銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
136 / 359
第十二章 唸れ商魂!

たすけて

しおりを挟む
 茂みが蠢き、彼女が戻ってきた。
 彼女は左手にナニカを掴み、引き摺っている。
 そして、そのナニカを私の足元に投げ捨てた。
 そのナニカとは……。


「この子は…………白い花をくれた、女の子……」

 街道で私に白い花をくれた女の子が無残にも引き裂かれ、血に染まっていた。
 光をなくした瞳が私を見ている。
 その瞳から目を逸らす。
 逸らした先にあったのは、茂みの奥に横たわる女性の姿。
 女の子の母親が、枯れ木のような姿となり、物言わぬ存在となっていた。
 
 それは、この魔族が体内に宿るレスターを吸血して喰ったからであろう。
 魔族は女の子の遺体を持ち上げ、私の口元へ持ってくる。
 魔族から立ち上る、むせ返る血の匂い。

 これは、私に花をくれた女の子の血の香り。
 とても可愛らしく、これから多くを経験し、素晴らしい明日を望んでいたはずの女の子っ。
 そんな女の子を、私に食せという!?

 今、感情に任せ、魔族に刺激を与えるのは馬鹿げたことだ。
 そう、馬鹿げたことっ――馬鹿げたことだとしても心は止まらない!!


「やめろ!!」
 無造作に女の子を掴んでいた魔族の手を振り払い、私は女の子を強く抱きしめる。
「この、化け物め! なんてことをっ!」
「がぁっ!!」


 魔族は激しく牙を剥き出す……少しでも、こいつを理解できるのでは? と思った私が愚かだった。
 少女から未来を奪い、それを食事として出すような奴を理解しようなんて!

 私は感情を爆発させて魔族を罵倒する。

「お前の目的なんだ!? 何がしたいっ!? 私を喰らうというならば喰らうがいい! こんな、こんな、こんなっ」

 私の両腕に納まる少女は首をだらりと真後ろに下げる。

「よ、よくも魔族めっ! どうした、私を食べないのかっ!? このっ、腐れ外道がっ!!」
「うが……うが……うがぁ~…………」

 魔族は一瞬、とても悲しそうな表情を見せた。黒い瞳を潤ませ、その瞳に私を映す。
 そして、数滴の涙を落としながら私に飛び掛かってきた。

「うがぁぁぁあぁぁぁぁ!」
「がはっ!」
 魔族に組み敷かれ、親指をにゅるりと右目に押し込まれそうになった。
 痛みが目の表面と奥に広がる。
 だがっ!?

(な、なんだ? これは?)
 魔族の親指から痛み以外の何かが伝わってくる。
 その何かが形作ろうとしたところで、彼女と彼の声が響き渡った。


「ケント!!」
「ギウギウ!!」


 フィナの鞭が魔族を吹き飛ばす。そして、ギウが銛を放った!
 私は思わず声を張り上げる。
「待て!」

 しかし、それは間に合わず、銛は魔族の胸を深々と突き刺し、彼女は砂に帰ってしまった。


「ケント、無事!?」
「ギウギウ!?」

 二人が駆け寄ってくる。
 よく見ると、後ろには親父やマフィンの姿もあった。
 フィナは女の子とその母親の遺体を目にして、怒りに体を震わせ、ギウは悲し気な雰囲気を纏う。

 私は彼らに礼を言い、肩を借りてこの場から離れる。
 去り際に、砂となってしまった魔族へちらりと視線を振った。


(彼女が右目を押さえた時、頭に流れ込んできた言葉。私の思い違いでなければ、あれは…………『たすけて』……)



――
 魔族に捕らわれた私だったが、皆のおかげで命を失うことなく無事だった。
 ギウとフィナのおかげで、半島から魔族の脅威はなくなった。
 しかし、行商人の夫婦の母方とその娘の命は守れなかった。
 生き残った父親は憔悴しながらも、仇を討ったフィナとギウに礼を述べて、それ以上の言葉はなく、妻と子を引き取り、アルリナへと去っていった。

 私たちもトーワへ戻る。
 そして、カインから治療を受けた。
 幸いのこと、わき腹の骨にひびもなく打ち身程度。
 カインの医者としての腕とエクアの治癒術のおかげで、数日程度の静養で済みそうだ。

 私はここ数日ベッドで横になり、あの時、頭に響いた声のことを考えていた。


――たすけて――

 
 あの声は本当に聞こえたのだろうか?
 それとも、痛みが生んだ幻聴だったのだろうか?
 時間が経てば経つほど、あの声はうつろい消えていく。

 だが、もし、あの声が本当に聞こえていたとしたら、なんだったのか?
 なぜ、私に聞こえた? 
 あれは銀の瞳を介して聞こえたように思える。
 この銀の瞳には私の知らぬ力が眠っているのか?
 
 魔族と意志を通わせる力があるのか?
 魔族と銀の瞳になんだかの結びつきが?

 それはあり得ない。この目は魔族なんかと関係ないはずっ!

 銀の瞳は少しだけ私を強くして、素早い動きが捉えられて、遠くが見れるだけのもの。
 いや、そう思いたいだけで、私には教えられていない秘密が?

 それになにより、あの魔族はなぜ、『たすけて』などという声が生んだのか?
 彼女は泣いていた。そして、助けを乞うていた。
 だけど、女の子を殺した。それを私に喰わせようとした。
 ぐるぐると回る、形のない謎。

 その謎を追おうとすると、わき腹に痛みが走った。
 意識が現実に戻り、いつかフィナが口にした言葉がよぎる。


『一つのことに頭を悩ませても、どうせ堂々巡りだしね。それなら他のことに意識を向けた方がお得だし』


「ふふ、今は彼女の言葉を借りておくか。わからぬことを悩んでも仕方がない。いつつ、わき腹は痛むが、歩くには支障なさそうだ。寝てばかりいても気が滅入る。少々、歩くか」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

処理中です...