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第十七章 頂へ続く階段の一歩
アグリスへ
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アグリスから返事が届き、彼らはギウや錬金術師のフィナについて、私の友人として同行することを認めた。
これを受けて、馬に乗れぬとも馬以上の足と持久力を持つギウ以外、全員が馬にまたがり、港町アルリナを経由して北へ延びる本街道を通り、アグリスを目指すことになった。
今はマッキンドーの森を通り、トーワからアグリスへの経由地であるアルリナに向かっている最中だ。
馬上の私の姿は、いつもの絹のブラウス姿に腰には剣と銃。マントはさすがに暑いので纏っていない。銃の弾丸はトロッカー製の弾丸。
古代人の弾丸は腰に携帯している小さな茶色のポシェットへ。
ポシェットには通常の弾丸も入っているが内部にポケットがあり、それを使い二種類に分けている。
一人で馬に乗れないエクアはフィナが操る馬の後ろに乗っている。
服装は青いワンピースに降ろし立ての真っ白なエプロンと、大きな茶色の肩掛け鞄。
馬の振動で水色の長い髪と赤と白の混じる髪が重なり合っている。
儚さの宿る白い肌を持つ少女が強い日差しに当てられ大丈夫なのかと不安になるが、普段から光の太陽テラスの下で絵を描いているので問題ないようだ。
現に、淡い緑の瞳に強い輝きが宿り、元気いっぱいの様子。
彼女のエプロンはいつものように絵の具塗れではないが、さすがにそのままの服装でアグリスの代表たちと会うわけにはいかない。
そういうわけで、アルリナでエクアの会談用の衣装を購入する。私の方はアーガメイト時代に着用していた儀礼用の貴族服があるので問題ない。
町で必要品を購入後、この日はアルリナの商人ギルドの長・ノイファンの屋敷を借りて一晩を明かす。
その際、ノイファンからこうアドバイスをもらった。
浅黒の肌と年寄りとは思えぬがっしりとした体を持ち、深く刻まれた皺から垣間見えるはずの弱々しさを微塵も感じさせぬ男は、声に千の針がついた警戒の言葉を渡す。
「油断されぬように。笑顔の下にどのような毒が隠されているかわかりません。そして、決してルヒネ派の教えを穢すことはないように……」
彼はアグリスの恐ろしさを芯から知っているようで、政治的な思惑抜きで私の身を案じてくれた。
親父の様子といい、アグリスとは一体どのような街なのだろうか?
アルリナを離れ、キャビット族の領地――マッキンドーの森を東に置いた本街道を馬でまっすぐ北へ進み、四日目。
その道中から森は途切れ、左右に木々はなく険しい山々に挟まれる。そこを4kmほど進んだ場所。
ファーレ山脈の峡谷を道とした先にある、アグリスの入り口が見えてきた。
私は銀の瞳に入口を映し、銀の前髪が後ろに流れ落ちるほど見上げ、言葉を零す。
「なんと、強固な……」
入口の門から上下左右に広がる城壁は、トーワの城壁とは比べ物にならない。
天へ目を攫う高さ。左右の広さを忘れさせる幅。太き槌をへし折る奥行き。
門もまた巨大で、黄金の歯車を重ね置いた形をしていた。
旅人や商人といった大勢の人々が通るため、門は大きく開け放たれているが、右端には門とは別の、馬車一台程度が行き来できる通用扉らしきものが見える。
私の視線が門に釘付けになっていると、傍にいたグーフィスが防壁に何かを見つけたようだ。
彼は夏によく似合う日に焼けた肌に白い半そでのシャツを着て、丈夫そうな青のボトムスを履いている。
私の細腕の倍はあろう太い腕を伸ばし、指先を門の端に向け、汗の輝く茶色の短髪を振るい黄褐色の瞳を私へ向けた。
「ケント様、なんかぶら下がってますけど、なんでしょうね?」
彼の言葉に誘われ、門から視線を移す。
門の端側にある防壁から二本の古びた角材が飛び出して、そのうち一本の先には朽ちかけたロープがたらりとぶら下がっていた。
「はて、なんだろうな? 見た感じ、防壁に使われている木材が飛び出しているわけでない。防壁に突き刺している、といったところか」
この暑い日差しの中、白衣の上に黒のコートと黒い帽子を纏い、革製の黒の診療カバンを肩にかけたカインが会話に加わる。
「はぁはぁ、何か、宗教的意味があるんでしょうかねぇ? 僕はルヒネ派の教えに詳しくないので、さっぱりですが、はぁ」
てっぷりとしたお腹が愛嬌のふとましい体は熱さに悲鳴を上げて、目を隠すほど長い深緑の前髪は汗にまみれ、ピタリと額に張り付いている。
髪の裏に隠れる茶色の瞳は虚ろ……。
「カイン、大丈夫か? 黒のコートは脱いだ方が?」
するとフィナが、白い羽飾りの付いたつば広の赤色チロルハットをピンと指で弾き、青く艶やかな長い髪を軽く横に振った。
「大丈夫よ、黒のコートの中にちっちゃい冷精石を詰め込んでるもん。それでも一応、熱を吸収する黒のコートは止めろって言ったんだけど。せっかくの都会アグリス。お気に入りのコートでバッチリ決めたいんだってさ」
「それはいいが……冷精石があまり効いてないのでは?」
フィナは紫の溶け込む蒼玉の瞳を揺らして、悩むような声を上げた。
「これ以上、強くすると逆に体を冷やしちゃうしねぇ。いっそ、固めちゃおっか」
と言って、肩から腰に掛けて伸びる、試験管型属性爆弾を納めた帯から青色の試験管を抜き取る。
「やめろ。凍死するぞ。それよりも、君は大丈夫なのか? この暑さでも赤色のコートを着ているし」
「カインと同じく、冷精石を仕込んでるからね」
私は視線を下へ移動する。
「ショートパンツから太ももが飛び出しているが日焼けは大丈夫か?」
「対策はバッチリ、って、どこ見てんのよ? このスケベ親父」
「誰がスケベ親父だ!」
「私のことなんかよりも、ギウの方が心配なんだけど? 海遠いし……」
ギウはここまで馬に乗ることなくずっと徒歩。
青と黒が交差する背中の鱗に太陽が容赦なく照りつける。
しかし、ここまで一度も干からびることなく、ひんやり艶やかな鱗を保ったまま。
彼はくるりと愛用の銛を回して、エラ傍に置く。
「ギウ、ギウギウ」
「ん? 暑さ寒さなんて戦士の自分には関係ない……ギウは戦士だったのか?」
「ギウ」
「時に戦士であり、時に学者であり、時に私の保護者……だと?」
「ぎうう」
ギウは軽い笑い声を上げる。どうやら冗談のようだ。
彼に釣られ、皆も笑い声を上げる。
表情は読みづらく、目は大きくて黒の真ん丸で感情の変化をあまり見せない。
見た目は、おっきな魚の着ぐるみから手足だけを飛び出させた感じのもの。
感情の機微はわかりにくくギウギウとしかやり取りできないが、皆は彼の冗談がわかるくらいに親しくなっている。
皆が談笑する中で、黒眼鏡を掛けたいかつい顔の親父は無精ひげをじょりっとなぞって、呆れた声を漏らす。
「旦那方。アグリスってのは危険な街だと再三お伝えしているのに」
そう声を出し、警戒を示すように腰の左右に差している二本の剣の柄に手を置いた。
どうやら彼は二刀流の使い手みたいだ。
トーワで合流した際、彼の腰にあったのはナイフであったが、今回は剣……。
服装は薄手の麻の服と軽装だが、肘と膝にはプロテクターがあり、そこには小型のナイフが仕込んである。
彼から胡散臭い土産屋の親父の姿は消え、腕利きの戦士か冒険者を思わせる姿へと変貌と遂げている。
それだけ、警戒すべき街。と、いうことなのだろうか。
「そうだな、もう街の前。親父さんの言うとおり、気を引き締めていこう」
「はい。それじゃ、行きましょうや。旦那方」
彼は馬を操り、先頭に立ち進み始めた。
その際、ちらりと防壁に突き刺さっている角材を見て、下唇を噛んだような……。
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今はマッキンドーの森を通り、トーワからアグリスへの経由地であるアルリナに向かっている最中だ。
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一人で馬に乗れないエクアはフィナが操る馬の後ろに乗っている。
服装は青いワンピースに降ろし立ての真っ白なエプロンと、大きな茶色の肩掛け鞄。
馬の振動で水色の長い髪と赤と白の混じる髪が重なり合っている。
儚さの宿る白い肌を持つ少女が強い日差しに当てられ大丈夫なのかと不安になるが、普段から光の太陽テラスの下で絵を描いているので問題ないようだ。
現に、淡い緑の瞳に強い輝きが宿り、元気いっぱいの様子。
彼女のエプロンはいつものように絵の具塗れではないが、さすがにそのままの服装でアグリスの代表たちと会うわけにはいかない。
そういうわけで、アルリナでエクアの会談用の衣装を購入する。私の方はアーガメイト時代に着用していた儀礼用の貴族服があるので問題ない。
町で必要品を購入後、この日はアルリナの商人ギルドの長・ノイファンの屋敷を借りて一晩を明かす。
その際、ノイファンからこうアドバイスをもらった。
浅黒の肌と年寄りとは思えぬがっしりとした体を持ち、深く刻まれた皺から垣間見えるはずの弱々しさを微塵も感じさせぬ男は、声に千の針がついた警戒の言葉を渡す。
「油断されぬように。笑顔の下にどのような毒が隠されているかわかりません。そして、決してルヒネ派の教えを穢すことはないように……」
彼はアグリスの恐ろしさを芯から知っているようで、政治的な思惑抜きで私の身を案じてくれた。
親父の様子といい、アグリスとは一体どのような街なのだろうか?
アルリナを離れ、キャビット族の領地――マッキンドーの森を東に置いた本街道を馬でまっすぐ北へ進み、四日目。
その道中から森は途切れ、左右に木々はなく険しい山々に挟まれる。そこを4kmほど進んだ場所。
ファーレ山脈の峡谷を道とした先にある、アグリスの入り口が見えてきた。
私は銀の瞳に入口を映し、銀の前髪が後ろに流れ落ちるほど見上げ、言葉を零す。
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入口の門から上下左右に広がる城壁は、トーワの城壁とは比べ物にならない。
天へ目を攫う高さ。左右の広さを忘れさせる幅。太き槌をへし折る奥行き。
門もまた巨大で、黄金の歯車を重ね置いた形をしていた。
旅人や商人といった大勢の人々が通るため、門は大きく開け放たれているが、右端には門とは別の、馬車一台程度が行き来できる通用扉らしきものが見える。
私の視線が門に釘付けになっていると、傍にいたグーフィスが防壁に何かを見つけたようだ。
彼は夏によく似合う日に焼けた肌に白い半そでのシャツを着て、丈夫そうな青のボトムスを履いている。
私の細腕の倍はあろう太い腕を伸ばし、指先を門の端に向け、汗の輝く茶色の短髪を振るい黄褐色の瞳を私へ向けた。
「ケント様、なんかぶら下がってますけど、なんでしょうね?」
彼の言葉に誘われ、門から視線を移す。
門の端側にある防壁から二本の古びた角材が飛び出して、そのうち一本の先には朽ちかけたロープがたらりとぶら下がっていた。
「はて、なんだろうな? 見た感じ、防壁に使われている木材が飛び出しているわけでない。防壁に突き刺している、といったところか」
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するとフィナが、白い羽飾りの付いたつば広の赤色チロルハットをピンと指で弾き、青く艶やかな長い髪を軽く横に振った。
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