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第十九章 暗闘
レイと仲間たち
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私たちは内緒話を打ち切り、皆に体を向ける。
「ああ、悪かった。紹介しよう。彼が今回の調停を仕切る、レイ=タイラーだ」
「初めまして、レイ=タイラーです。兄さんがいつもお世話になっております」
彼が丁寧に挨拶をすると、まずはフィナが飛び込んできた。
「レイって、あの勇者のレイよねっ? 遠目でしか見たことがないから、ローブを着てるといまいちわかんない」
「そうかい? 自分でいうのも変だけど、正真正銘のあの勇者レイ。それで君はフィナさんだね。錬金術士の。アイリから聞いてるよ」
「げ、何を?」
「うふふ、色々」
「絶対ろくでもないこと言ってんな、あんにゃろめ~」
フィナは床を蹴り上げて強く踏む。
その様子を見て、レイはさらに笑い声を強くした。
「あははは、想像通りの人だ。それとだけど……」
彼はフィナへ耳打ちをする。
「君がテイローであることは内緒にしておくからね」
「ありがとう、気を使ってくれて。あの、話しを戻すけど、想像通りって?」
「アイリから、とても強く、賑やかな人って聞いてたから」
「強くの評価は許そう。賑やかってのはなんかなぁ~。アイリめっ! ……そのアイリだけど、今は?」
「ガデリで魔族退治の真っ最中。飛行艇ハルステッドの艦長『レイア=タッツ』から魔導通信が届いて戦況を聞いたけど、なかなかうまくいっているみたいだね」
「そうなんだ……ん?」
フィナは、私の顔が歪んでいることに気づいた。
「どうしたの、ケント?」
「別に……」
はてなマークを浮かべるフィナ。
私はそれに答えず無視するが、レイが余計なことをフィナに吹き込む。
「あはは、兄さんはレイア艦長が苦手だからね」
「あ~、それで……で、なんで苦手なの?」
フィナは好奇心を丸出しにして、両目を無駄に輝かせながら尋ねてくる。
それを私がどうかわそうかと悩んでいると、またもやレイが余計なことを吹き込む。
「レイアさんはアイリびいきなんだけど、そのアイリが兄さんに懐いていることが気に食わなくて、よく兄さんをからかうんだよ」
「ああ、そういうこと。でも、ケントなら簡単にかわせそうだけど?」
「いや~、あの人は濃い人だからね。ネオ陛下を引かせるくらいに」
「ええっ!? あのすっとこどっこいの陛下を?」
「すっとこどっこいはちょっと……まぁ、彼女は性にいい加減というか開放的というか、美少年美少女が大好きで、それに兄さんが巻き込まれたことがあるんだ」
「レイっ!」
私はこれ以上の話を許さず、続きを遮った。
それでもフィナは続きを尋ねようとしていたが、銀眼にありったけの殺意を乗せて黙らせてやった。
私は、ひとまずの安堵と疲れの混じる息を吐く。
「はぁ、以前、ハルステッドが訪れた時はアイリが代表として降りたおかげで会わずに済んだのだが、こんなところであの人の話題が上がるなんて……」
と、私がトホホ声を出していると、エクアが恐る恐る言葉を差し入れてきた。
「あ、あの、お話し中すみません。レイ様、よろしいでしょうか?」
「うん、君は?」
「エクアと申します。今はケント様の下でお手伝いをさせていただいております」
「そうなんだ。しっかりそうに見えて、兄さんの面倒は意外と大変だろうけどよろしく頼むよ」
「はい!」
この会話に私はうなだれるように声を漏らす。
「君たちは私をなんだと思っているのだ? それでエクア。レイに何かを尋ねようとしていたのでは?」
「はい。あのレイ様、ガデリは無事なのでしょうか? 私はガデリ出身でして、そのことが気がかりでして」
「ああ、そういうことか。さっき言った通り、うまくいっているみたいだよ。ガデリの戦士たちと、その戦士を纏めているガデリの召喚一族と協力してかなり抑え込んだって。被害はゼロとはいかないけど、多くの人々が救われた」
「そ、そうですか。よかったぁ~」
「討伐もある程度終えたから、あと少しでレイアさんとアイリが率いるハルステッドはヴァンナスへ帰投するはず。その際、トーワに寄ってガデリの詳細な状況を届けるように言っておくよ」
「そ、そんなことまで。ありがとうございます!」
「レイアが来るのか……」
エクアのお礼の響きに、私の声がもの悲し気に交わる。
すると、僅かに生まれた話の空白を見計らって、横からカインとノイファンが飛び込んできた。
どうやら二人はレイのファンのようで、緊張に声を上擦らせている。
「あのっ、私はケント様の下で医者をしているカインです。できれば、握手とサインを!」
「私はアルリナの代表、ノイファン。ヴァンナスが勇者であり最強と誉れ讃えられるレイ様に拝謁できて恐悦至極……私にも握手とサインを」
「はは、お安い御用です。カインさん、ノイファン様」
レイは受け取った色紙にサインをしながら言葉を続ける。
「ノイファン様には話し合いの場を提供して頂いた礼と挨拶を真っ先に行わなければなりませんのに、私事を優先してしまい申し訳ございません」
「そ、そんなこと、まったく気にしておりません! レイ様にこのような片田舎であるアルリナに来て頂いただけでも十分に光栄なこと。いや~、素晴らしい。まさか、あの勇者レイを生きているうちに拝めることができようとはっ」
ノイファンはレイのサインを両手で抱え込み舞い上がっている。カインも同様。
彼らにこんな一面があろうとは……。
次にレイは親父に顔を向ける。
そして、彼は淡々と言葉を出し、受けた親父は緊張に顔を強張らせている。
「黒眼鏡の男……あなたが渦中のカリスですね。アグリスからの上奏とトーワからの弁明の書類に記されていました」
「ええ、その通りです」
「アグリスの状況とカリスの立場。お気持ちは理解できますが、調停の際に感情を交えることはありません」
「もちろん、重々承知しております」
「これは調停官としてあるまじき言葉ですが、ケント様の立場を危うくさせた行い。私としては、これを大きく問題視しております」
「うっ」
レイに睨まれた親父は短い悲鳴を最後に、無言のまま大量の冷や汗を額に産む。
いま彼は、レイから放たれる凍てついた瞳に心から熱を奪われているに違いない。
私はレイの馬鹿な行いを止める。
「レイ、調停官として中立であり、感情を交えることはないのだろう」
「……はぁ、そうだね。兄さんを利用しようとした男。だけど、兄さんはそれを受け入れている。私がどうこう言うことじゃないか」
レイは瞳から冷たさを消して、穏やかな風を纏う。
そして、親父にこう言葉を渡した。
「あまり兄さんに無茶をさせるようなことはしないでほしい」
「もちろんです。今後、そのようなことは絶対に! いえ、それ以上にケント様に尽くし、深く信頼し、礼と謝罪を返したい!!」
彼の熱い思いと鬼気迫る表情。
レイはそれを認め無言で頷き、仲間たちも納得の顔を見せる。
だが、私だけは親父の決意に対して、僅かに顔を歪ませていた。
その顔に誰も気づくことなく、レイはマスティフとマフィンに顔を向ける。
「ワントワーフの長・マスティフ様。キャビットの長・マフィン様。今日はよろしくお願いします」
「うむ、よろしくと行きたいが、今回ばかりはケント殿に騙された経緯がある故に、諸手を挙げて味方するというわけにはいかんな」
「俺もニャ。いや、俺の方は騙した上に領地を勝手に通過した不義理もあるニャっ。こいつを見過ごせばキャビットの沽券に関わることニャ。いくら勇者の知り合いであろうとも、俺たちは俺たちの立場を通させてもらうニャよ」
二人の言葉に、レイはこちらをちらりと見る。
私は無言で頷く。
彼は二人に視線を戻し、淡白な声を返した。
「それは仕方のないことでしょう。どうぞ、長として、種族としての立場をお取りください」
彼は軽く二人に会釈を済まして、次に、私にとって最高の友であるギウへ身体を向ける。そして、蒼と黒の模様が交わり流れるような曲線を描く背中と、光のない真っ黒な目玉を見て、一言落とす。
「美しい……」
「ああ、悪かった。紹介しよう。彼が今回の調停を仕切る、レイ=タイラーだ」
「初めまして、レイ=タイラーです。兄さんがいつもお世話になっております」
彼が丁寧に挨拶をすると、まずはフィナが飛び込んできた。
「レイって、あの勇者のレイよねっ? 遠目でしか見たことがないから、ローブを着てるといまいちわかんない」
「そうかい? 自分でいうのも変だけど、正真正銘のあの勇者レイ。それで君はフィナさんだね。錬金術士の。アイリから聞いてるよ」
「げ、何を?」
「うふふ、色々」
「絶対ろくでもないこと言ってんな、あんにゃろめ~」
フィナは床を蹴り上げて強く踏む。
その様子を見て、レイはさらに笑い声を強くした。
「あははは、想像通りの人だ。それとだけど……」
彼はフィナへ耳打ちをする。
「君がテイローであることは内緒にしておくからね」
「ありがとう、気を使ってくれて。あの、話しを戻すけど、想像通りって?」
「アイリから、とても強く、賑やかな人って聞いてたから」
「強くの評価は許そう。賑やかってのはなんかなぁ~。アイリめっ! ……そのアイリだけど、今は?」
「ガデリで魔族退治の真っ最中。飛行艇ハルステッドの艦長『レイア=タッツ』から魔導通信が届いて戦況を聞いたけど、なかなかうまくいっているみたいだね」
「そうなんだ……ん?」
フィナは、私の顔が歪んでいることに気づいた。
「どうしたの、ケント?」
「別に……」
はてなマークを浮かべるフィナ。
私はそれに答えず無視するが、レイが余計なことをフィナに吹き込む。
「あはは、兄さんはレイア艦長が苦手だからね」
「あ~、それで……で、なんで苦手なの?」
フィナは好奇心を丸出しにして、両目を無駄に輝かせながら尋ねてくる。
それを私がどうかわそうかと悩んでいると、またもやレイが余計なことを吹き込む。
「レイアさんはアイリびいきなんだけど、そのアイリが兄さんに懐いていることが気に食わなくて、よく兄さんをからかうんだよ」
「ああ、そういうこと。でも、ケントなら簡単にかわせそうだけど?」
「いや~、あの人は濃い人だからね。ネオ陛下を引かせるくらいに」
「ええっ!? あのすっとこどっこいの陛下を?」
「すっとこどっこいはちょっと……まぁ、彼女は性にいい加減というか開放的というか、美少年美少女が大好きで、それに兄さんが巻き込まれたことがあるんだ」
「レイっ!」
私はこれ以上の話を許さず、続きを遮った。
それでもフィナは続きを尋ねようとしていたが、銀眼にありったけの殺意を乗せて黙らせてやった。
私は、ひとまずの安堵と疲れの混じる息を吐く。
「はぁ、以前、ハルステッドが訪れた時はアイリが代表として降りたおかげで会わずに済んだのだが、こんなところであの人の話題が上がるなんて……」
と、私がトホホ声を出していると、エクアが恐る恐る言葉を差し入れてきた。
「あ、あの、お話し中すみません。レイ様、よろしいでしょうか?」
「うん、君は?」
「エクアと申します。今はケント様の下でお手伝いをさせていただいております」
「そうなんだ。しっかりそうに見えて、兄さんの面倒は意外と大変だろうけどよろしく頼むよ」
「はい!」
この会話に私はうなだれるように声を漏らす。
「君たちは私をなんだと思っているのだ? それでエクア。レイに何かを尋ねようとしていたのでは?」
「はい。あのレイ様、ガデリは無事なのでしょうか? 私はガデリ出身でして、そのことが気がかりでして」
「ああ、そういうことか。さっき言った通り、うまくいっているみたいだよ。ガデリの戦士たちと、その戦士を纏めているガデリの召喚一族と協力してかなり抑え込んだって。被害はゼロとはいかないけど、多くの人々が救われた」
「そ、そうですか。よかったぁ~」
「討伐もある程度終えたから、あと少しでレイアさんとアイリが率いるハルステッドはヴァンナスへ帰投するはず。その際、トーワに寄ってガデリの詳細な状況を届けるように言っておくよ」
「そ、そんなことまで。ありがとうございます!」
「レイアが来るのか……」
エクアのお礼の響きに、私の声がもの悲し気に交わる。
すると、僅かに生まれた話の空白を見計らって、横からカインとノイファンが飛び込んできた。
どうやら二人はレイのファンのようで、緊張に声を上擦らせている。
「あのっ、私はケント様の下で医者をしているカインです。できれば、握手とサインを!」
「私はアルリナの代表、ノイファン。ヴァンナスが勇者であり最強と誉れ讃えられるレイ様に拝謁できて恐悦至極……私にも握手とサインを」
「はは、お安い御用です。カインさん、ノイファン様」
レイは受け取った色紙にサインをしながら言葉を続ける。
「ノイファン様には話し合いの場を提供して頂いた礼と挨拶を真っ先に行わなければなりませんのに、私事を優先してしまい申し訳ございません」
「そ、そんなこと、まったく気にしておりません! レイ様にこのような片田舎であるアルリナに来て頂いただけでも十分に光栄なこと。いや~、素晴らしい。まさか、あの勇者レイを生きているうちに拝めることができようとはっ」
ノイファンはレイのサインを両手で抱え込み舞い上がっている。カインも同様。
彼らにこんな一面があろうとは……。
次にレイは親父に顔を向ける。
そして、彼は淡々と言葉を出し、受けた親父は緊張に顔を強張らせている。
「黒眼鏡の男……あなたが渦中のカリスですね。アグリスからの上奏とトーワからの弁明の書類に記されていました」
「ええ、その通りです」
「アグリスの状況とカリスの立場。お気持ちは理解できますが、調停の際に感情を交えることはありません」
「もちろん、重々承知しております」
「これは調停官としてあるまじき言葉ですが、ケント様の立場を危うくさせた行い。私としては、これを大きく問題視しております」
「うっ」
レイに睨まれた親父は短い悲鳴を最後に、無言のまま大量の冷や汗を額に産む。
いま彼は、レイから放たれる凍てついた瞳に心から熱を奪われているに違いない。
私はレイの馬鹿な行いを止める。
「レイ、調停官として中立であり、感情を交えることはないのだろう」
「……はぁ、そうだね。兄さんを利用しようとした男。だけど、兄さんはそれを受け入れている。私がどうこう言うことじゃないか」
レイは瞳から冷たさを消して、穏やかな風を纏う。
そして、親父にこう言葉を渡した。
「あまり兄さんに無茶をさせるようなことはしないでほしい」
「もちろんです。今後、そのようなことは絶対に! いえ、それ以上にケント様に尽くし、深く信頼し、礼と謝罪を返したい!!」
彼の熱い思いと鬼気迫る表情。
レイはそれを認め無言で頷き、仲間たちも納得の顔を見せる。
だが、私だけは親父の決意に対して、僅かに顔を歪ませていた。
その顔に誰も気づくことなく、レイはマスティフとマフィンに顔を向ける。
「ワントワーフの長・マスティフ様。キャビットの長・マフィン様。今日はよろしくお願いします」
「うむ、よろしくと行きたいが、今回ばかりはケント殿に騙された経緯がある故に、諸手を挙げて味方するというわけにはいかんな」
「俺もニャ。いや、俺の方は騙した上に領地を勝手に通過した不義理もあるニャっ。こいつを見過ごせばキャビットの沽券に関わることニャ。いくら勇者の知り合いであろうとも、俺たちは俺たちの立場を通させてもらうニャよ」
二人の言葉に、レイはこちらをちらりと見る。
私は無言で頷く。
彼は二人に視線を戻し、淡白な声を返した。
「それは仕方のないことでしょう。どうぞ、長として、種族としての立場をお取りください」
彼は軽く二人に会釈を済まして、次に、私にとって最高の友であるギウへ身体を向ける。そして、蒼と黒の模様が交わり流れるような曲線を描く背中と、光のない真っ黒な目玉を見て、一言落とす。
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