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第十九章 暗闘
意外な調停官
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アグリスはトーワの不義を訴え、ヴァンナスへ上奏。
五日後、ヴァンナスより調停官が訪れ、中立地帯であるアルリナで話し合いの場が持たれることになった。
話し合いに参加するのは当事者であるトーワとアグリス。
これに加え、場を提供したアルリナと半島の有力勢力、ワントワーフにキャビット。
この五者で今回の問題に対する落としどころが話し合われる。
さて、ヴァンナスからの調停官だが、私の予想を遥かに上回る短い日数で、『ビュール大陸・クライル半島の玄関口・アルリナ』に訪れたことにはかなりの驚きがあった。
ヴァンナスからアルリナまでは通常の船でひと月以上。アンクロウエンジンのついた高速艇でも十日はかかる。
それを僅か五日で訪れるとは。
さらには……。
仲間たちを引き連れてアルリナへ訪れた私は、会談の場となるノイファンの屋敷の会議室で驚きの声をもって彼を迎えた。
「まさか、君が調停官としてこちらへ赴いてくるとは思いもよらなかった。久しぶりだな、レイ」
「ふふ、久しぶりだね、兄さん」
「まったくアイリと言い、兄さん呼びは止めろと言っているのに」
私は彼と深く抱擁を交わす。
私を兄と呼ぶ青年――名はレイ=タイラー。
ヴァンナスが勇者の一人であり、世界最強の称号を持つ男。
私は久しぶりに会うことのできたレイの姿を銀の瞳にしっかりと宿す。
彼の髪色は、誰もが瞳を惹かれる青みがかったしっとりとした艶やかな黒。風に揺れるようにさらりと流れる髪は光を反射させてリング状に輝く。
瞳も同じく黒の色を見せて、それは邪気を祓うというオニキスのように煌めいている。
背は私より若干高く、落ち着き整った顔立ちは二十四歳にしては少し幼く見えて、まだ二十歳前の青年のように見えるが、それとは裏腹に彼から醸し出される雰囲気には激戦を潜り抜けてきた一人の戦士としての貫禄が備わっていた。
だが、その貫禄は頭を垂れるようなものではなく、敬意を払いつつも、どこか親しみやすいものであった。
これは、彼自身の物腰の柔らかさがそうさせるのだろう。
いつもはヴァンナスを守る剣と盾として、海よりも深い藍色の鎧に太陽よりも熱い紅蓮のマントを背負っているが、今回は調停官としての衣装。
背中と胸元に金で紡いだ天秤の刺繍がしてある紫紺のローブを纏っているのみ。
常に帯刀しているはずの愛用の大きな両刃剣は腰につけていない。
アグリスの代表はまだ到着していないため、私は彼と旧交を温める。
「久しぶりに会えて嬉しいが、わざわざ君が出てくる理由はなんだ? ヴァンナスを留守してもいいのか? しかも、僅か五日でアルリナに訪れるとは?」
「実を言うと、調停官はついでなんだよ。もともと、ビュール大陸に向かっている最中にこの話が舞い込んだから早く来ることができたんだ」
「ん? 以前、魔族退治にやってきたアイリも似たようなこと言っていたような……何か別の任務が?」
「うん。アグリスからの依頼で、ビュール大陸側の魔族の動向を探りにね。最近は世界中で魔族の様子がおかしいからさ」
「そういえば、フィコン様が魔族について本国と相談したと言っていたな。しかし、ヴァンナス最強の剣が出張るところではないだろう?」
「魔族の動向を見極めつつ、アグリスに釘を刺せと。ジクマ閣下、いや、おそらくネオ陛下から命令」
「なるほど、放置気味のアグリスがお痛をしないように、か。ヴァンナス最強の恐ろしさを彼らの身に刻むということだな」
最強を送る。
このことから、ヴァンナスはアグリスへの警戒度を高めていることが伝わる。
さらに、魔族の変化に対する警戒も……。
これらの内に宿る様々な思惑は私もレイをわかっているがそれを表に出さず、談笑のように会話を重ねる。
「身に刻むって、人聞きが悪いなぁ。魔族との戦闘で勇者の頼もしさを見せつけるだけなのに」
「ふふふ、物は言いようだ」
「だけど、釘を刺す前にこんなことになって……兄さん、何をやってるんだよ?」
レイは両手を腰において、声をは~っと、地面に降ろす。
そして、受け取りたくもない酷い伝言を渡してきた。
「兄さんが無茶をしようとしていることに色々と言いたいことはあるけど、先に陛下からの伝言を渡すよ」
「受取拒絶、はできないのか?」
「残念だけど強制的な着払い。いや、内容証明かな」
「はぁ……で、中身は?」
こう尋ねると、レイは陛下の声真似をしながら伝言を渡してきた。
「あっはっは~、やってるねぇ若人。元気があって良し! しっかし、アグリスに喧嘩を売るとはたまげたよ~。大人しく引っ込むかと思えば、大胆大胆」
レイは途中で伝言を止めて、私にだけ聞こえるように耳そば呟く。
「ワントワーフとキャビットと友好関係を結んでいい感じだけど、ちょ~っと甘いかなぁ。フィコンが黙っているからいいものの。ま、功を奏することを願っているよ。頑張ってねぇ」
この言葉を聞いて、私は反吐を漏らす。
「クッ! あの人は私の策を見抜いているのか。なんて人だっ。遥か外に居ながら」
「あの、兄さん」
「どうした、レイ?」
「兄さんはフィコン様と裏で繋がって?」
「いや、互いに利用し合っているだけだ。お互い向いている方向は全然違うがな」
フィコンが調べ車の塔で口にした言葉。
――調べ車の塔はどうも息苦しくてかなわん。もう少し、風通しを良くしたいところだ――
この言葉は二十二議会の影響力を弱め、フィコンの影響力を強めたいということ。
今回の騒動を利用すれば、フィコンにとってその希望が叶う。
そのため、彼女は私の為そうとしていることを、黙して見守っている。
彼女のサノアの力を内包した黄金の瞳とやらはどこまでを見通しているのかわからないが、騒動後、彼女の力が増していれば、今後のトーワとアグリスの関係に無用な緊張は生まれない。
私は十四歳の少女とは到底思えぬ、巨大な影を見つめ、軽いため息をついた。
このため息をこれから行う調停の煩わしさと勘違いしたレイが私を思って調停官らしからぬ発言を行う。
「何をしようとしているか知らないけど、今回の調停。兄さんが望むなら肩を……」
「やめろ、調停官が何を言っている?」
「利用できるものは利用した方がいいよ」
「勇者にあるまじき発言だな」
「綺麗ごとだけじゃ勇者はやれないからね」
「嫌な話だ。だが、今回の調停は中立を保ってほしい」
「でも、それだと結果は……まさか、兄さんの狙いはこの調停を――」
「ねぇ、いつまで私たちをほったらかして話し込むつもり?」
私たちの間に不躾に言葉をぶつけてきたのはフィナだ。
彼女は指先で腰につけた鞭をリズミカルに打ちながら不満を表している。
さらに不満を表しているのは彼女だけではない。
他の仲間たちもだ。
五日後、ヴァンナスより調停官が訪れ、中立地帯であるアルリナで話し合いの場が持たれることになった。
話し合いに参加するのは当事者であるトーワとアグリス。
これに加え、場を提供したアルリナと半島の有力勢力、ワントワーフにキャビット。
この五者で今回の問題に対する落としどころが話し合われる。
さて、ヴァンナスからの調停官だが、私の予想を遥かに上回る短い日数で、『ビュール大陸・クライル半島の玄関口・アルリナ』に訪れたことにはかなりの驚きがあった。
ヴァンナスからアルリナまでは通常の船でひと月以上。アンクロウエンジンのついた高速艇でも十日はかかる。
それを僅か五日で訪れるとは。
さらには……。
仲間たちを引き連れてアルリナへ訪れた私は、会談の場となるノイファンの屋敷の会議室で驚きの声をもって彼を迎えた。
「まさか、君が調停官としてこちらへ赴いてくるとは思いもよらなかった。久しぶりだな、レイ」
「ふふ、久しぶりだね、兄さん」
「まったくアイリと言い、兄さん呼びは止めろと言っているのに」
私は彼と深く抱擁を交わす。
私を兄と呼ぶ青年――名はレイ=タイラー。
ヴァンナスが勇者の一人であり、世界最強の称号を持つ男。
私は久しぶりに会うことのできたレイの姿を銀の瞳にしっかりと宿す。
彼の髪色は、誰もが瞳を惹かれる青みがかったしっとりとした艶やかな黒。風に揺れるようにさらりと流れる髪は光を反射させてリング状に輝く。
瞳も同じく黒の色を見せて、それは邪気を祓うというオニキスのように煌めいている。
背は私より若干高く、落ち着き整った顔立ちは二十四歳にしては少し幼く見えて、まだ二十歳前の青年のように見えるが、それとは裏腹に彼から醸し出される雰囲気には激戦を潜り抜けてきた一人の戦士としての貫禄が備わっていた。
だが、その貫禄は頭を垂れるようなものではなく、敬意を払いつつも、どこか親しみやすいものであった。
これは、彼自身の物腰の柔らかさがそうさせるのだろう。
いつもはヴァンナスを守る剣と盾として、海よりも深い藍色の鎧に太陽よりも熱い紅蓮のマントを背負っているが、今回は調停官としての衣装。
背中と胸元に金で紡いだ天秤の刺繍がしてある紫紺のローブを纏っているのみ。
常に帯刀しているはずの愛用の大きな両刃剣は腰につけていない。
アグリスの代表はまだ到着していないため、私は彼と旧交を温める。
「久しぶりに会えて嬉しいが、わざわざ君が出てくる理由はなんだ? ヴァンナスを留守してもいいのか? しかも、僅か五日でアルリナに訪れるとは?」
「実を言うと、調停官はついでなんだよ。もともと、ビュール大陸に向かっている最中にこの話が舞い込んだから早く来ることができたんだ」
「ん? 以前、魔族退治にやってきたアイリも似たようなこと言っていたような……何か別の任務が?」
「うん。アグリスからの依頼で、ビュール大陸側の魔族の動向を探りにね。最近は世界中で魔族の様子がおかしいからさ」
「そういえば、フィコン様が魔族について本国と相談したと言っていたな。しかし、ヴァンナス最強の剣が出張るところではないだろう?」
「魔族の動向を見極めつつ、アグリスに釘を刺せと。ジクマ閣下、いや、おそらくネオ陛下から命令」
「なるほど、放置気味のアグリスがお痛をしないように、か。ヴァンナス最強の恐ろしさを彼らの身に刻むということだな」
最強を送る。
このことから、ヴァンナスはアグリスへの警戒度を高めていることが伝わる。
さらに、魔族の変化に対する警戒も……。
これらの内に宿る様々な思惑は私もレイをわかっているがそれを表に出さず、談笑のように会話を重ねる。
「身に刻むって、人聞きが悪いなぁ。魔族との戦闘で勇者の頼もしさを見せつけるだけなのに」
「ふふふ、物は言いようだ」
「だけど、釘を刺す前にこんなことになって……兄さん、何をやってるんだよ?」
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そして、受け取りたくもない酷い伝言を渡してきた。
「兄さんが無茶をしようとしていることに色々と言いたいことはあるけど、先に陛下からの伝言を渡すよ」
「受取拒絶、はできないのか?」
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「はぁ……で、中身は?」
こう尋ねると、レイは陛下の声真似をしながら伝言を渡してきた。
「あっはっは~、やってるねぇ若人。元気があって良し! しっかし、アグリスに喧嘩を売るとはたまげたよ~。大人しく引っ込むかと思えば、大胆大胆」
レイは途中で伝言を止めて、私にだけ聞こえるように耳そば呟く。
「ワントワーフとキャビットと友好関係を結んでいい感じだけど、ちょ~っと甘いかなぁ。フィコンが黙っているからいいものの。ま、功を奏することを願っているよ。頑張ってねぇ」
この言葉を聞いて、私は反吐を漏らす。
「クッ! あの人は私の策を見抜いているのか。なんて人だっ。遥か外に居ながら」
「あの、兄さん」
「どうした、レイ?」
「兄さんはフィコン様と裏で繋がって?」
「いや、互いに利用し合っているだけだ。お互い向いている方向は全然違うがな」
フィコンが調べ車の塔で口にした言葉。
――調べ車の塔はどうも息苦しくてかなわん。もう少し、風通しを良くしたいところだ――
この言葉は二十二議会の影響力を弱め、フィコンの影響力を強めたいということ。
今回の騒動を利用すれば、フィコンにとってその希望が叶う。
そのため、彼女は私の為そうとしていることを、黙して見守っている。
彼女のサノアの力を内包した黄金の瞳とやらはどこまでを見通しているのかわからないが、騒動後、彼女の力が増していれば、今後のトーワとアグリスの関係に無用な緊張は生まれない。
私は十四歳の少女とは到底思えぬ、巨大な影を見つめ、軽いため息をついた。
このため息をこれから行う調停の煩わしさと勘違いしたレイが私を思って調停官らしからぬ発言を行う。
「何をしようとしているか知らないけど、今回の調停。兄さんが望むなら肩を……」
「やめろ、調停官が何を言っている?」
「利用できるものは利用した方がいいよ」
「勇者にあるまじき発言だな」
「綺麗ごとだけじゃ勇者はやれないからね」
「嫌な話だ。だが、今回の調停は中立を保ってほしい」
「でも、それだと結果は……まさか、兄さんの狙いはこの調停を――」
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