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第十七章 頂へ続く階段の一歩
深謀遠慮、百術千慮
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エクアを真四角の広間に残し、奥へ続く廊下をフィコンと共に進んでいく。
エクアを一人残すことに不安はあるが、サレートはともかく、あのエムトという将軍は口数少なくとも非常に実直な方と見受けられる。
彼が近くにいる限り、滅多なことはないだろう。
そう考えていると、前を歩くフィコンから心を見透かされるような声を掛けられた。
「なかなかの慧眼を持っているようだ」
「え?」
「エムトは信頼に足る人物だ。安心するがよい」
「ええ、将軍から伝わる威風からは、彼をよく知らぬとも信頼の文字が心に伝わってきます」
「ふふ、口が上手い……話しは変わるが、貴様は魔族退治を行ったと聞いたが?」
「よくご存じで。正確には私の仲間ですが」
「ふむ。そこで奴らの変化を知ったか?」
「はい。道具を持ち、仲間同士で連携をとるという知性の片鱗を見ました」
「今、ビュール大陸の魔族たちに変化が起きている。いや、世界中のな」
「何故でしょうか?」
「さてな。実はその調査のためにヴァンナスへ書簡を送った」
「ヴァンナスへ?」
「なんだ、意外か?」
「……はい、ヴァンナスとは距離を置いているのかと思っていましたので」
「あやつらとは相容れぬのは確かだが、魔族の調査となると我らでは少しばかり手に余る。はてさて、誰を寄越すのやら」
「魔族の調査となれば、勇者の一人かと」
「そうだろうな。もし、ヴァンナス最強のレイを寄越したとなれば、どう考える?」
「レイを? ありえません。ヴァンナスの剣をこちらへ向け……」
私は途中で言葉を止める。
仮に、レイを寄越したとなれば、それはアグリスを危険視しているという信号を送るもの。もしくは魔族の変化について、私が考えている以上にヴァンナスが警戒をしている証明。
どちらの理由にしろ、この大陸に災いの種が宿っているということになる。
「どうした、ケント?」
「いえ、いずれにしても、調査から何かわかるといいですね」
「そうだな……主題を移そうか」
彼女は立ち止まり、私に体を向ける。
そして、両目を大きく開き、黄金の瞳をギラリと輝かせた。
「ケントよ、貴様はサノアの本当の力を知っておるか?」
「本当の力? 世界を創生する御力や愛を伝播する優しさでしょうか?」
「フッ、面白みのない回答だ。王都オバディアは愛を訴えるタレン派が跋扈している。その影響だろうが……サノアの真の力は、遠見と守護だ」
「遠見と守護?」
「遠くを覗く力。またの名を予知。そして、絶大なる守護の力。この二つの力は…………異界の神々の力を遥かに凌駕する」
「なっ!?」
フィコンは今、異界の神々と口にした。
これはありえない話。
サノアは世界を創生した、創造主。
そうでありながら、他に世界があり、ましてや異神の存在を認めるなどっ。
これは何かの試しであろうか?
私は言葉に窮する。
押し黙る私を見て、フィコンは薄く口角を上げる。
「フフ、そう構えるな。これは神の愛を讃える『タレン派』も神の意を解する『フェナク派』も、そして、神の厳格さを訴える、我が『ルヒネ派』も指導者層であれば誰もが心の内で理解しているもの。我々と異なる世界が存在し、そこには世界の数以上に神がいることを」
「あ、その、申し訳ありません。そのお言葉には返す言葉が見つかりません」
「ふむ、かなり慎重な性格のようだな。まぁよい。話をサノアの力に戻そう。サノアの遠見の力。その一端をこのフィコンは宿している」
「はっ?」
突拍子もない言葉に、無礼にも口をぽかんとしてしまった。
すると、その顔がおかしかったようで、フィコンは十四歳の少女に似つかわしい笑い声を漏らす。
「ふふふ、間抜けな顔だ。フィコンの言葉をそのような顔で受け止めるとは」
「あ、こ、これは失礼を」
「良い。愉快であった。さて、貴様は信じぬようだが、黄金の瞳に宿る遠見の力を使い、神託を授けよう。ただし、遠見と言ってもはっきり見えるほどではないので、占いとでも思っておけ」
「占い……」
神託と言いながら、占いと呼ぶ言葉に、ますますをもって返答に窮する。
そんな私の様子をフィコンは楽しみながら、黄金の瞳に魔力、いや、教会に属する者たちが使用する力――神力を瞳に宿し、黄金を輝かせ神託を授けた。
「ふむふむ、なるほど。先の世の助けにより、貴様は死の運命を克服したのか」
(なっ!?)
私は無表情のまま、動揺を察せられないように心を震わせた。
彼女はそれに気づいているのか気づいていないのか、神託を続ける。
「貴様の前には過酷な選択が現れ続ける。その選択は常に、生と死のみ。誤れば、死ぬ」
「随分と理不尽な選択ばかりのようで」
「そうだな。しかし、正しき選択を選び続ければ……ほぉ、これは面白い」
「面白い?」
「ふむ……望んでおらぬのに、巨大な椅子へ座ることになるだろうな。ただし、犠牲は……そうか、成長により、最も素晴らしい選択肢は消えるのか。成長が仇になるとは難儀だな」
「私の成長が何か問題でも?」
「いや、貴様のことではない。貴様が影響を与え成長した者のことだ」
「はぁ?」
「まぁ、この程度にしておくか。あまり、先を知ってもつまらぬことよ」
彼女は瞳から光を降ろし、神託を壅蔽した。
そして、前を向き、歩き出そうとするのだが……。
「黄金の瞳にサノアの力が宿っている。やはり、信じられぬか?」
「……凡俗には、人の知を超える力は理解しがたいものですから」
「それは奇矯なことを。貴様の銀の瞳に宿っている古代人の力よりも、我々にとって身近な力だというのに」
「仰っている意味をわかりかねます」
「フフ、自分を隠すのが上手い。さて、行こうか」
フィコンは冷たい笑いを残して歩き始めた。
私は少女の小さな背中を見つめ、鳥肌を全身に纏う。
(底知れない。一体、どこまで私のことを、私たちのことを知っている? ネオ陛下やジクマ閣下と雰囲気は違うが、あの方々と同じ。人の心を見透かし、未来を眺望する力を持っている。普通の十四歳の少女ではないっ)
目の前を歩くのは、ルヒネ派の頂に立つ少女。
アグリスの全市民から尊崇を集める少女。
そして、畏れられる少女……。
だがしかし、悪魔とも神とも言える少女は口を滑らした。
それは、二十二議会との不和。
いや、滑らすわけがない。あれはわざと……。
私は彼女にとって、敵でもないが味方でもない存在。その私にわざわざ漏らした目的は一体……なんだ?
エクアを一人残すことに不安はあるが、サレートはともかく、あのエムトという将軍は口数少なくとも非常に実直な方と見受けられる。
彼が近くにいる限り、滅多なことはないだろう。
そう考えていると、前を歩くフィコンから心を見透かされるような声を掛けられた。
「なかなかの慧眼を持っているようだ」
「え?」
「エムトは信頼に足る人物だ。安心するがよい」
「ええ、将軍から伝わる威風からは、彼をよく知らぬとも信頼の文字が心に伝わってきます」
「ふふ、口が上手い……話しは変わるが、貴様は魔族退治を行ったと聞いたが?」
「よくご存じで。正確には私の仲間ですが」
「ふむ。そこで奴らの変化を知ったか?」
「はい。道具を持ち、仲間同士で連携をとるという知性の片鱗を見ました」
「今、ビュール大陸の魔族たちに変化が起きている。いや、世界中のな」
「何故でしょうか?」
「さてな。実はその調査のためにヴァンナスへ書簡を送った」
「ヴァンナスへ?」
「なんだ、意外か?」
「……はい、ヴァンナスとは距離を置いているのかと思っていましたので」
「あやつらとは相容れぬのは確かだが、魔族の調査となると我らでは少しばかり手に余る。はてさて、誰を寄越すのやら」
「魔族の調査となれば、勇者の一人かと」
「そうだろうな。もし、ヴァンナス最強のレイを寄越したとなれば、どう考える?」
「レイを? ありえません。ヴァンナスの剣をこちらへ向け……」
私は途中で言葉を止める。
仮に、レイを寄越したとなれば、それはアグリスを危険視しているという信号を送るもの。もしくは魔族の変化について、私が考えている以上にヴァンナスが警戒をしている証明。
どちらの理由にしろ、この大陸に災いの種が宿っているということになる。
「どうした、ケント?」
「いえ、いずれにしても、調査から何かわかるといいですね」
「そうだな……主題を移そうか」
彼女は立ち止まり、私に体を向ける。
そして、両目を大きく開き、黄金の瞳をギラリと輝かせた。
「ケントよ、貴様はサノアの本当の力を知っておるか?」
「本当の力? 世界を創生する御力や愛を伝播する優しさでしょうか?」
「フッ、面白みのない回答だ。王都オバディアは愛を訴えるタレン派が跋扈している。その影響だろうが……サノアの真の力は、遠見と守護だ」
「遠見と守護?」
「遠くを覗く力。またの名を予知。そして、絶大なる守護の力。この二つの力は…………異界の神々の力を遥かに凌駕する」
「なっ!?」
フィコンは今、異界の神々と口にした。
これはありえない話。
サノアは世界を創生した、創造主。
そうでありながら、他に世界があり、ましてや異神の存在を認めるなどっ。
これは何かの試しであろうか?
私は言葉に窮する。
押し黙る私を見て、フィコンは薄く口角を上げる。
「フフ、そう構えるな。これは神の愛を讃える『タレン派』も神の意を解する『フェナク派』も、そして、神の厳格さを訴える、我が『ルヒネ派』も指導者層であれば誰もが心の内で理解しているもの。我々と異なる世界が存在し、そこには世界の数以上に神がいることを」
「あ、その、申し訳ありません。そのお言葉には返す言葉が見つかりません」
「ふむ、かなり慎重な性格のようだな。まぁよい。話をサノアの力に戻そう。サノアの遠見の力。その一端をこのフィコンは宿している」
「はっ?」
突拍子もない言葉に、無礼にも口をぽかんとしてしまった。
すると、その顔がおかしかったようで、フィコンは十四歳の少女に似つかわしい笑い声を漏らす。
「ふふふ、間抜けな顔だ。フィコンの言葉をそのような顔で受け止めるとは」
「あ、こ、これは失礼を」
「良い。愉快であった。さて、貴様は信じぬようだが、黄金の瞳に宿る遠見の力を使い、神託を授けよう。ただし、遠見と言ってもはっきり見えるほどではないので、占いとでも思っておけ」
「占い……」
神託と言いながら、占いと呼ぶ言葉に、ますますをもって返答に窮する。
そんな私の様子をフィコンは楽しみながら、黄金の瞳に魔力、いや、教会に属する者たちが使用する力――神力を瞳に宿し、黄金を輝かせ神託を授けた。
「ふむふむ、なるほど。先の世の助けにより、貴様は死の運命を克服したのか」
(なっ!?)
私は無表情のまま、動揺を察せられないように心を震わせた。
彼女はそれに気づいているのか気づいていないのか、神託を続ける。
「貴様の前には過酷な選択が現れ続ける。その選択は常に、生と死のみ。誤れば、死ぬ」
「随分と理不尽な選択ばかりのようで」
「そうだな。しかし、正しき選択を選び続ければ……ほぉ、これは面白い」
「面白い?」
「ふむ……望んでおらぬのに、巨大な椅子へ座ることになるだろうな。ただし、犠牲は……そうか、成長により、最も素晴らしい選択肢は消えるのか。成長が仇になるとは難儀だな」
「私の成長が何か問題でも?」
「いや、貴様のことではない。貴様が影響を与え成長した者のことだ」
「はぁ?」
「まぁ、この程度にしておくか。あまり、先を知ってもつまらぬことよ」
彼女は瞳から光を降ろし、神託を壅蔽した。
そして、前を向き、歩き出そうとするのだが……。
「黄金の瞳にサノアの力が宿っている。やはり、信じられぬか?」
「……凡俗には、人の知を超える力は理解しがたいものですから」
「それは奇矯なことを。貴様の銀の瞳に宿っている古代人の力よりも、我々にとって身近な力だというのに」
「仰っている意味をわかりかねます」
「フフ、自分を隠すのが上手い。さて、行こうか」
フィコンは冷たい笑いを残して歩き始めた。
私は少女の小さな背中を見つめ、鳥肌を全身に纏う。
(底知れない。一体、どこまで私のことを、私たちのことを知っている? ネオ陛下やジクマ閣下と雰囲気は違うが、あの方々と同じ。人の心を見透かし、未来を眺望する力を持っている。普通の十四歳の少女ではないっ)
目の前を歩くのは、ルヒネ派の頂に立つ少女。
アグリスの全市民から尊崇を集める少女。
そして、畏れられる少女……。
だがしかし、悪魔とも神とも言える少女は口を滑らした。
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