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第十九章 暗闘

3対100

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 宗教騎士団の前衛部隊は魔導騎兵隊。
 彼らは杖に魔力を宿し、フィナが作り上げた壁をフィナたちごと打ち砕かんと迫る。

 
 対するフィナは先端に黄金の魔法石が付いた鞭を握り締めた。
 ギウは銛を構える。
 親父はサングラスを懐へ納め、両腰から剣を引き抜き、二刀を強く握った。
 刃先には彼の身より溢れ出す殺気が伝わる。
 
 それにギウが強く言葉を出した。
「ギウッ」
「っ!? ああ、すまねぇ。つい、気負っちまった。すーはー、そんじゃ、行きますか!!」

 ギウと親父が前へ飛び出す。それと同時に敵は面を埋め尽くす魔法弾を放った。
 フィナは試験管型属性爆弾を正面にばら撒き、面の一部を破壊する。
 その隙間に親父とギウが飛び込み、魔導騎兵たちを薙ぎ払う!

「ぎうううぅ!」
「おりゃぁああああ!」

 フィナも負けじと魔法と属性爆弾を使い大地を揺るがせる。
「止まれ! 馬!!」

 衝撃が大地を伝わり、馬たちの足が止まる。
 それを見計らい、ギウは敵の中心に跳躍し、親父も剣を広げ独楽コマのように体を振るい飛び込んだ。そして、フィナへ声をぶつける。

「俺たちが引っ掻き回す! フィナの嬢ちゃんは壁の死守を頼んだ!」
「わかった! 任せなさい!」


 壁を崩し、その先にいるカリスへ襲い掛かろうとする七騎の騎馬隊がフィナに向かう。
 彼女は騎馬隊に魔法と属性爆弾を飛ばすが、彼らは歯車の印が刻まれた盾を前面に押し出して爆風に包まれながらも突貫してきた。

「チッ、なんて装備なの。魔法防御付加? それならっ」
 鞭を振るい、黄金石をぶつけ盾ごと騎馬隊を吹き飛ばした。
 だが、三騎の騎士は猛然と向かってくる。

「衝撃吸収魔法も付加!? 冗談じゃないっ、いくら何でも装備が豪華すぎでしょっ! ナルフッ!」

 正十二面体の真っ赤なナルフとひし形の青いナルフが螺旋を描き騎士たちの前で強力な光を放つ。
 目が眩んだ彼らの盾の隙間に雷撃の試験管を投げつけて、なんとか彼らを地面へ落した。

「ふぅ~、これがアグリスの宗教騎士団。こんなの相手に手加減して戦うって……ギウ、親父!」


 前方で銛と剣を振るい続ける二人に声を飛ばすが、すでに新たな騎馬がフィナに向かっている。
 彼女は目の前の敵に意識を集める。
 だが、その表情に焦りや恐怖の色は見えない。
 代わりに、前方で暴れる二人の活躍に笑みを見せた。


「ギウはともかく、親父やるじゃん!」



 敵の真っ只中で二人は互いにサポートし合いながら敵の命を奪わずに数を減らし続けていた。
 親父は空を舞うかのように二刀を操る。
 その素早い動きに騎士たちは攪乱され、右往左往としている。
 
 騎士たちがギウに向かって無数の槍を突き出す。
 しかし彼は宙を舞い、重なり合った槍の柄たちを淡い魔導らしき力の宿る素足で踏み込み、穂先を地面に穿たせ、銛を大きく円に振るった。
 次々となぎ倒されていく騎士たち。

 この情けない騎士たちの姿に、騎士団の隊長が声を荒げた。

「何をやっているっ? 相手は二人だぞ! 囲み、押し込め!」
「隊長、壁を守る少女も手練れです!」
「ならば近づく必要はない! 魔導騎兵は女に向かい、距離を取って魔法を撃ち込み続けろ!」


 フィナに向かって放たれ続ける魔法。
 彼女はそれを巧みにかわし続けるが、魔法は後ろの氷の壁に当たり、綻びを見せていく。
 その綻びに五騎が飛び込んだ。
 
 それを見た親父が弾けるような声を出す。
「嬢ちゃん!」
「あれはケントに任せる! あいつの持つ銃なら何とかなるはず!」

 フィナの知るスペック以上の力を見せた銃。
 そして、ケントの射撃技術。
 五騎程度ならば、彼でも抑えられる。
 その期待に応えるように後方から乾いた音が響く。


――パンパンパン、パパン!


「よし、止めたようね。でも、このままじゃっ」

 現在、倒した敵は三十ほど。
 まだ、三分の一も倒していない。
 そうだというのに、精強な彼らと重厚な装備の前にフィナは疲れを見せ始めていた。


「はぁはぁ、これが正規兵。宗教騎士団を名乗るだけはある」
 疲れはフィナだけではない。
 親父もまた同じ。

「おらぁ!」
 騎士の肩を穿つ。
 しかし、別の騎士が親父の胸を切り裂いた。
 
「クッ!」
 辛うじて刃を避けたが、服の切れ端から忌避されし焼き印が零れ落ちた。
 それを目にした隊長が目をくわりと大きく開き、言葉に怒気と嘲笑を乗せた。


「それはカリスの!? 貴様は一体?」
「俺の名はテプレノ。かつて、カリスとしてアグリスにいた男だ」
「かつて……? そうか、二十四年前に脱走したカリスだな。カリスの分際で腕を磨いたようだ」
「いつか、アグリスを潰すために戦場を渡り歩いたからな!」
「偉大なるアグリスを潰すと!? クク、やはり愚かな存在のようだ。さすがはカリスの役目を放棄し、両親を見捨てた非道なる息子!」
「黙れっ」
「あはははは、カリスとは本当に愚かで穢れた存在よ! 愛すべき両親を縛り首に追いやる穢れた存在め、笑わしてくれる!」
「だまれぇぇっ!」


 親父が隊長に向かって飛び出そうとする。
 だが、隊長まで続く道には幾重もの騎兵の壁がある。

 ギウが、彼の無謀な突撃を止める。
「ギウッ!」
 銛が投げられ、親父の足元に刺さる。

「ギウ? はっ、すまねぇ!」

 得物を失ったギウへ騎士たちは襲い掛かった。
 剣と槍が交わり、ギウの胴体を突き破らんとする。
 しかしっ!

「ギウ、ギウギウギウギウギウギウ!」

 素手で全てを受け流し、彼は傷一つ負うことなく悠然と佇み息を漏らし、親父は声を落とすように零す。

「ぎうぅ~~ぎうっ」
「すげぇ……」

 驚嘆すべき動き。
 これには騎士たちも驚きに動きを止める。
 一時いっときとはいえ、戦いを忘れた騎士たちへ、隊長は大気を震わす声を轟かせた。

「貴様らっ、戦闘中に何をやっている!? その魚は上位魔族並みの強さ! 浄化陣で対応しろ!」
 彼の声に騎士たちは放たれた弓のように動き始めた。

 ギウの動きを邪魔するように魔導騎兵が魔法を飛ばし、隙あらば剣や槍が飛び出してくる。
 対するギウは素手。
 さらに、ここにおいてもケントのめいを全うすべく、彼らのいのちを奪おうとしていない。

 そんなギウに対して、フィナが悲痛の声を上げた。
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