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第十七章 頂へ続く階段の一歩
招待状
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私の知る秘密の一部を仲間たちに開示し、僅かばかりの時が経つ。
時は残酷にも暖かだった春の姿を完全に消え去り、いよいよをもって季節は夏本番を迎えようとしていた。
木々は暑さに負けず青々と茂るが、人は徐々に増す蒸し暑さに体を動かすのも億劫。
しかし城内は、フィナが冷気を産み出す冷精石を配置しまくったおかげで、室温は実に快適。
そのため、大工に精を出す者たちにも城内の一部を休憩所として開放している。
フィナは現在、さらに効率の良い温度調整ができる方法を模索するべく、トーワの地下研究所に籠っていた。
遺跡の解析の方は今のところ頭打ち。
気分転換の意味でも、城内の環境改善に頭を向けているのだろう。
おかげさまで、涼しげな室内で仕事ができる。
さらに快適な話がある。
それはトーワの財政問題。
高品質の化粧品の売り上げが上々であるため、マフィンやノイファンが今後の売り上げを見込み、こちらへ先払いをしてくれた。そのおかげで国庫に余裕が生まれる。
それはまだまだ城の修繕に当て込めばあっという間になくなってしまう程度だが、ゴリンたちを気持ちよく雇えるだけの費用は捻出できた。
彼らはまだノイファンとの契約が残っているようなので、それが終え次第、彼らを雇用しようと考える。
直接彼らを雇用できれば、ゴリンとも秘密を共有できる。
いま話してしまえば、彼はノイファンの信義に背くことになるからな。
真の仲間として迎え入れることができれば、遺跡内部から得た情報をトーワの再建に利用できないかという相談もできるようになる。
前途は明るい。この調子で未来が開けていければよいが……。
――その未来の方向性を占う作業を、私は執務室にて行っていた。
作業とは、執務机に置かれた手紙の整理。
これは半島内、そして大陸側の種族から送られた手紙たちだ。
内容はあいさつ程度だが、手紙を通して少しでも距離が縮められるように親しみを込めて文字を綴っている。
多くと友好的な交流が行えれば、それだけ世界は広がり、未来への選択肢が増えるというもの。
その中で、交流のないはずの手紙が舞い込んできた。
手紙はエクアの手によってもたらされた。
「ケント様、お手紙の中に『アグリス』からのものが」
「なに? 見せてくれ」
黄金の封蠟で閉じられた手紙を開く。
中身に目を通して、私は一言頷いた。
「ふむ」
「どうされました?」
「この手紙、招待状のようだ」
「え?」
「内容はこうだ。アグリスでもトーワの化粧品が流行っている。大きな取引を行いたいので会いたい、と」
「そうなんですか? でも、それらはマフィン様が代行されているのでは?」
「おそらく、これは口実で、何かしらの用が私にあるのだろう。君にもね」
「私?」
「パッケージをデザインした方に会いたいと記されてある」
「それはどういうことでしょうか?」
「わからない。だが、文面から察するに切迫したものではなさそうだ。興味本位、そういった部分は感じ取れるが」
「興味本位ですか?」
「私への用事も含め、おそらく廃城同然のトーワが最近賑やかで貿易まで始めたとなって興味を持ったといったとこか。それに半島はアグリスの裏庭も同然。そこで何が起きているのか把握しておきたい、というのもあるのだろう。君については、アグリスの高官の中に絵を気に入った者がいるのかもしれない」
「くすっ、それだと嬉しいんですけど」
「ふふ、そうだな。なんにせよ、こちらもアグリスには興味がある。向こうから誘ってくれるのならば断る理由はない。エクア、皆を集めてくれ。訪ねるメンバーを選出したい」
エクアに頼み、ギウ・フィナ・親父・ゴリン・カイン・キサを呼んできてもらった。
全員が揃ったところで、アグリスの話をする。
すると親父が真っ先に声を上げた。
「あの街に行くならば戦闘に長けたメンバーがよろしいかと思いますっ」
「親父?」
「俺はあの街のことをよく知っていますが、どれだけ警戒をしても足らぬというくらいに警戒すべき街です!」
「親父、今回はあちらからの招待だ。それに、私たちは対立しているわけではない。訪れた瞬間、剣や槍で出迎えられることはあるまい」
「旦那、それは甘うございます。馬鹿げた経典をかざして人々を支配している連中。何が起こるかわかりません!」
親父の声に力が入る。手も拳を作り、ギシギシと悲鳴を漏らすほどに握り締めている。
彼は港町アルリナの闇を知り、キャビットが秘匿としていた病も知っていた。
私以上に、この半島及びビュール大陸については詳しい。
その彼がここまでの警戒を呼び掛けている。
「わかった。親父の助言を聞き入れ、ベストメンバーで向かおう。ギウ、フィナ」
「ギウギウ」
「うん、任せておいて。でも、あの都市は錬金術を忌み嫌ってて、旅の錬金術士でもそう簡単に立ち入れない街。私が行っても大丈夫? それにギウだって。あそこは人間族以外、毛嫌いしてるから」
「そうか、人間族こそ至高とするルヒネ派の教えの影響だな。手紙に直接取引をしたいとあったのも、キャビットと取引をしたくないからかもしれないな」
「それで、どうする?」
「ギウもフィナも私の大切な友人で客人だ。アグリスが君たちを拒否するなら、今回の招待は断る」
「ふふ、ありがと」
「ぎうぎう~」
「だが、相手が許可しても、二人には不快な思いをさせることになるが?」
「大丈夫、そこは我慢する」
「ギウッ」
「ありがとう、二人とも」
二人に礼を述べ、次にカインとゴリンとキサに声を掛ける。
「カイン。医者が必要になる事態は避けたいが、念のため、君にも来てもらいたい」
「わかりました」
「ゴリン。グーフィスを借りていく。何かあれば、彼に連絡を頼む」
「わかりやした」
「キサはゴリンと共に城の管理を任せたい。それと、マフィンに言付けを頼む」
「領主のお兄さんがアグリスと直接取引しちゃうことに関してだね~。まかせといて~」
伝えるべきことを伝え、最後に親父を見据える。
「親父、一緒に来るんだろ?」
「もちろんでございます。この中で俺ほどアグリスに詳しい者はいません。色々と忠告が可能だと思いますぜ」
「よし、アグリスに招待を受けると返事を認める」
そう、皆に伝え、解散となった。
アグリスに向かうメンバーは私を含め、ギウ・エクア・フィナ・親父・カイン・グーフィスだ。
このメンバーで戦力になるのはギウ・フィナ・親父。
グーフィスに関しては未知数だが、筋骨隆々のガタイの良さからいって並みの者よりは頼りになるはずだ。
私は執務机の真後ろ、西と北を望める窓に近づき、荒野から西にあるマッキンドーの森。その森を越えて北に位置するアグリスを銀眼に捉える。
「さて、どのような都市か。親父の様子を見る限り、油断ならぬ連中が支配する街のようだが……現状では対立する理由もないし、敵対心を抱かれる謂れもない。今回は大事にはならぬだろう」
時は残酷にも暖かだった春の姿を完全に消え去り、いよいよをもって季節は夏本番を迎えようとしていた。
木々は暑さに負けず青々と茂るが、人は徐々に増す蒸し暑さに体を動かすのも億劫。
しかし城内は、フィナが冷気を産み出す冷精石を配置しまくったおかげで、室温は実に快適。
そのため、大工に精を出す者たちにも城内の一部を休憩所として開放している。
フィナは現在、さらに効率の良い温度調整ができる方法を模索するべく、トーワの地下研究所に籠っていた。
遺跡の解析の方は今のところ頭打ち。
気分転換の意味でも、城内の環境改善に頭を向けているのだろう。
おかげさまで、涼しげな室内で仕事ができる。
さらに快適な話がある。
それはトーワの財政問題。
高品質の化粧品の売り上げが上々であるため、マフィンやノイファンが今後の売り上げを見込み、こちらへ先払いをしてくれた。そのおかげで国庫に余裕が生まれる。
それはまだまだ城の修繕に当て込めばあっという間になくなってしまう程度だが、ゴリンたちを気持ちよく雇えるだけの費用は捻出できた。
彼らはまだノイファンとの契約が残っているようなので、それが終え次第、彼らを雇用しようと考える。
直接彼らを雇用できれば、ゴリンとも秘密を共有できる。
いま話してしまえば、彼はノイファンの信義に背くことになるからな。
真の仲間として迎え入れることができれば、遺跡内部から得た情報をトーワの再建に利用できないかという相談もできるようになる。
前途は明るい。この調子で未来が開けていければよいが……。
――その未来の方向性を占う作業を、私は執務室にて行っていた。
作業とは、執務机に置かれた手紙の整理。
これは半島内、そして大陸側の種族から送られた手紙たちだ。
内容はあいさつ程度だが、手紙を通して少しでも距離が縮められるように親しみを込めて文字を綴っている。
多くと友好的な交流が行えれば、それだけ世界は広がり、未来への選択肢が増えるというもの。
その中で、交流のないはずの手紙が舞い込んできた。
手紙はエクアの手によってもたらされた。
「ケント様、お手紙の中に『アグリス』からのものが」
「なに? 見せてくれ」
黄金の封蠟で閉じられた手紙を開く。
中身に目を通して、私は一言頷いた。
「ふむ」
「どうされました?」
「この手紙、招待状のようだ」
「え?」
「内容はこうだ。アグリスでもトーワの化粧品が流行っている。大きな取引を行いたいので会いたい、と」
「そうなんですか? でも、それらはマフィン様が代行されているのでは?」
「おそらく、これは口実で、何かしらの用が私にあるのだろう。君にもね」
「私?」
「パッケージをデザインした方に会いたいと記されてある」
「それはどういうことでしょうか?」
「わからない。だが、文面から察するに切迫したものではなさそうだ。興味本位、そういった部分は感じ取れるが」
「興味本位ですか?」
「私への用事も含め、おそらく廃城同然のトーワが最近賑やかで貿易まで始めたとなって興味を持ったといったとこか。それに半島はアグリスの裏庭も同然。そこで何が起きているのか把握しておきたい、というのもあるのだろう。君については、アグリスの高官の中に絵を気に入った者がいるのかもしれない」
「くすっ、それだと嬉しいんですけど」
「ふふ、そうだな。なんにせよ、こちらもアグリスには興味がある。向こうから誘ってくれるのならば断る理由はない。エクア、皆を集めてくれ。訪ねるメンバーを選出したい」
エクアに頼み、ギウ・フィナ・親父・ゴリン・カイン・キサを呼んできてもらった。
全員が揃ったところで、アグリスの話をする。
すると親父が真っ先に声を上げた。
「あの街に行くならば戦闘に長けたメンバーがよろしいかと思いますっ」
「親父?」
「俺はあの街のことをよく知っていますが、どれだけ警戒をしても足らぬというくらいに警戒すべき街です!」
「親父、今回はあちらからの招待だ。それに、私たちは対立しているわけではない。訪れた瞬間、剣や槍で出迎えられることはあるまい」
「旦那、それは甘うございます。馬鹿げた経典をかざして人々を支配している連中。何が起こるかわかりません!」
親父の声に力が入る。手も拳を作り、ギシギシと悲鳴を漏らすほどに握り締めている。
彼は港町アルリナの闇を知り、キャビットが秘匿としていた病も知っていた。
私以上に、この半島及びビュール大陸については詳しい。
その彼がここまでの警戒を呼び掛けている。
「わかった。親父の助言を聞き入れ、ベストメンバーで向かおう。ギウ、フィナ」
「ギウギウ」
「うん、任せておいて。でも、あの都市は錬金術を忌み嫌ってて、旅の錬金術士でもそう簡単に立ち入れない街。私が行っても大丈夫? それにギウだって。あそこは人間族以外、毛嫌いしてるから」
「そうか、人間族こそ至高とするルヒネ派の教えの影響だな。手紙に直接取引をしたいとあったのも、キャビットと取引をしたくないからかもしれないな」
「それで、どうする?」
「ギウもフィナも私の大切な友人で客人だ。アグリスが君たちを拒否するなら、今回の招待は断る」
「ふふ、ありがと」
「ぎうぎう~」
「だが、相手が許可しても、二人には不快な思いをさせることになるが?」
「大丈夫、そこは我慢する」
「ギウッ」
「ありがとう、二人とも」
二人に礼を述べ、次にカインとゴリンとキサに声を掛ける。
「カイン。医者が必要になる事態は避けたいが、念のため、君にも来てもらいたい」
「わかりました」
「ゴリン。グーフィスを借りていく。何かあれば、彼に連絡を頼む」
「わかりやした」
「キサはゴリンと共に城の管理を任せたい。それと、マフィンに言付けを頼む」
「領主のお兄さんがアグリスと直接取引しちゃうことに関してだね~。まかせといて~」
伝えるべきことを伝え、最後に親父を見据える。
「親父、一緒に来るんだろ?」
「もちろんでございます。この中で俺ほどアグリスに詳しい者はいません。色々と忠告が可能だと思いますぜ」
「よし、アグリスに招待を受けると返事を認める」
そう、皆に伝え、解散となった。
アグリスに向かうメンバーは私を含め、ギウ・エクア・フィナ・親父・カイン・グーフィスだ。
このメンバーで戦力になるのはギウ・フィナ・親父。
グーフィスに関しては未知数だが、筋骨隆々のガタイの良さからいって並みの者よりは頼りになるはずだ。
私は執務机の真後ろ、西と北を望める窓に近づき、荒野から西にあるマッキンドーの森。その森を越えて北に位置するアグリスを銀眼に捉える。
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