銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
135 / 359
第十二章 唸れ商魂!

コミュニケーション可能?

しおりを挟む
「グッ……ここは?」


 痛みに起こされ目を開ける。
 私は痛むわき腹を押さえながら、周囲をゆっくり見まわした。
 目の前には開けた場所。背には大樹。
 周りは茂みに囲まれ、その奥には木々が乱雑に並んでいる。

「森か? マッキンドーの? 何が起こった?」
 私はわき腹から走る痛みに耐え、朧げな記憶を呼び起こす。


 フィナに名を強く呼ばれ、それに問いかけようとしたとき、横腹に衝撃が走った。
 次には女の子からもらった花が飛び散り、私は誰かに抱えあげられていた。
 その時、目に入ったのは……桃色の毛の魔族の背中。


「私は魔族に連れ去れたということか。一体、なぜ? いつっ!」
 痛むわき腹にそっと手のひらを置き、痛みが少しでも和らげないかとゆっくり深呼吸を行う。

「すーはー、折れてはなさそうだが、激しく動くのは無理だな。さて、どうする?」
 近くに魔族の気配はない。
 赤色の木漏れ日が森に降り注ぎ、そよ風が茂みを揺らす。

「もう、日が暮れようとしている。半日くらい気を失っていたということか。フィナは無事だろうか?」
 服の袖に残っていた、白い花びらを掴む。
「あの子のことだ。おそらく大丈夫だろう。それよりも、自分の心配をすべきだな」

 怪我を負い、満足に動くことすらかなわない。
 魔族がどこへ行ったのか知らないが、次に会えば、抵抗らしい抵抗もできず、喰われる。
「いや、まだ武器がある」
 私は花びらを胸のポケットに収め、代わりに弾丸を取り出そうとするが指先に痺れがあり、うまくいかない。
 そこに、正面の茂みが揺れ、奴が姿を現した。


「ぐがぁ~」


 全身を桃色の毛で覆われ、頭に角の生えた雌の魔族が、牙から涎をぽたりぽたり落としながら近づいてくる。
 私は恐怖に呼吸を止め、だたじっと魔族を見つめた。

 魔族は澱んだ黒の瞳で私を睨みつけたかと思うと、片手で頭を押さえ、その場を行ったり来たりと落ち着きのない様子を見せ始めた。

「うがぁ~、がぁ~、うぐぐ~」
「なんだ?」
 私の声に反応し、魔族はこちらをちらりと見るが、すぐに何度も頭を振りながらウロウロしている。
 その姿は、何かを訴えようとして悩んでいるかのような姿。
 私は魔族に、彼女に問いかけてみる。


「君は、何を考えている?」
「うが? がっ、がっ、がぁぁ!」

 彼女は両手を大きく振って声を張り上げた。
 言葉を訴えている、そう、私には見えた。

「すまない、君の声がわからないんだ」
「うがが、うがががぁ。うがぁ!!」

 空へ向けて咆哮を放つ。それは思いが伝わらずにイラついているようにも見える。
 私はそんな彼女の姿を見て、ある種の安心感を得る。
(よくわからないが、すぐに私を喰うつもりはないようだな)
 安堵に押され、息をつく。
 すると、息に混じり、腹が鳴った。

――グ~

 私はこの音がきっかけで、彼女が余計な思いを抱かないかと慌てて誤魔化す。
「違う、今のはだな、その、頼むから、妙なことを連想しないでくれよ」
 片手を前に出して、説得を試みる。
 すると彼女は、だらりと涎をこぼし、私の眼前に顔を近づけてきた。

「がぁ~」
「うっ」

 彼女から血腥ちなまぐさい香りが立ち上る。
 思わずむせ返りたくなるが、それをぐっとこらえて、息を止めた。
 しばらくの間、彼女は私を観察していたが、背中を見せて出てきた茂みに戻っていった。


「た、助かった? いや、助かってない。彼女が戻ってこないうちに、ここから、っ!」

 僅かに体を動かしただけ、わき腹に痛みが走る。
 とてもじゃないが逃げ出すなんて不可能のようだ。
「くそっ、このままでは……だが、もしかしたら」

 私は茂みを見つめる。
「なぜか彼女は、私とコミュニケーションを取ろうとしているように見える。もし、そうならば、何とか分かり合えるかもしれない」
 そう、感じていたのだが、次に彼女が茂みから現れた時、それがどれだけ遠いことなのかと思い知らされた……。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...