威を忘れたアルリナにとって、魔族など些末な出来事にすぎないのだ。
だが、キサは諦めずに更なる提案を行う。
「それじゃ盗賊団を退治するのはどう、マフィン様?」
「盗賊団はカルポンティの近くに根城があるって話ニャ。俺たちでどうこうできる場所じゃにゃいニャ~……情けにゃい話だが、ムキがアルリナを牛耳っていたころは盗賊団などでにゃかったんだがニャ」
「ほぅ、そうなのか?」
「ああ、あいつは種族共用の街道自体も自分の縄張りのように扱ってたからニャ。にゃが、その分きっちり仕事をしてやがったニャ。しかしニャ、ノイファンは港ばかりに目が行って、あんまり街道に興味がにゃいのニャ」
「街道もまた、大事な商売を行う場だろうに、なぜ?」
「貿易だけで十分潤ってるからニャ。それに盗賊の根城がカルポンティ近くにあるから、カルポンティに任せるつもりニャろ。にゃけど、現在カルポンティは災害の復興の真っ最中で、盗賊団に手が回せないニャ」
「アグリスからは?」
「アグリスから見れば半島との商売は大した儲けににゃらないから、こちらで勝手にしろってところニャ。そのくせ、俺たちが退治を申し出ると、カルポンティへ立ち入ることは禁じてるニャ」
「縄張り争いが先行して、その狭間で盗賊が上手く動いているわけか」
「まったく、アグリスと関係が深いアルリナが強く働きかけてくれればよいニャが、ノイファンは借りを作るのを嫌がって商機を失ってるニャよ。これだから人間族の商売人は……」
マフィンは商売よりも、恩の貸し借りや縄張り争いに興じる人間族の行動に辟易と、もふもふの両手を上げて、ふわふわの毛で覆われた首を横に振った。
だが、彼の前に立つ、一人の少女。
人間族の商売人の少女が、褒め輝く策を打ち出す。
私とキサは屋敷に残り、マフィンと会話を続ける。
「さきほど、私はアルリナへの恩返しと言ったが、それ以上にあなた方と交流を深めたいと思っている」
「理由は何ニャ?」
「流通を担うキャビットとの関係構築。今後のことを考えると、これほど大事なことはない。私のもとには錬金術士に医者がいる。彼らの力を最大限に発揮するためにも、あなた方とのつながりが必要だ」
「それを発揮して、どうするつもりだニャ?」
「トーワの発展。マフィンから見れば、馬鹿馬鹿しいことだろうが」
「いや、そうは思わないニャ。たしかに、お前のところには何もないニャ。にゃが、領主として自分が治める領地の発展を望まないなどありえないニャ。そして、少なくともケントには示せるものがあるニャ」
「示せるもの?」
「そうニャ。アルリナとワントワーフと関係を良好に結び、人材は少ないものの優秀な者がいるようニャ」
マフィンはちらりと集落に視線を振って、私に戻す。
「少数精鋭でどこまで頑張れるか見ものニャ」
「私はマフィンの娯楽扱いか?」
「にゃははは、若者が挑戦する様は年寄りの娯楽ニャよ」
「年寄り?」
「こう見えても、俺はもうすぐ百歳ニャ。人間族にすると五十くらいだけどニャ」
「ネオ陛下といい、どうして年寄りは若者を遊び道具にするのか……」
「ケントも年を取ったらわかるニャ。さて、本題に話を戻すにゃが、アルリナの関係を戻すのはあまり乗る気じゃないニャ」
「どうしてだ?」
「確かにムキは俺たちに仇をなしたニャ。にゃが、それはアルリナのギルド連中も同じニャ。あいつらはムキを隠れ蓑にして、俺たちの商売を邪魔したニャ。それは許せないことニャ」
「なるほど、問題はムキだけではなかったということか」
そうなると、再交流はかなり難しい。
一番手っ取り早く事を済ませるならば、ノイファンに頭を下げさせればいいだけだが、そんなことできるはずがない。
町の代表としておいそれと頭を下げるわけにはいかないし、下げればムキの後ろに隠れて悪事を行っていたと認めてしまうことになる。
これは面倒だな……と思っていると、キサが横から口を挟んできた。
「恨みは儲けを減らすことになるよ~」
「キサ?」
「商売において、感情を重視すると大切な時を失う。これはキャビットの教えだったと思うけど?」
「キサっ、言葉が過ぎるぞ」
「いや、ケント。構わんニャ。それで、ちっちゃな嬢ちゃんはキャビットの俺にどんなご高説を聞かせる気ニャ?」
マフィンは身体をのそりと前のめりにして、キサを覆うような姿勢を取った。
だが、キサは恐れることなくはきはきと言葉を発する。
「恨みを感謝で染めてしまえばいいんだと思うよ~」
「感謝? 面白い、続けろニャ」
「ねぇ。領主のお兄さん。いま、森のどこかに魔族がいるんだよね?」
「ああ、それについても後でマフィンと意見交換するつもりでいたが、それがどうした?」
「だったら、キャビット族で魔族を退治してしまえばいいんだよ。そうしたら、感謝の思いを伝える場所が作れるでしょ。そこから仲直りの準備をすればいいと思うな~」
「なるほど、直接的な関係再開ではなく、別の入り口からの新しい関係構築ということか。キサは賢い子だな」
「えへへ~、ほめられちゃった」
「しかし、それはそれで問題はあるが……」
私は顔をマフィンへ戻す。
彼は猫ひげを爪先でつまみ伸ばしながら、こう言葉を返した。
「魔族の相手となると、こっちもかなりの被害を覚悟しなきゃならニェ~。それに魔族は俺たちの住む森にいて、周りの種族はまだ脅威を自分のものと認識していニャい。そんな状況で魔族退治をしても、アルリナの連中が感謝なんぞするわけがにゃいニャ」
「マフィンの言うとおりだ。アルリナは魔族をそれほど恐れていない。現在、アルリナは盗賊団の方を注視しているくらいだからな」
ノイファンとの会合で、そういった話を聞いた。
ギルドの多くが魔族よりも商売優先で、街道沿いに出没する盗賊団の方がよっぽど面倒だと見ている。
魔族の脅威を忘れたアルリナにとって、魔族など些末な出来事にすぎないのだ。
だが、キサは諦めずに更なる提案を行う。
「それじゃ盗賊団を退治するのはどう、マフィン様?」
「盗賊団はカルポンティの近くに根城があるって話ニャ。俺たちでどうこうできる場所じゃにゃいニャ~……情けにゃい話だが、ムキがアルリナを牛耳っていたころは盗賊団などでにゃかったんだがニャ」
「ほぅ、そうなのか?」
「ああ、あいつは種族共用の街道自体も自分の縄張りのように扱ってたからニャ。にゃが、その分きっちり仕事をしてやがったニャ。しかしニャ、ノイファンは港ばかりに目が行って、あんまり街道に興味がにゃいのニャ」
「街道もまた、大事な商売を行う場だろうに、なぜ?」
「貿易だけで十分潤ってるからニャ。それに盗賊の根城がカルポンティ近くにあるから、カルポンティに任せるつもりニャろ。にゃけど、現在カルポンティは災害の復興の真っ最中で、盗賊団に手が回せないニャ」
「アグリスからは?」
「アグリスから見れば半島との商売は大した儲けににゃらないから、こちらで勝手にしろってところニャ。そのくせ、俺たちが退治を申し出ると、カルポンティへ立ち入ることは禁じてるニャ」
「縄張り争いが先行して、その狭間で盗賊が上手く動いているわけか」
「まったく、アグリスと関係が深いアルリナが強く働きかけてくれればよいニャが、ノイファンは借りを作るのを嫌がって商機を失ってるニャよ。これだから人間族の商売人は……」
マフィンは商売よりも、恩の貸し借りや縄張り争いに興じる人間族の行動に辟易と、もふもふの両手を上げて、ふわふわの毛で覆われた首を横に振った。
だが、彼の前に立つ、一人の少女。
人間族の商売人の少女が、褒め輝く策を打ち出す。
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