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第十九章 暗闘
脱出開始
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――しばらく時が経ち、信頼は形となって現れた……のだが、エクア率いる五百人のカリスたちの様子がおかしい。
親父が私に駆け寄り、焦りの色を露わとして報告を行う。
「旦那っ、アグリスの宗教騎士団に見つかった!」
「なんだとっ?」
「あいつらの見回りに見つかっちまった。なんとかギウと俺で追い払いましたが、残った奴が騎士団の詰め所に向かい――さほど時間を掛けず宗教騎士団本体が出てきます!」
「なんてことだ。その宗教騎士団は強いのか?」
「ヴァンナスの近衛騎士団と引けを取らないかと」
「……最悪だな。すぐにカリスを荷馬車へ! 歩ける者は自力で歩け。フィナ、門ではなく通用扉を開けろ。馬車程度なら通れる広さがある上に開門まで短くて済む!」
「わかったっ!」
フィナが正十二面体の深紅のナルフを操作して、半島へ続く通用扉を動かす。
扉が開いている間に、老人や子どもを荷馬車に乗せて、馬を操れる者は御者として任せる。
エクアに先頭を任せて、次々に馬車が動き出し、扉を通り抜けていく。
指示が飛ばす中でカリスの代表が声を掛けてきた。
私は指示の手を休めることなく言葉を返す。
「あなたがケント=ハドリー様で? 途中で仲間が見つかってしまい申し訳ございません。せっかく、手を差し伸べてもらったというのに」
「そのことはあとで話そう。本来ならばゆっくりお茶などを振る舞いたいところだが、見ての通り忙しくてな。お茶はトーワに着き次第ご馳走しよう」
「え? ふふ」
「うん、どうした?」
「あ、これは大変なご無礼を。申し訳ございません、想像と少し違う御方でしたので」
「どんな想像をしていた?」
「エクアさんが全面的に信頼を置き、アグリスを敵に回そうとしている方。エムト将軍のように屈強な方だと」
「ふふ、すまないな期待外れで。だが、力はない分、頭は回る。君たちのことはもう二度と、アグリスに手出しはさせない! そう、約束しよう!」
私は振るう手を止めて、自信に溢れる強い言葉と一緒に笑みを代表に見せた。
アグリスの宗教騎士団が出てこようとしている状況下であっても私の笑みを見せる余裕に、彼は少し安心感を得たようだ。
「屈強でなくとも、お強い方なんですね」
「仲間にはへっぽこ呼ばわりされているがな。さぁ、君も扉の外へ! 外に出て4kmほど進み、マッキンドーの森に逃げ込めればアグリスは追ってこれない。そこまでいけば我々の勝ちだ!」
「わかりました。それでは、ご武運を」
代表は近くの馬車の横につき、カリスたちに発破をかけて歩いていく。
全員の姿が扉の先に消えて、私は声を飛ばす。
「よし、全員、通用扉の外に出たな!」
「旦那!」
「ギウギウ!」
「騎士団が来たのか?」
「はい、蹄の音が!」
「そうか。フィナ、私たちも外に出るぞ。出たら」
「扉を閉じろねっ」
「そうだ、行こう!」
私たちが扉を出る。
後ろを振り向くと百騎ほどの騎馬兵がこちらへ向かってきていた。
だが、彼らは通用扉も門も越えることなく、閉じられた門の前で立ち往生することになる。
私たちは各々馬にまたがり、門の前、半島側に立つ。
「フィナ、門や扉はどの程度で復旧する?」
「機構は壊しておいた。それを手動に切り替えるのに二十分くらいは掛かると思う」
「二十分……見通しの悪い夜。借りた馬車はそれほど丈夫ではない。急いだとしても進めてせいぜい3kmくらいか。1km足らない」
ここで、親父が自身の太ももをドンと打って、声を上げた。
「殿は任せてくだせい!」
「親父?」
「こうなったのは俺の責任。それなのに、旦那やエクアの嬢ちゃんに任せっきりで情けねぇ。ですから」
「君一人で百名の騎士団の足止めは無理だろう」
「それでもっ、おれは!!」
「一人じゃなくて、三人ならどうよ?」
「ギウギウ」
フィナとギウが前に出る。
それに私は笑顔で応えた。
「ふふ、そうだな。君たちが揃えば、止められる」
「うん? まさか、もともと私たちに任せるつもりでいた?」
「ぎう?」
「追手が掛かった場合、君たちの出番だと踏んでいた。まぁ、まさか宗教騎士団のご登場となるとは思っていなかったが」
「う~ん、なんだろね。なんか、やることなすこと読んでますってのかムカつくわ~」
「そういうな。領主たる者、天文地理に明るく、万物、魔術、布陣兵法まで知らなければ凡才の極み。この程度のこと予測できねば領主は務まらん」
「ほ~、言うねぇって、絶対そこまではわかんないでしょっ」
「あははは、そうだな。さて、無駄話はここまでだ。親父!」
「はっ」
「殿を頼んだ。だが、命を軽んじるな。私は君に怒っている。私から怒りをぶつけられるまで死ぬことは許さん!」
「旦那……」
「返事はどうした!」
「は、はい。もちろんです。旦那から罰を受けるまでこの命、守り切って見せます!」
「よろしい、では、なるべく距離を稼ごう! 行くぞ!!」
私は馬に鞭を振るい、先行する荷馬車隊の後ろを目指す。
後ろからギウ・フィナ・親父がついてくる。
ギウとフィナは親父を挟み込み、何やら声を掛けている。
「親父、私の利子付きの拳があるんだから、命を粗末にしちゃ駄目よ」
「ギウウッ、ギウ」
「ギ、ギウまで拳を作るのかよっ? こりゃ、ここでおっ死んだ方が楽なんじゃ?」
「なんか言ったっ?」
「ギウッ?」
「な、何でもないぜっ。チキショー!」
――十七分後
宗教騎士団は門を復旧して、土煙と共に背後に迫ってきた。
森まではまだ1.5kmはある。
馬車隊の最後尾にいた私は焦りの声を漏らす。
「予測より早いなっ。エクア! 君は森を目指してくれ!」
「わかりました!」
馬車隊はエクアとカリスの代表に引き連れられ、マッキンドーの森を目指す。
私とギウとフィナと親父は馬の足を止めて、迫りくる騎士団の姿を見つめた。
距離はすでに500mを切っている
フィナは私に声を飛ばす。
「ケント、あんたも行きなさい!」
「わかっている。だが、行き掛けの駄賃くらい置いて行こう」
そう言葉を出し、私はホルスターから銃を引き抜く。
その姿にフィナが声をぶつけようとしたようだが、それよりも早く私は銀の瞳を発動させて命中力を高め、引き金を引いた。
――パンパンパンパンパンパン!
大盤振る舞いの六連射――それらは先頭を走っていた宗教騎士団の馬に当たり、馬は前のめりに崩れ落ちる。
後方を走っていた騎士の幾人かがそれに巻き込まれ落馬した。
「この程度しかできないが、後は頼んだぞ。それと騎士団は――」
「できれば殺すな。ですな、わかってますぜ!」
「困難な状況にさらなる困難な条件を付けてすまない」
「今後のトーワとアグリスの関係を見つめれば、命のやり取りは最小限にしたいんでしょう。わかってますって」
「すまないな。それでは、三人とも、絶対に死ぬな!」
私の姿は声の響きとともに、三人から遠ざかる。
フィナはその響きから距離を測り、帯から青色の試験管を取り出して自身の背後に放り投げる。
すると、峡谷に挟まれた街道を横断する氷の壁が生まれた。
これより先、何人たりとも通さぬ壁が……。
――街道
氷の壁を背にフィナと親父は馬から降りて、ギウを含めた三人で百人の宗教騎士団を相手にする。
勝利条件はカリスたちがマッキンドーの森に逃げ込むこと。
それまで、騎士団の命を奪うことなく凌ぐこと。
困難な状況下――その中でフィナは別のことを考えていた。
(ケントが銃を撃った時、距離三百はあった……ハンドガンの最大射程距離はせいぜい五十mほど。その六倍の距離を当て、馬を穿つなんてっ。弾丸は私とワントワーフの設計でそんな力はない。ということは、これは銃本体の力? 一体、あの銃、なんなの!?)
親父が私に駆け寄り、焦りの色を露わとして報告を行う。
「旦那っ、アグリスの宗教騎士団に見つかった!」
「なんだとっ?」
「あいつらの見回りに見つかっちまった。なんとかギウと俺で追い払いましたが、残った奴が騎士団の詰め所に向かい――さほど時間を掛けず宗教騎士団本体が出てきます!」
「なんてことだ。その宗教騎士団は強いのか?」
「ヴァンナスの近衛騎士団と引けを取らないかと」
「……最悪だな。すぐにカリスを荷馬車へ! 歩ける者は自力で歩け。フィナ、門ではなく通用扉を開けろ。馬車程度なら通れる広さがある上に開門まで短くて済む!」
「わかったっ!」
フィナが正十二面体の深紅のナルフを操作して、半島へ続く通用扉を動かす。
扉が開いている間に、老人や子どもを荷馬車に乗せて、馬を操れる者は御者として任せる。
エクアに先頭を任せて、次々に馬車が動き出し、扉を通り抜けていく。
指示が飛ばす中でカリスの代表が声を掛けてきた。
私は指示の手を休めることなく言葉を返す。
「あなたがケント=ハドリー様で? 途中で仲間が見つかってしまい申し訳ございません。せっかく、手を差し伸べてもらったというのに」
「そのことはあとで話そう。本来ならばゆっくりお茶などを振る舞いたいところだが、見ての通り忙しくてな。お茶はトーワに着き次第ご馳走しよう」
「え? ふふ」
「うん、どうした?」
「あ、これは大変なご無礼を。申し訳ございません、想像と少し違う御方でしたので」
「どんな想像をしていた?」
「エクアさんが全面的に信頼を置き、アグリスを敵に回そうとしている方。エムト将軍のように屈強な方だと」
「ふふ、すまないな期待外れで。だが、力はない分、頭は回る。君たちのことはもう二度と、アグリスに手出しはさせない! そう、約束しよう!」
私は振るう手を止めて、自信に溢れる強い言葉と一緒に笑みを代表に見せた。
アグリスの宗教騎士団が出てこようとしている状況下であっても私の笑みを見せる余裕に、彼は少し安心感を得たようだ。
「屈強でなくとも、お強い方なんですね」
「仲間にはへっぽこ呼ばわりされているがな。さぁ、君も扉の外へ! 外に出て4kmほど進み、マッキンドーの森に逃げ込めればアグリスは追ってこれない。そこまでいけば我々の勝ちだ!」
「わかりました。それでは、ご武運を」
代表は近くの馬車の横につき、カリスたちに発破をかけて歩いていく。
全員の姿が扉の先に消えて、私は声を飛ばす。
「よし、全員、通用扉の外に出たな!」
「旦那!」
「ギウギウ!」
「騎士団が来たのか?」
「はい、蹄の音が!」
「そうか。フィナ、私たちも外に出るぞ。出たら」
「扉を閉じろねっ」
「そうだ、行こう!」
私たちが扉を出る。
後ろを振り向くと百騎ほどの騎馬兵がこちらへ向かってきていた。
だが、彼らは通用扉も門も越えることなく、閉じられた門の前で立ち往生することになる。
私たちは各々馬にまたがり、門の前、半島側に立つ。
「フィナ、門や扉はどの程度で復旧する?」
「機構は壊しておいた。それを手動に切り替えるのに二十分くらいは掛かると思う」
「二十分……見通しの悪い夜。借りた馬車はそれほど丈夫ではない。急いだとしても進めてせいぜい3kmくらいか。1km足らない」
ここで、親父が自身の太ももをドンと打って、声を上げた。
「殿は任せてくだせい!」
「親父?」
「こうなったのは俺の責任。それなのに、旦那やエクアの嬢ちゃんに任せっきりで情けねぇ。ですから」
「君一人で百名の騎士団の足止めは無理だろう」
「それでもっ、おれは!!」
「一人じゃなくて、三人ならどうよ?」
「ギウギウ」
フィナとギウが前に出る。
それに私は笑顔で応えた。
「ふふ、そうだな。君たちが揃えば、止められる」
「うん? まさか、もともと私たちに任せるつもりでいた?」
「ぎう?」
「追手が掛かった場合、君たちの出番だと踏んでいた。まぁ、まさか宗教騎士団のご登場となるとは思っていなかったが」
「う~ん、なんだろね。なんか、やることなすこと読んでますってのかムカつくわ~」
「そういうな。領主たる者、天文地理に明るく、万物、魔術、布陣兵法まで知らなければ凡才の極み。この程度のこと予測できねば領主は務まらん」
「ほ~、言うねぇって、絶対そこまではわかんないでしょっ」
「あははは、そうだな。さて、無駄話はここまでだ。親父!」
「はっ」
「殿を頼んだ。だが、命を軽んじるな。私は君に怒っている。私から怒りをぶつけられるまで死ぬことは許さん!」
「旦那……」
「返事はどうした!」
「は、はい。もちろんです。旦那から罰を受けるまでこの命、守り切って見せます!」
「よろしい、では、なるべく距離を稼ごう! 行くぞ!!」
私は馬に鞭を振るい、先行する荷馬車隊の後ろを目指す。
後ろからギウ・フィナ・親父がついてくる。
ギウとフィナは親父を挟み込み、何やら声を掛けている。
「親父、私の利子付きの拳があるんだから、命を粗末にしちゃ駄目よ」
「ギウウッ、ギウ」
「ギ、ギウまで拳を作るのかよっ? こりゃ、ここでおっ死んだ方が楽なんじゃ?」
「なんか言ったっ?」
「ギウッ?」
「な、何でもないぜっ。チキショー!」
――十七分後
宗教騎士団は門を復旧して、土煙と共に背後に迫ってきた。
森まではまだ1.5kmはある。
馬車隊の最後尾にいた私は焦りの声を漏らす。
「予測より早いなっ。エクア! 君は森を目指してくれ!」
「わかりました!」
馬車隊はエクアとカリスの代表に引き連れられ、マッキンドーの森を目指す。
私とギウとフィナと親父は馬の足を止めて、迫りくる騎士団の姿を見つめた。
距離はすでに500mを切っている
フィナは私に声を飛ばす。
「ケント、あんたも行きなさい!」
「わかっている。だが、行き掛けの駄賃くらい置いて行こう」
そう言葉を出し、私はホルスターから銃を引き抜く。
その姿にフィナが声をぶつけようとしたようだが、それよりも早く私は銀の瞳を発動させて命中力を高め、引き金を引いた。
――パンパンパンパンパンパン!
大盤振る舞いの六連射――それらは先頭を走っていた宗教騎士団の馬に当たり、馬は前のめりに崩れ落ちる。
後方を走っていた騎士の幾人かがそれに巻き込まれ落馬した。
「この程度しかできないが、後は頼んだぞ。それと騎士団は――」
「できれば殺すな。ですな、わかってますぜ!」
「困難な状況にさらなる困難な条件を付けてすまない」
「今後のトーワとアグリスの関係を見つめれば、命のやり取りは最小限にしたいんでしょう。わかってますって」
「すまないな。それでは、三人とも、絶対に死ぬな!」
私の姿は声の響きとともに、三人から遠ざかる。
フィナはその響きから距離を測り、帯から青色の試験管を取り出して自身の背後に放り投げる。
すると、峡谷に挟まれた街道を横断する氷の壁が生まれた。
これより先、何人たりとも通さぬ壁が……。
――街道
氷の壁を背にフィナと親父は馬から降りて、ギウを含めた三人で百人の宗教騎士団を相手にする。
勝利条件はカリスたちがマッキンドーの森に逃げ込むこと。
それまで、騎士団の命を奪うことなく凌ぐこと。
困難な状況下――その中でフィナは別のことを考えていた。
(ケントが銃を撃った時、距離三百はあった……ハンドガンの最大射程距離はせいぜい五十mほど。その六倍の距離を当て、馬を穿つなんてっ。弾丸は私とワントワーフの設計でそんな力はない。ということは、これは銃本体の力? 一体、あの銃、なんなの!?)
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