銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第十二章 唸れ商魂!

たすけて

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 茂みが蠢き、彼女が戻ってきた。
 彼女は左手にナニカを掴み、引き摺っている。
 そして、そのナニカを私の足元に投げ捨てた。
 そのナニカとは……。


「この子は…………白い花をくれた、女の子……」

 街道で私に白い花をくれた女の子が無残にも引き裂かれ、血に染まっていた。
 光をなくした瞳が私を見ている。
 その瞳から目を逸らす。
 逸らした先にあったのは、茂みの奥に横たわる女性の姿。
 女の子の母親が、枯れ木のような姿となり、物言わぬ存在となっていた。
 
 それは、この魔族が体内に宿るレスターを吸血して喰ったからであろう。
 魔族は女の子の遺体を持ち上げ、私の口元へ持ってくる。
 魔族から立ち上る、むせ返る血の匂い。

 これは、私に花をくれた女の子の血の香り。
 とても可愛らしく、これから多くを経験し、素晴らしい明日を望んでいたはずの女の子っ。
 そんな女の子を、私に食せという!?

 今、感情に任せ、魔族に刺激を与えるのは馬鹿げたことだ。
 そう、馬鹿げたことっ――馬鹿げたことだとしても心は止まらない!!


「やめろ!!」
 無造作に女の子を掴んでいた魔族の手を振り払い、私は女の子を強く抱きしめる。
「この、化け物め! なんてことをっ!」
「がぁっ!!」


 魔族は激しく牙を剥き出す……少しでも、こいつを理解できるのでは? と思った私が愚かだった。
 少女から未来を奪い、それを食事として出すような奴を理解しようなんて!

 私は感情を爆発させて魔族を罵倒する。

「お前の目的なんだ!? 何がしたいっ!? 私を喰らうというならば喰らうがいい! こんな、こんな、こんなっ」

 私の両腕に納まる少女は首をだらりと真後ろに下げる。

「よ、よくも魔族めっ! どうした、私を食べないのかっ!? このっ、腐れ外道がっ!!」
「うが……うが……うがぁ~…………」

 魔族は一瞬、とても悲しそうな表情を見せた。黒い瞳を潤ませ、その瞳に私を映す。
 そして、数滴の涙を落としながら私に飛び掛かってきた。

「うがぁぁぁあぁぁぁぁ!」
「がはっ!」
 魔族に組み敷かれ、親指をにゅるりと右目に押し込まれそうになった。
 痛みが目の表面と奥に広がる。
 だがっ!?

(な、なんだ? これは?)
 魔族の親指から痛み以外の何かが伝わってくる。
 その何かが形作ろうとしたところで、彼女と彼の声が響き渡った。


「ケント!!」
「ギウギウ!!」


 フィナの鞭が魔族を吹き飛ばす。そして、ギウが銛を放った!
 私は思わず声を張り上げる。
「待て!」

 しかし、それは間に合わず、銛は魔族の胸を深々と突き刺し、彼女は砂に帰ってしまった。


「ケント、無事!?」
「ギウギウ!?」

 二人が駆け寄ってくる。
 よく見ると、後ろには親父やマフィンの姿もあった。
 フィナは女の子とその母親の遺体を目にして、怒りに体を震わせ、ギウは悲し気な雰囲気を纏う。

 私は彼らに礼を言い、肩を借りてこの場から離れる。
 去り際に、砂となってしまった魔族へちらりと視線を振った。


(彼女が右目を押さえた時、頭に流れ込んできた言葉。私の思い違いでなければ、あれは…………『たすけて』……)



――
 魔族に捕らわれた私だったが、皆のおかげで命を失うことなく無事だった。
 ギウとフィナのおかげで、半島から魔族の脅威はなくなった。
 しかし、行商人の夫婦の母方とその娘の命は守れなかった。
 生き残った父親は憔悴しながらも、仇を討ったフィナとギウに礼を述べて、それ以上の言葉はなく、妻と子を引き取り、アルリナへと去っていった。

 私たちもトーワへ戻る。
 そして、カインから治療を受けた。
 幸いのこと、わき腹の骨にひびもなく打ち身程度。
 カインの医者としての腕とエクアの治癒術のおかげで、数日程度の静養で済みそうだ。

 私はここ数日ベッドで横になり、あの時、頭に響いた声のことを考えていた。


――たすけて――

 
 あの声は本当に聞こえたのだろうか?
 それとも、痛みが生んだ幻聴だったのだろうか?
 時間が経てば経つほど、あの声はうつろい消えていく。

 だが、もし、あの声が本当に聞こえていたとしたら、なんだったのか?
 なぜ、私に聞こえた? 
 あれは銀の瞳を介して聞こえたように思える。
 この銀の瞳には私の知らぬ力が眠っているのか?
 
 魔族と意志を通わせる力があるのか?
 魔族と銀の瞳になんだかの結びつきが?

 それはあり得ない。この目は魔族なんかと関係ないはずっ!

 銀の瞳は少しだけ私を強くして、素早い動きが捉えられて、遠くが見れるだけのもの。
 いや、そう思いたいだけで、私には教えられていない秘密が?

 それになにより、あの魔族はなぜ、『たすけて』などという声が生んだのか?
 彼女は泣いていた。そして、助けを乞うていた。
 だけど、女の子を殺した。それを私に喰わせようとした。
 ぐるぐると回る、形のない謎。

 その謎を追おうとすると、わき腹に痛みが走った。
 意識が現実に戻り、いつかフィナが口にした言葉がよぎる。


『一つのことに頭を悩ませても、どうせ堂々巡りだしね。それなら他のことに意識を向けた方がお得だし』


「ふふ、今は彼女の言葉を借りておくか。わからぬことを悩んでも仕方がない。いつつ、わき腹は痛むが、歩くには支障なさそうだ。寝てばかりいても気が滅入る。少々、歩くか」
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